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158.通訳

 大伯父さんを連れてきたじいちゃんは、俺から伝えられたこととその内容の信憑性を話している。


 最初こそ驚いた表情で俺を見ていたのだが、途中からシロを見て徐々に考え込む表情に変わった。


「ふむ……なるほどな……それであれば過去の研究結果ともつじつまも合う、有益な情報だな。他にも聞きたいことがあるのだが……カーリーンよ、シロに伝えてくれるか?」


 頭の中で情報の整理が終わった大伯父さんは、俺にそう言ってくる。


「質問自体は俺を通さなくても直接シロに聞いて大丈夫だよ。シロからの返事は俺が訳す必要があるけど……」


「そうなのか?」


「うん。ちょっと見てて。シロ、いい?」


『うん? 君の言う通りに動けばいいの?』


「そう、おねがい。とりあえず少し下がって」


 俺がそう言うとシロは、柵から出していた頭を引っ込めて1歩分ほど下がる。


「右前足で床を掻いて。そのあと左前脚で2回同じことをして座って」


 シロは俺の指示通りの行動をしたあと、次の指示を待っているかのように座ったまま俺の顔を見る。


 横にいるじいちゃんたちは目を見開いてその行動を見ているので、このくらいで十分だと判断した。


「シロ、撫でてあげるからおいで」


 そう言うと撫でられるのが嬉しいのか、尻尾をブンブンと振りながら立ち上がって、気持ち早めに移動してくる。


「これは驚いた……魔馬が賢いのは知っているが、ここまでの知能があったのか……いや、今まで見てきた魔馬はそうではなかった……これはカーリーンが指示しているからではないのか?」


「シロは特殊個体らしくて、他の魔馬はさすがにここまでじゃないみたいだよ。試しに何かするように言ってみる?」


「あ、あぁ……シロ、下がって1回転したあと、また柵から頭を出してくれ」


 大伯父さんがと言うとすぐに頭を引っ込めたあと、指示通りの行動をして戻って来る。


「なるほど……たしかにこちらの言葉を理解しているようだ……にわかには信じられんが、見せられた以上受け入れるしかないな……」


「そういえばさきほど言っていたことも、人の言葉が分からないとカーリーンに伝えられない内容だったな……驚きすぎて見落としていた……」


 じいちゃんたちは納得したようにそう言うと、お互いの顔を見て頷いたあと大伯父さんが口を開く。


「それでは私が直接シロに聞くから、通訳の方を頼む」


「うん、分かった」


 俺が返事をすると、大伯父さんは横に来てシロに向かって質問をし始める。


「まずは魔力をエネルギー源として活動しているらしいが、魔力があれば食べ物は必要ないのか?」


『活動すること自体には必要ないけど、何も食べないままでいると多少の空腹感は感じちゃうね。今まで野菜を食べることで魔力を摂取してたから、体がそうなっちゃってるんだよ。それに魔力の補充手段がないと結局死んじゃうし』


「ふむ、たしかにそうだな。ということは今まで通りの餌も必要になると」


『そうだね。魔力があればすぐには死なないし私は食べ物の方は我慢もできるけど、他の子たちはその空腹感がストレスになって、暴れたりする子もいるかもしれないから食べさせてくれる方がいいね。まぁうまくいけば量はかなり減ると思うよ』


「なるほど……次にその魔力の補充――と言っていいのか悩むが、魔力を食べられるのであれば、野菜にこだわる必要はないのか? たとえば魔物の肉や、魔力を込めた魔石などはどうだ?」


『体の構造は普通の馬に似てるけど、お肉も大丈夫だよ。大きい塊を嚙みちぎるのは難しいから、ひと口で食べられるようなサイズがいいけどね。あと、魔石は食べさせない方がいいかな』


「それはどうしてだ? いやまぁ、魔石を食べ物として与えること自体おかしな話なのだが……それでも普通の食べ物よりは多くの魔力を取り込めると思うのだが? 単に硬いから砕けないとか、のどに引っかかるとかの理由ではないのだろう?」


『そうだね。まぁ飲み込むときに引っかかる可能性はあるけど、元々体内にある魔石と融合しちゃう可能性があって、どんな変化が起こるか分からないからだね』


「魔力の補充が一気にできたり、それによって単に強くなるとかではないと?」


『そう。拒否反応とでも言えばいいのかな? それが原因で死ぬこともあるし、急に力が湧いてきたことによる戸惑いや感覚のズレからの事故、ひどい場合は暴走という可能性もあるんだよ』


「なるほど……ただでさえ力の強い魔馬が、パワーアップしたうえに暴れるのは大ごとだな……」


 シロからの言葉を聞いて、大伯父さんは苦笑しながら「魔石を与えないように徹底しよう」と言っている。


 そのあとしばらくの間、質問に答えるシロの言葉をそのまま2人に伝え続けた。


「すぐに思いつくのはこんなところだな……問題は今の情報をどのようにして研究員に伝えるか……」


「伝えたところで新たに聞きたいことが出る可能性もあるしな」


 質問タイムは一区切りついたのかなと思っていると、何かを思い出したじいちゃんが再びシロに向き直る。


「……そういえばカーリーンから伝えられたことで気になることがあるのだが……魔力を流せばそれを取り込み元気になると言っておったな? それは通常の状態でも魔道具のように魔力を流せば、それを取り込むことが可能ということか? それともここにいる魔馬たちのようにうまく取り込めないから、"取り込むコツを掴ませるための荒療治"なのか?」


『健康な状態でも流してもらえれば取り込むことは可能だよ。ただ魔力の相性とかもあるから、それぞれ効率は変わってくるけど』


「魔道具のようにはいかないのだな」


『まぁもともとの魔力があるからね。魔道具に使ってるのは極端に言えば"死んだ魔石"みたいなものだし、同じように例えるなら私たちの中にあるのは"生きてる魔石"だからねぇ』


「……そうだな。道具のように言ってしまってすまない」


『いいよいいよ。聞きたいことの内容が内容だからね』


「ありがとう……それにしても魔石の融合という話もそうだし、同じ魔石といえどやはり別物なのだな」


『まぁその子みたいに、魔石の近くに魔力を流してくれれば、コツをつかむ手掛かりにはなると思うよ』


「え、ちょ……」


 俺が魔力を流したことを伝える覚悟はできていなかったので、唐突にそう言われて言葉が詰まってしまう。


「うん? シロはなんと言ったのだ?」


「えぇっと……俺がやったように魔石付近に魔力を流してくれれば、摂取するコツをつかむ手掛かりになる可能性がある的な……?」


「シロに魔力を与えたのか!?」


 俺の言葉を聞いた大伯父さんが、俺の肩を掴んでそう聞いてくる。


 少し離れた位置にいる兄さんたちには聞こえない声量ではあるが、これだけ近くで言われると迫力が凄い。


「シ、シロがお腹すいたって言ってて、試しに流してみることになって……でも暴れない約束もしてくれてたし、今もこうして普通にしてくれてるから……」


「いや、仮にシロが暴れたとしても対処くらいできるだろうからそちらはいい。魔力量は大丈夫か? 気分が悪くなってはいないか?」


「え? う、うん。俺は平気だよ?」


 無断で魔力を与えたことより、俺の体調の心配をしてくれていたことに少し困惑しつつそう答えると、大伯父さんはホッとした表情で「そうか」と言って手を離す。


「ということは、シロは今は大人しいが、体調的には元気な状態なのだな」


「……なぜおまえはそこまで平然としているのだ……孫が魔力を与えたと言っているのだぞ。魔法が得意だとはいえ、不安にならんのか……」


 大伯父さんはそう言いながら怪訝な表情で、俺の言葉を冷静に分析しているじいちゃんを見る。


「カレアが言うには、カーリーンはすぐにカレアを超えるほどの魔力量になると言っていたからな。魔力量もすでに相当多いのだろう。それに今まで魔法の稽古でかなり魔力を使っているのを見てきたからな。だから多少消費したところで、魔力枯渇の心配はないと分かっている」


 じいちゃんはどこか困ったような表情でそう言いながら俺を見る。


「なんと……この年でそれほどなのか……」


 そう言って大伯父さんに驚かれていると、兄さんと職員さんがこちらに向かってきた。

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