156.魔馬の生態
じいちゃんたちにシロの声が聞こえることを伝えるかどうかはあとで考えるとして、他にも聞きたいことがあったので聞いてみることにした。
「ここにいる魔馬たちって元気がないみたいだけど、何か病気とかだったりするの?」
『今ここにいる子たちは病気ではないから安心していいよ。みんなお腹がすいてるだけだから。まぁこのまま色々と悪化して、餓死に近い形で亡くなる子もいなくはないけど……』
「さすがにほかの魔馬と意思疎通はできるか。俺には分からないけど……というか、シロたち魔馬は食べる量がすごく多いって聞いてるけど、今の量じゃ足りないってこと?」
『足りないといえば足りないんだけど、食べる量にも限界はあるしねぇ……』
――うん? 食べる量が足りないのに、食べられないってどういうことだ?
俺がその理由を考えていると、シロがその答えを教えてくれる。
『ちょっと認識のズレがある気がするから言うけど、私たちは魔力を食べて活動してるんだよ。一応モンスター扱いだしね』
「んえ? そうなの? いや、シロが言うならそうなんだろうけど……」
『そう。ご飯に野菜を貰ってるけど、その野菜に含まれている魔力を取り込んでるんだよ』
「そんなの初めて聞いた……まぁ大気中にも魔力はあるし、野菜とか食べ物にも魔力が含まれててもおかしくはないか」
『そういうことだね。んでここにいる魔馬たちは、食べ物からうまく魔力を摂取することができない子たちって感じかな?』
「うまく取り込めないから空腹で元気がない。でも胃袋にも限界はあるから、満足のいく量の魔力を取り込む前に物理的にお腹がいっぱいになってしまう、と」
『そうそう。まぁ私以外のここにいる子たちはまだ若いから、これから効率よく吸収するコツをつかんで、元気になる子も多いんだよ』
「そうなると、シロの場合は?」
『私の場合は吸収するコツはもちろん掴んでるよ? でも蓄えられる魔力量が多すぎるせいで、ぜんぜん満たされないんだよ……』
「なるほど……お腹がすいてたら力が出ないしね。本能的にも無駄なエネルギーは使わないようにしてるから、走ったりもしないわけだ」
『力といえば、私たちの体内には魔石があるのは知ってる?』
「ま、まぁモンスターには大体あるし、シロたちにあっても不思議じゃないもんね」
『私たちはその魔石にためた魔力で普段の活動や、【身体強化】を使ったりしてるんだよ』
魔馬が力強い理由を知って驚く。
――なるほどなぁ……モンスターだからそういうものだと思ってたけど、まさか強化魔法を使ってるとは……魔馬を【魔力視】とかで見たことなかったから気づかなかった。
そう思った俺はシロたちの魔力を見てみるが、元気な状態の量が分からないので、少ないかどうかすら分からなかった。
「あれ? 体内に魔石があって魔力を食べるなら、魔力を流してあげれば元気になるってこと?」
『うぅ~ん……過去に試してくれたこともあるんだけどねぇ。取り込もうにも魔力の相性もあるし、そもそもここにいる子たちは、うまく魔力を取り込めないからこうなってるわけで……』
――そうか、他人に魔力を渡すのも難しいって言ってたもんな。魔道具に魔力を充填するのとは違うよな。
「まぁそっちに問題がないなら、魔力を流してみようか?」
俺は魔力量には自信があるし、魔力を流すことでシロに害がないなら試してみようと思ってそう提案する。
『え、君そんなこともできるの? 君の魔力はいい匂いで美味しそうだから、やってみてほしいな』
さっきまでは空腹だからか、どこかボーッとしているような抑揚があんまりない声だったのだが、今は魔力が食べられる可能性があるので、期待しているような声である。
「美味しそうって……さっきも言ってた"いい匂い"って食べ物的な意味だったのか……まぁ、流してみるけど、もし取り込めて元気になったとしても、いきなりはしゃいだりしないでね? 何事かと思ってみんな集まっちゃうから」
『うん。分かったよ』
「それじゃあ、流すね」
そう言ってシロの頭を撫でるように手を置いたあと、魔力操作の稽古のときにやっているように魔力を流す。
人に流すときと違ってシロには体内に魔石があるおかげか、魔力を蓄える場所が明確に分かる。
――魔道具の魔石は、魔力を通せばほとんど自動で吸い取ってくれるみたいだけど、この体内の魔石に向かって流せば無駄がなくなるのかな?
そう思った俺は、なるべく魔石の付近に魔力が流れるようにすると、魔石に魔力が集まっていくのが分かった。
その間、シロは魔力を取り込むことに集中しているのか目を閉じていたのだが、途中で目をゆっくりと開いて話しかけてきた。
『うん……うん! お腹いっぱいだよ! 初めてだよ、満腹っていう感覚は! それにやっぱり君の魔力は美味しいね!』
「そ、それはよかったけど、落ち着いてね」
さっきまでと違い、ハイテンションなシロの声に驚きつつ注意をしておく。
――それにしても久しぶりに"魔力が減った"って感じるくらいには使ったな……まぁ感覚的にまだまだ余裕はあるんだけど、これだとシロの魔力量も相当多そうだな……。
『うん。約束は守るよ、ありがとう。これなら1ヶ月は何も食べなくても元気に動けそう』
「そんなに燃費いいんだ……」
『そりゃあ、普通は野菜から摂取できるわずかな魔力量でやりくりできるんだよ? ただでさえ魔力容量の多い私ならそれくらい余裕だよ』
――それはそうか……他の魔馬はそうやって生きてるんだもんな。
「ちょっと重いことを聞くんだけどさ……魔馬って自ら活発に動かなくなってから短い期間で死ぬって話だけど、やっぱり死因は魔力不足による餓死なの?」
『いや、全員がそういうわけじゃないね。というかうまく食べ物から魔力を摂取できるようになると、消費の方も自然とそれに合わせられるようになるから、よっぽどのことがないと餓死はしないかな』
「よっぽどのこと……ご飯をあまりもらえなかったとか?」
『そうなればもちろん餓死しちゃうけど、ご飯の魔力量が極端に少ないとか、調子に乗って【身体強化】をかなり強めに使い続けたりとかかな』
――前者は栽培地域とかによって変わりそうだけど、後者は完全に自爆か……。
『それに私たちはモンスター扱いされてるけど、普通の馬のように病気になったりもするからね。それが死因になることもあるし、普通に老衰もするよ。まぁそれでもギリギリまで元気に走り回れるのは、魔力による強化とかのおかげかな』
「なるほどねぇ……」
『……ねぇ、君はそこの人たちに、私の言葉が分かるってことを知られるのを避けてるみたいなんだけどさ……魔力をくれた君が嫌がることはしたくないんだけど……私との話を伝えて、他の子たちも助けてくれないかな』
シロは俺があまり騒ぎになることを望んでいないと察してくれているようで、遠慮気味にそう言ってくる。
『もちろん、今のままでも元気になる子は多いから、嫌なら断ってくれてもいいからね。断られたからといって、ここで暴れて君に迷惑をかけるつもりもないし』
シロはさらに俺の気持ちを尊重してくれるように、そう付け加えてくれる。
――うぅ~ん……たしかに今まで俺みたいに言葉が分かる人がいなかったのなら、魔力関係のこととか色々と新情報もあるだろうし……それを伝えるということは、目立ってしまって厄介事も来る可能性もあるけど……今でも魔力不足が原因で死んでしまう個体もいるみたいだし、助けられる可能性があるなら助けてあげたい。
そう決意した俺は、シロに「分かったよ」と伝えてじいちゃんに近づいた。
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