153.飼育場に到着
飼育場へ向かうのは、じいちゃんと大伯父さん、それに兄さんと俺の4人なのでナルメラド家の馬車1台で向かうらしい。
正確にはシドも一緒に行くのだが、馬車には乗らずに近くを走って移動するようだ。
魔法や気力もあるので、先王陛下の護衛なのだからそのくらいは余裕なのだろう。
――王都に来る途中で父さんたちも"体を動かしたい"って言って同じようなことしてたしなぁ。それに護衛だから馬車に乗らずに周囲の警戒をしてるのかな。他の騎士団の人とかもいないし……まぁ他の護衛がいないってことは、王都の外だといっても割と近いらしいし安全な場所なんだろうな。
じいちゃんの所の執事であるセージスが御者をする馬車に乗ってそんなことを考えていると、ゆっくりと馬車が動き始めた。
席はじいちゃんの両サイドに兄さんと俺が座っても余裕はあるのだが、みんながゆったりと座れるようにじいちゃんと兄さん、大伯父さんと俺が並んで座っている。
「今日は時間があまりなかったからか、そこまで姉さんたちに絡まれなくてよかった……」
「あはは、たしかにね」
俺がホッとしたように息を吐きながら言うと、正面に座っている兄さんが苦笑しながら同意してくる。
出発ギリギリになるまで姉さんたちに捕まってはいたが、時間が短かったことと、せっかく着飾ったドレスが着崩れしないようになのか、普段より控えめだったのでそう思う。
「あれで普段より控えめだったのか?」
その状況を微笑ましく見ていた大伯父さんがそう聞いてくる。
「うん……あのテンションのままエスカレートしていくと、俺が姉さんの服を着ることになってた可能性もあるね……」
遠い目をしながらそう答えると、大伯父さんは愉快そうに笑う。
「ふはははは。まぁこう言っては何だが、おまえなら似合いそうだなぁ」
もう自分の見た目は分かっているし、その手の話は諦めている。
――実際ワンピースのような見た目の寝巻を着た自分の姿を見て、ほとんど違和感がなかったからなぁ……人から見てもそう思われるのは仕方ない……。
そんな他愛もない話をしていると王都の外周の門に着いたようで、セージスが何かの書類を見せると、門衛は緊張した様子で敬礼して、俺たちが乗った馬車を見送った。
俺の方向感覚が間違っていなければ、来たときは東門だったが、今回は北門をくぐって王都を出る。
「その飼育場ってどれくらいで着くの?」
壁の外に出ることなんてそうそうないので、窓の外を眺めながらワクワクする気持ちを感じつつそう聞く。
「ここからだと15分程度だな」
――馬車の移動速度を考えると、たしかにそこまで離れてないんだなぁ。
「この近くには牧場とかはないの?」
「うん? どうしてだ? 行ってみたいのか?」
俺の唐突な質問に、じいちゃんが不思議そうな表情で聞き返してくる。
「いや、魔馬って一応モンスター扱いみたいだし、実際近くで見たら圧が凄かったから、普通の動物は怖がったりしてなにかしら影響が出そうだなぁって」
「ふははは。たしかにそうだな。だからこちら側にそういう牧場はないな。飼育場自体もこの街道を途中で曲がり、林の中を進んだ先にある」
――なるほど。さすがにそんな生き物の飼育場が街道沿いに作られてるとは思ってなかったけど、林を壁にして見えにくくもしてるんだなぁ。
「今回向かう飼育場には、魔馬の子供もいるのですか?」
「あぁ、いるぞ。見せてもらえるようにしておこう」
「ありがとうございます!」
知的好奇心の強い兄さんは、大伯父さんの言葉に目を輝かせている。
――魔馬の子供といっても、元がでかいから思ったより小さくはなさそうだな……いや、1年で成体になるほど急成長する生物だし、普通とは違う可能性もあるか。
そんなことを考えながら馬車の外を見ると、同じ鎧を着た2人組がこちらに敬礼している横を通り過ぎた。
「騎士団の人が警邏してるんだね」
「あぁ。商人などは東西南北あちこちから来るが、こちらは他国へつながる道でもあるうえに、魔馬は軍事にも使用することがあるからな。というかよく騎士団だと分かったな?」
「鎧が立派で同じような装備だったからそうかなぁと。あとこっちに向かって敬礼してたし……」
「ふはは。なるほどな。たしかにそれはそうだ。冒険者やハンターでもチームで同じ装備にするものもいるが、敬礼するのは騎士団くらいなものだしな」
「それにしても今乗ってるこのじいちゃんの馬車って、装飾もほとんどないシンプルな見た目なのに、よくわかったね……」
今回乗っている馬車は、オルティエンに来た時に乗っていた馬車で、外見だけでは"多少いい素材の馬車"くらいにしか見えないものだ。
それなのに、馬車が横を通り過ぎる少し前から整列して敬礼していたので、不思議に思ってそう言った。
「まぁ御者がセージスだからな。私が飼育場へ向かうときは必ずセージスが御者をやっているし、そこで判断したのだろうな」
「あ、それもそうか……」
「しかし、よく見ておるな」
「カーリーンはこうやって、いつの間にか知識を得ているとカレアが言ってたからなぁ。それだけ周りを見ているなら納得だ」
――悪くとらえると"落ち着きがない"って聞こえなくもないが……少しは自覚もあるけど、気になるんだから仕方ないよね! まぁ2人の表情をみると、そういう意味は全く含んでないみたいだし、なんなら色々聞かれて喜んでる感じさえするしな……。
じいちゃんと大伯父さんに微笑ましく見られて少し気恥ずかしくなったので、外に視線を向けて風景を楽しむことにした。
大伯父さんの言ったとおり街道を途中で曲がり、林の中を少し進むと急に木々が開け、木製のしっかりとした壁に囲まれた施設が見えてきた。
「おぉ……もっと牧場みたいな雰囲気かと思ってた……」
「ふはは。まぁ内部はそんな感じだが、いるのが魔馬だからな。あの壁くらいなら飛び越えることもできるんだぞ?」
「あの壁って3メートルほどあるように見えるんだけど!? というか、そうなると目隠し目的の壁なの?」
大伯父さんの言葉を聞いて、魔馬の身体能力に驚きつつ質問する。
「まぁ大体がそうだが、王都に近いといっても林や森も近いからな。防衛の意味もある。もっともこの辺りに出るモンスターなど、魔馬は一蹴できるし、そもそも魔馬の気配でそうそう寄ってこないがな」
「なるほど……でも逃げたりはしないの?」
「やつらは賢いからな。餌も貰えて寝床もある快適な場所から逃げたりはしない。一応他にも対策はとってあるから、壁が壊されない限りは万が一もないな」
――そりゃそうか……しっかりとした対策なしで、そんなモンスター扱いのものをこんな王都の近く、しかも割と街道とも近い場所で飼育しないよな。
あらためて壁をみると、上部にところどころ魔道具らしきものが見えるので、それが"他の対策"だと推測して納得する。
そうしていると、王都の北門と同じように門番が敬礼している横を通り過ぎて施設の中に入った。
外観で分かっていた通り、壁の内側は小さな村が入りそうなくらい広い。
しかし、魔馬の飼育場というだけあって、敷地のほとんどが放牧場で占められており、建物の数はそれほど多くない。
といっても、体が大きくなる魔馬の馬房もあるので、1つ1つの建物はそこそこ大きいのだが。
「うわぁ! ひろいですね!」
兄さんが珍しくテンションをあげて、見通しのいい施設内を見てそう言う。
「そうだろう? さて、少し手続きもあるから、まずは管理棟に行くとしよう」
そんな兄さんの様子を微笑ましく見ながらじいちゃんがそう言い、みんなで馬車を降りた。
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