152.ドレスのお披露目
リビングの前に到着し、大伯父さんが先頭になる並びでドアを開ける。
父さんたちは席を立って待機していたようで、ドアが開ききるのと同時に頭を下げた。
――母さんが呼ばれたときに、大伯父さんが来てるって聞いてたのかな? 父さんなら気配察知で分かったと言われても驚かないけど……。
「楽にしてくれ。ここは王城ですらないのだからな」
大伯父さんがそう言うと父さんたちは、「はっ」と返事をして頭をあげる。
父さんと兄さんは少し緊張しているようだが、姉さんは教えられてはいたが大伯父さんと会うのは初めてなので、じいちゃんと瓜二つな容姿に目をパチクリさせて2人を交互に見ている。
「話し方ももっと砕けたものでいいのだが……まぁおぬしは変えないのだろうな」
「さすがにそのようなことは私には……」
大伯父さんの言葉に、父さんは苦笑しながらそう答える。
父さんは今までも何回か王都に来ているため、そのときにも同じような話をしたことがあるのか、大伯父さんはどこか諦めたような表情だ。
「まぁ無理強いするものでもないしな」
「陛下には幾度となく助けられておりますので」
「ふはは。そう言うのであれば、私の方こそおぬしに助けられておるぞ。特に魔龍の件では国がなくなる可能性すらあったのだからな」
「ソレに関しましては私だけの力ではないので。そのときも陛下には手助けしていただいておりますし」
「当たり前のことをしたまでだがな。っと、そちらが今回のパーティーに参加する娘か」
「はい。ほら、エル、挨拶を」
「お、お初にお目にかかります。フェデリーゴ・オルティエンの娘、エルティリーナです」
父さんに自己紹介をするように促された姉さんは席を立ち、緊張している様子ながらもきちんとした挨拶をする。
――あらかじめ先王陛下だと教えられていると、じいちゃんと見分けがつかないほど似ていても緊張はするよな……あれ? そういえば俺ってまともな自己紹介してないな……。
「親に似て凛々しくもあり、可愛らしくもあるな。そのドレスも似合っているぞ」
「あ、ありがとうございます」
大伯父さんに褒められた姉さんは、照れくさそうにお礼を言いつつ再び席に座る。
「それで……カーリーンがヒオレス様を呼びに行ったあと、さらにカレアまで呼ばれたのは……なにかあったのでしょうか?」
父さんは不安そうな表情でそう聞きつつ、俺の顔を見る。
「いいや。まぁ何かあったと言えばあったのだが、不安になることはないぞ。私とカーリーンが仲良くなっただけだ。なあ?」
「う、うん」
大伯父さんに唐突に同意を求められたが、実際仲良くはなれたと思うのでそう返事をする。
「まぁあとでカレアから事情を聞くといい。少なくともカーリーンは私のことを、"大伯父さん"と呼ぶくらいには親しく接してくれるようだし、私は嬉しいぞ。カレアも相変わらず"伯父さま"と呼んでくれるし、子供たちも私のことは、カーリーンのように"大伯父さん"と呼んでくれていいのだぞ?」
大伯父さんのその言葉を聞いて、父さんはもちろん、しっかりした貴族教育を受けている兄さんも、苦笑しながら返答に困っているようだ。
姉さんはそこまでの勉強はまだだからか、どう反応していいのか分からないようで、母さんや大伯父さんの顔色を窺っている。
――大伯父さんはからかうつもりではなく、これは本気で言ってるようだしなぁ。じいちゃんと瓜二つだとはいえ、先王陛下にいきなりこう言われたら戸惑うよな……俺の場合は直前の事件もあってちょっと接しやすく感じちゃったからなぁ……。
「ちなみに、アリーシアも私のことを"大伯父さん"と呼ぶぞ?」
「で、では、大伯父さまと呼ばせていただきます」
姉さんが緊張しながらそういうと、大伯父さんは満足そうに頷く。
「普段から丁寧な言葉づかいをするアリーシアさんが、先王陛下をそう呼ぶのって結構珍しい気がする……とくに伯父さんがそういうのはしっかりと教えてそうなイメージだったんだけど……」
「カーリーンが伯父さんということは、ジルネストか」
「ふふふ、お兄さまも伯父さまによくからかわれていたからねぇ。多分諦めてるんじゃないかしら?」
――諦めているとは……大伯父さんがちょっとイタズラ好きなのも知っているし、身内だけのときくらいは、気を休めたい気持ちも分かるからなのかな……俺にも"伯父さん"呼びを許可してるし。
そう思っているとドアがノックされ、近くに居たメイドさんが話を聞いている。
「さて、アリーシアの準備も終わったようだから移動しようか」
さらにその伝言を受け取ったじいちゃんがそう言いながら席を立つ。
大伯父さんも一緒に行くようで、みんなで隣にある本邸へと向かった。
案内されたリビングのドアを開けると、華やかなドレスを身に纏ったアリーシアと、イリス伯母さんが待っていた。
こちらでも大伯父さんが来ることはあらかじめ伝えられていたようで、2人は頭を下げていたが、大伯父さんの言葉を待たずに顔をあげて挨拶をしている。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
「あぁ、急な訪問ですまないな」
「ふふふ、陛下が急じゃない訪問をしたことの方が少ないのでは?」
伯母さんが笑いながらそう言うと、大伯父さんは笑いながら口を開く。
「はははは、たしかにここに来るときはそうかもしれん」
――ちょっとした嫌味に聞こえなくもないけど、2人の表情を見ると"親しいからこそ出てきた言葉"って感じだな。というか、そう言われるくらい来てるんだな。
「アリーシア可愛い!」
「エルも大人っぽくてキレイね!」
大人たちの会話は置いておいて、姉さんとアリーシアはお互いのドレス姿を見てキャッキャと話している。
「カレアは本当に昔と変わらないわねぇ。こういう場だから言うけど、可愛らしくて羨ましいわ」
あまり公の場で既婚の、それも子供のいる女性に対して"可愛い"というのは失礼に当たるのか、伯母さんは前置きをしたうえで母さんをそう褒める。
「ありがとう。そう言うイリスも、すごくキレイなままじゃない」
「ふふふ、ありがとう」
母さんは可愛らしさのある美しさなのに対し、伯母さんのドレスはスラッとした暗色で、明るい金髪が美しく映えており、大人びた凛とした美しさがある。
――アリーシアさんは華やかな可愛いドレスだし、お互いの親のドレスのイメージと逆だなぁ。まぁ姉さんは改造したヘッドドレスをつけたことで、試着時より可愛いイメージに寄ったけど。
お互い色違いのリボンをちゃんと付けていることを、楽しそうに確認し合っている姉さんとアリーシアを見ながらそう思う。
「あ、ほら、曲がっているわよ」
そう言ってばあちゃんが姉さんのヘッドドレスを直しに行く。
女性陣がお互いのドレスの感想などを楽しそうに話しているのを、大伯父さん含む男性陣は邪魔をしないように微笑ましく見ていた。
といっても、途中で俺は姉さんとアリーシアに感想を言わされるために引っ張られていったので、正確には"俺以外の男性陣"ではあるが。
しばらくそんな状態で話をしていると、時間を確認したじいちゃんが口を開いた。
「さて、そろそろ時間だな」
その言葉にそれぞれが返事をして玄関に向かう。
姉さんたちが先に出発するようで馬車を見送ったのだが、最後まで姉さんとアリーシアは魔馬の飼育場に行く俺たちを羨ましそうに見ていた。
最後の最後で母さんに「問題を起こさないように気をつけなさいね」と注意をされてしまったが、書斎のことを考えると仕方ないと思う。
「さて、私たちも向かうか」
じいちゃんが俺と兄さんに向かってそう言うので、元気に返事をした。
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