147.じいちゃんち
すみません、体調崩してて遅くなりました……。
翌朝、目が覚めたあといつものように朝食を食べ、ざっくりと今日の予定の話を聞いてからすぐに、姉さんはパーティー用のドレスに着替えるために、母さんとリデーナと一緒にリビングを出て行った。
パーティー自体は昼前頃からなのだが、ドレスに着替えるのにそこそこ時間もかかるうえに、その前にナルメラド家に寄ったりする必要もあるので、こんな時間から準備を始めている。
「父さんは着替えなくていいの?」
パーティーには両親も参加するので、母さんは多分姉さんと一緒に着替えてくるのだろうと思うが、兄さんと俺と一緒にリビングでゆったりとしている父さんは、いつもと変わらない服装のままである。
「いや、あとで着替えるぞ。俺はカレアたちと違ってそこまで時間もかからないから、2人の姿を見てからでも十分間に合うからな」
どうやら俺の予想は当たっていたようで、母さんも一緒にドレスに着替えてくるらしい。
――父さんが2人のドレス姿を見てから着替えるって言ってるのは、姉さんのドレス姿を早く見たいからかな? ドレスを選ぶときは一緒にいたらしいけど試着のときはいなかったし、完成してから着てないから実際見るのは初めてだもんな。
兄さんと俺もじいちゃんのところにお世話になるので、本来であればそれなりにキッチリした服装を求められるはずだったのだが、魔馬の飼育場へ出掛けることになったので普段着のままである。
しばらく話をして2杯目のお茶を飲み終わる頃にドアがノックされ、リデーナの声がしたあとドレスに着替えた母さんたちが入ってきた。
母さんはこの間お茶会に参加したときには、さすがに多少飾り気のあるドレスを着ていたが、今回は国主催のイベントということで、さらに華やかなドレスを身にまとっている。
一緒に入ってきた姉さんは、母さんのドレスの印象と正反対とまではいかないが、大人っぽい赤いドレスを身にまとい、長い髪を下ろしてヘッドドレスをつけている。
「おぉ! 2人ともキレイだぞ!」
「ふふ、ありがとう」
「あ、ありがとう」
普段"キレイ"と言われ慣れていない姉さんは照れながらお礼を言って、慣れない服装のためゆっくりといつもの席に座る。
「本当にキレイだよ、エル。髪を下ろしてるの珍しいけど、それもまたいいね」
「カーリーンに、こうした方が似合うって言われたからね」
兄さんが微笑みながら褒めると、姉さんはやはりヘッドドレスに違和感があるのか、軽く髪触りながらそう言う。
「そうなんだ?」
「……よく覚えてたね……」
「ドレスと一緒にこのヘッドドレスも買ったんだし、忘れるわけないでしょ?」
「それはそうか……」
仕立て屋での話でこの髪型になったことは、今言われるまですっかり忘れていたが、それを言うと不機嫌になりそうなので黙っておく。
「しかし、実際に見てみると、すごく大人びて見えるな……ライのときにはあまりいなかったから目立ちそうだ……」
「ふふふ、自分の娘ながらに本当にキレイだもの。きっとたくさん話しかけられるわよ」
娘に変なのが近づかないか心配そうな父さんとは対照的に、母さんは嬉しそうにそう言っている。
――自分は貴族の集まりとか苦手なのにな……まぁ今回は子供同士がメインだし、それとこれとはまた違う話か。
「ちょっとヘッドドレスをいじってたから遅くなっちゃったけど、キレイでしょ?」
父さんにそう言っている母さんの言葉を聞いて、改めて姉さんのヘッドドレスを見てみると、昨日買ったばかりのリボンで追加装飾されていた。
アリーシアと"おそろいでつけよう"と言っていたリボンはそれぞれの目の色のものを買ったため、もともと赤地のヘッドドレスの色合いとも似ており、違和感もなく合っている。
――むしろリボンが追加されて華やかさが増したか? というか、改造はリデーナがやったんだよな? いくら母さんでも、さすがにこの短時間でここまでできるとは思えないし……。
「ほぉら、ライたちをお父さまの所まで送らないといけないし、エルのドレス姿も早く見せてあげたいから、あなたも準備してきたら?」
少し話をしたあと、母さんにそう言われて着替えに行った父さんは、さっき言っていた通りすぐに戻ってきた。
それなりにキッチリした服を着ている父さんはなかなか珍しくはあるが、母さんと並ぶと飾り気はかなり少ない。
「結構シンプルな服でいくんだね?」
「ははは。まぁ、カレアたちと比べるとどうしてもそう見えるだろうが、武闘派の貴族たちはみんなこんなもんだぞ?」
率直な感想を言うと、父さんが笑いながらそう言っているが、母さんも特に何も言わないので本当のことなのだろう。
――そんなのものなのか。何かの授与式的とか、それこそ爵位を貰ったときとかは、もっとちゃんとしたものを着てたのかな?
かなりガタイのいい父さんがフリルや謎の紐など、ゴテゴテの装飾のついた服を着ている姿が全く想像できない。
――今にも弾けそうになってるキッチリとしたシャツを着ている姿なら想像できてしまうのは、普段の稽古姿や、じいちゃんたちとの試合とかを見てるからだろうな……そういえばじいちゃんで思い出したけど、じいちゃんが着ていた軍服のようなものなら似合いそうだなぁ。
そんなことを考えていると、いつの間にかいなくなっていたリデーナが馬車の準備ができたと報告に来たので、みんなで玄関に向かう。
まだパーティー会場へ向かうわけではないからか、姉さんは少しも緊張している様子はなく、むしろドレス姿のアリーシアと会えることを楽しみにしているように話しながらナルメラド家へ向かう。
ナルメラド家の敷地へ入って玄関先に到着すると、執事さんが待機していた。
――やっぱり魔法か魔道具を使って門番の人から連絡貰ってるんだろうなぁ……タイミングが完璧すぎる……。
執事さんから挨拶をされたあと、説明を聞きながらそう思う。
「ただいまイリス様とアリーシア様は準備をしておられますが、こちらで待たれますか?」
「お父さまはこっちに来ていないの?」
「はい、今日の準備があるからと、一度戻られております」
「それじゃあ、先にお父さまたちにお披露目しましょうか」
「かしこまりました。また後程ご連絡いたします」
そう話をしたあと、ナルメラド家の敷地内にあるもう1つの屋敷の前に向かう。
ここ数日はナルメラド家に来ることもあり、そのときにじいちゃんの家も少し案内してもらっている。
ナルメラド家本邸と比べるとさすがに小さいとはいえ装飾は立派で、じいちゃんとばあちゃんの2人だけと考えるとかなりな広さではある。
そんな凝った装飾が施されている玄関に着くと、メイドさんが待機しており、そのままリビングへと案内された。
お茶を用意してもらっているとドアが開き、ばあちゃんと執事さんのセージスが入ってきた。
「まぁまぁまぁまぁ! エル、すごくキレイよ!」
入って来て着飾った姉さんを見ると、興奮した様子で姉さんに近寄って褒めている。
せっかくヘッドドレスまで着けているので、もちろん撫でるなどの行為はしていないが、その分口で褒めちぎられて、姉さんは珍しく顔を真っ赤にして照れている。
「そういえば、じいちゃんは? 仕事?」
そのばあちゃんの興奮具合が落ち着くほど時間がたったのに、じいちゃんが来ないことを不思議に思い、聞いてみることにした。
「うぅ~ん。書斎にいるけれど、別に今は仕事はしてないと思うわ。行く準備もできてるからね」
「そうなんだ」
「そうだわ。カーリーン、おじいちゃんを呼んできてくれないかしら? あの人も早くエルのドレス姿を見たいと言っていたし、今ならまだ大丈夫だと思うから」
ばあちゃんの言葉に「うん、分かった~」と返事をすると、再び姉さんの方をみてまじまじとドレスを観察している。
――まぁ前に案内してもらったから書斎の場所も分かるし、まだリデーナも来てないしな。それに"孫に呼びに来てもらう"ってので喜びそうだもんなぁ。だからかセージスさんも自分が行くって言わないし。最後の"まだ大丈夫"っていうのが気になるけど、そう言ってるなら気にすることもないかな?
メイドさんに場所が分かるか聞かれたが、「大丈夫だよ」とだけ言って書斎へと向かった。
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