143.お出かけ
王都に到着してから数日が経ち、お披露目パーティーの前日となった。
今日はアリーシアも参加する魔法の稽古はうちでやるらしく、剣の稽古が終わったあたりで伯母さんとアリーシアが来ていた。
アリーシアは短時間ではあるが【ウォーターボール】をしっかりと待機させられるようになっていたので、やはり魔法の才能があるのだろう。
ちなみに、俺が魔法を兄さんに撃つという訓練は、オルティエンに帰ってからしっかりと始めるらしく、王都では撃つことは無さそうで少し安心している。
――まぁそれでも父さんには撃ってるんだけどな……相変わらず濡らすことはできてないけど、父さん相手に威力を上げただけじゃ結果は変わらないだろうし、もっと工夫しなきゃなぁ。
魔法の稽古も終わって、一息ついているときにそんなことを考えていると、姉さんとアリーシアの話が聞こえてくる。
「本当はパーティーが終わってから行こうかなぁって思ってたのだけど、パーティーの時につけていくリボンを買いに行かない?」
「いいわね! 行きましょ!」
「えっと、カーリーン君もそれでいいかな?」
「え、あ、うん。いいよ?」
話は聞こえていたが、俺もそのパーティー用の買い物に誘われるのは予想外だったので、少し返事がおかしくなってしまう。
――買い物ついでに案内してもらう約束もしたし、それなんだろうな……。
ドラードと買い物に行った以外で、町へは行っていないので楽しみではある。
自分でも"せっかく王都に来たのに、買い物や遊びに行かないなんて"と思わなくはないが、全く屋敷から出ていないわけではなくナルメラド家へはよく行っているし、この屋敷でもドラードをはじめとした使用人たちにも構ってもらったり、書庫もあるので退屈することは無かった。
「それじゃあ、もうすぐお昼だから、それを食べてからね。その前にエルとカーリーンは汗を流してからよ?」
「アリーシアも、今日はこちらでお昼をごちそうになるから、そのあと一緒に行きましょうね」
俺たちの話を聞いて、母さんと伯母さんがそう言ってくる。
アリーシアは魔法の稽古だけ参加だったので特に汗はかいていないが、イキイキと剣の稽古をしっかりやっていた姉さんはもちろん、体力づくりには参加していた俺も結構汗をかいていたため、昼食前に一緒にお風呂に入ることが確定した。
「は~い。カーリーン行きましょ」
「え、ちょっ!?」
よくあることなので予想はできていたが、姉さんはそう言って俺の手を引く。
さすがに子供同士だとはいえ異性の俺がいるため、アリーシアは"一緒に入りたい"とは言えなかったようで、どこか羨ましそうな視線を受けながら姉さんに引っ張られてお風呂へ向かった。
さっぱりしたあと昼食を食べて、買い物に出る準備をする。
といっても俺自身は特に用意する物もないので、馬車の準備などが終わるのを待っているだけだが。
買い物に行くのは俺たち3人に加え、母さんと伯母さんも一緒に行くようで、5人で向かうことになった。
あまり大人数で行くのも迷惑だろうということで、父さんたちは行かないことにしたらしい。
「それじゃあ行ってくるわね」
「あぁ、気をつけてな」
馬車の準備が出来たようなので、母さんに続いて「行ってきます」と父さんたちに言ったあと、玄関に向かう。
玄関前にはうちの馬車が止めてあり、御者席にはリデーナ、馬車のとなりには軽装ながらにしっかりとした防具を身に着けたグラニトが待っていた。
治安の悪い所に行くわけではないが、貴族というだけで狙われる可能性もあるため護衛を連れて行くらしい。
――まぁ母さんもいるし、仮に襲われたとしても返り討ちにするだろうけど、今回は伯母さんやアリーシアさんもいるしな。
そう思いながら馬車に乗り込み、目的の店へ向かう。
母さんがまだ王都にいたころにも行ったことがある場所らしく、リデーナは詳しい場所を教えられなくとも馬車を進めている。
「――えぇ、そうなのよ。隣で娘さんが店を出してね。そこで女の子用の服とかリボンとかを売っているのよ」
「ふふふ。あの子の夢が叶ったのね。会うのは久しぶりだから、楽しみだわ」
馬車が動き始めると母さんと伯母さんは、今から行く店の話を楽しそうにしている。
――母さんも行ったことある場所ってことは、結構昔からある店なんだなぁ。というか、座る場所はなんでこうなんだ……?
俺は姉さんとアリーシアに挟まれる形で座っており、向かいに母さんと伯母さんが座っている席順となっている。
――こういうときって伯母さんとアリーシアさん、俺と姉さんと母さんで座るもんだと思ってたけど……まぁ子供同士で座らせたかったのかな……にしても、母さんたちみたいに話をしている姉さんとアリーシアさんが隣同士に座ったほうが良かったんじゃ?
そう思った俺は姉さんに「席かえない?」と素直に提案してみると、「来る時みたいに身を乗り出したら、危ないでしょ?」と、姉らしいことを言ってくる。
実際にそういうこともあったため何も言えないが、それは姉さんも同じだったので複雑な気持ちになる。
――なんなら姉さんの方が指をさしたりして結構出てたからな……まぁさすがに言わないけど……アリーシアさんに言えば代わってもらえるだろうけど、窓際が良いってわけじゃないし別にいいか。
そんなことを思いながら馬車に揺られていると貴族街を抜け、ドラードと買い物に行った道の反対方向へ曲がる。
「市場とは別の方向なんだね」
「えぇ、そうね。よく道を覚えていたわね?」
「馬車が横に並んでも通れそうな大通りを曲がって進んだだけだもん……曲がる回数も多くなかったし」
「ふふふ、あなたは迷子になりにくそうで安心したわ」
母さんが微笑みながらそう言ってくる。
――そういえば、父さんは町中の道を覚えるのが苦手って言ってたっけ……森とかは平気なのに、人工物が立ち並んでると分かりにくくなるって言ってたな……兄さんは平気だろうけど、姉さんは大丈夫なのだろうか?
「姉さんはオルティエンで町に行ってたりするけど、父さんみたいに道が分からなくなったりしないの?」
「私は平気よ? アリーシアが来た時に行った店あたりまで歩いて行くとなると分からないけど……多分大丈夫だと、思う、わ……」
どうやら姉さんも自信はないらしく、徐々に声が小さくなって視線を逸らしていく。
「ふふふ。フェディもさすがにそこまで道が分からないわけじゃないのよ? 子供たちに道を教えられなくてもいいようにって頑張ってたもの」
――まぁ自分が治めてる町だしな……というか、そういう話を本人がいない所で言っちゃっていいの?
「父さんならやろうと思えばすぐに覚えそうだもんね」
一応そう言ってフォローもしつつ話をしていると、目的の店に着いたようで馬車が止まってドアが開けられる。
降りてみると、いかにも昔ながらの職人が個人でやっていそうなこじんまりとした古い建物と、それとは対照的に比較的新しめの木材で作られ、看板などもおしゃれに飾られている店が見えた。
母さんたちの話を聞いていた感じ、新しい店舗が娘さんの店で、その隣にあるのが親御さんの店だと推測した。
――建物の大きさはそんなに変わらないけど、ここまで対照的な感じだとすごい目立つな……これで娘さんの店が古いほうだったら驚きだけど……女の子用の衣類を扱ってるらしいし、流石にこっちの店だよな。
その考えは当たっていたようで、アリーシアに案内されるように俺たちは新しいほうの店に入った。
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