141.加減の成果
「あなた、おかえりなさい」
「お父さま、おかえりなさい!」
「あ、あぁ、ただいま」
伯母さんやアリーシアをはじめ、みんなに挨拶をされ、伯父さんはそれに返しながら近づいてくる。
「お、おじゃましてます」
伯父さんは返事自体はしていたのものの、気はずっと待機させている10個の【ウォーターボール】にあるようで、それを出している俺は目が合ってしまったのでそう挨拶をする。
「……報告は受けているし、いつでも来てもらって構わないのだが……念のために確認するんだが、その魔法は君が出しているのか?」
「そ、そうだけど?」
「……アリーシアから君は魔法がうまいと聞いていたし、カレアからの手紙でもそう書かれていたが……まさかもうそんなことができるとは……1つや2つを待機させるならまだ……いや、それでも君の年齢を考えると……辛くは――ないか。話ができているわけだし……無理しているわけじゃないんだよな?」
「お兄さま、そう思うなら撃たせてあげたらどう?」
心配してくれている伯父さんにどう返事をしようかと悩んでいると、母さんが苦笑しながらそう言ってくれるので、内心"助かった"と思いながら伯父さんの反応をまつ。
「それは、あっちにいるフェディに向けて……いや、見ればわかるか、邪魔して悪かった」
伯父さんはそう言ったあと静かになって母さんたちと同じところまで下がったので、俺も撃つ準備をするように父さんに向きなおる。
「撃つよ~?」
「あぁ、いつでもいいぞ」
さっきも準備ができた合図を貰っていたが、伯父さんと話して中断していたため一応声をかけると、父さんも構えなおす。
「発射!」
右手を父さんの方に向けてそう声を出し、1つずつ【ウォーターボール】を飛ばしていく。
最近では兄姉に向けて撃って大丈夫かどうかの威力確認もかねており、最初の5発は真っすぐ飛ばすように言われているので連続で真っすぐ撃っていく。
バシャンバシャンッと水の球が次々と剣に当たってはじけていると、うしろからじいちゃんや伯父さんたちが「おぉ……」と声をあげているのが聞こえる。
前半分を撃ち終わると、後半は俺の練習もかねて自由に曲げたりしていいことになっているので、6発目からは左右に分けたり1つだけあらかじめ上に飛ばしておいたりと、あちこちから狙っていく。
急に軌道が変わることを予想できなかったじいちゃんたちが、「何⁉」と驚いたような声をあげているのが聞こえるが、少しでも父さんに水滴を当てたい俺はその反応に対して何か思う余裕はなかった。
6、7発目は左右同時になるように操作したが、前と同じように1振りで両方斬られる。
8発目の急上昇させたものを急落下させるが、それも切り上げであっさりと斬られる。
続けざまに、上からの魔法に気がいってるだろうと思って、地面スレスレに飛ばした9発目とその陰になるようにギリギリまで近づけた10発目は、距離が近すぎたからか1振りで同時に斬られて終わった。
「やっぱりダメだったかぁ……」
「うふふ、でも魔法の操作自体は合格点どころか、何も言うことがないほど上出来よ?」
「まてまて、なんだ今のは……」
俺と母さんが話し始めると、目元を押さえながら来た伯父さんがそう言ってくる。
「何って、カーリーンの魔法の練習も兼ねてるのだから、あれくらいはねぇ?」
母さんは言葉の最後の方で、俺を見ながら首をかしげて言ってくるので、「う、うん」と返事をしておく。
――割と本気で当てたくて頑張ったからか母さんは喜んでるようだけど、初めて見るじいちゃんや伯父さんは困惑するかぁ……。
「まぁ……カーリーンがこれほどうまく魔法を使えるようになっているのは、喜ばしいことだな」
伯父さんの後ろに付いてきていたじいちゃんは、近くに来た時は何か言いたそうにしていたが、そう言ってフッと表情を緩めたあと優しくなでてくれる。
「曲げたりする操作もそうだが、威力の調整も十分うまくなったな。それにこの剣も十分な耐久性だ」
戻ってきた父さんの言葉を聞いて、顔には出さないが"しまった"という気持ちになる。
――あー……兄さんや姉さんに向けて魔法を撃つのはさすがに躊躇するから、威力調整くらいならすぐにでもできたんだけど、あえてそこまで威力を落とさずやってきたのに……剣の方は、万が一折れたりしたら危ないと思って魔力を多めに込めたけど……あ、あえて弱く作れば、濡らすことができたんじゃ? いや、さすがに卑怯だよな……。
当てることに集中し過ぎて、威力の加減具合を考えてなかったことを後悔しつつ、それは表情に出さずに両親がどう判断するかをまつ。
「これなら、そろそろライは参加してもいいくらいだな」
「えー! 私もカーリーンの魔法受けてみたい!」
「うぅーん……それはもうちょっと上達してからね?」
――うぅーん……まだ兄さんになら撃っても平気かな……普段の稽古の様子を見てると2人とも受けても平気だとは思えるけど、普通に撃つと地面を軽くえぐるような魔法を子供に向けて撃つのはなぁ……。
母さんの説得で姉さんは諦めてくれたようでそっちにも安堵していると、じいちゃんが口を開く。
「カーリーン、まだ疲れてはいないか?」
「え、うん。動いてたわけじゃないし、魔力の方も全然平気だよ?」
「そうか。それなら私にも撃ってみてくれないか?」
「え……」
「いや、実際受けてみないと威力は分からんしな。フェディの言うことを信じていないわけではないが、本当にライに向けて撃っていいものかどうか……」
「ふふ。半分はそういう理由でしょうけど、もう半分はただやってみたいだけよ」
「む、むぅ……」
ばあちゃんにそう言われるが、じいちゃんは特に否定することもなく気まずそうに視線をそらす。
「父さんの時と同じ感じでいいの?」
「あ、あぁ、それでいい」
じいちゃんは執事さんから稽古用の剣を受け取ったあと、父さんと同じ位置に立って構えたので、俺も同じように10発の【ウォーターボール】を待機させて、合図とともに撃ちこむ。
結果、前半の5発は威力の確認をしているかのように剣を立てて受け、左右同時の球は父さんと同じように1振りで切り裂き、他も難なく切り裂いて見せたので、濡らすことはできなかった。
「ふむ……たしかに、これならライであれば受ける練習にもなるだろう。それにしても、威力の加減の練習をしていたと言っていたから、元はもっと威力があったのだろうが……本当に末恐ろしいな」
戻ってきたじいちゃんは満足そうにそう言うので、兄さんに魔法を撃つ稽古が確定してしまった。
そのあと、伯父さんにも同じことをしたが濡らすことはできず、なんなら娘の前で張り切っていたのか、上下からくる3発を斬撃を飛ばす武技も使って同時に斬っていた。
その様子を見ていたアリーシアはもちろん、普段そういう系の武技を見ることが少ない姉さんも、目を輝かせて声をあげていた。
そうしていると薄暗くなってきたので魔法の練習は終わりとなり、屋敷へ入るときに夕飯を食べていくかどうか聞かれていたが、今夜はドラードが教えたソースを使った料理が出る予定となっていたため、それは断って夕飯前に帰ることになった。
「夕飯楽しみだね」
「えぇ、それにカーリーンが買ってきてくれたお茶も楽しみだわ」
ナルメラド家で飲むかもしれないと思っておろしていた茶葉を積み込む際に、1袋は少し変えてもらってることを伝えたので、母さんはそう言って微笑む。
――あんまり過度な期待はしてほしくないけど……まぁほんの少し変えてもらった程度だから、大きく味が変わってるわけじゃないし大丈夫だよな……?
そういう少しの不安を抱きながら、馬車に揺られて自宅へ帰った。
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