14.稽古後の朝食
兄さんと姉さんは目をつむり、たまに「うぅーん」と唸りながら魔力と気力の把握を頑張っているようだ。
ただ、その方法が"魔力を動かして認識する"ということで、いつの間にか魔法の練習に変わっていないか疑問ではあるが。
「動かないです……」
「ねー」
兄さんが目を開いてため息交じりにそう言うと、姉さんもそれに同意する。
「まぁすぐにどうこうできるものではないからな。これも練習あるのみだ」
「それができるようになれば、魔法の練習が一気に楽になるわよ」
――俺はすぐにできたが……神様にもらった適性とかのおかげか?
俺はもう一度目を閉じて魔力を動かしてみるが、先ほどよりスムーズに動いてくれる。
「きりょく? っていうのはどうすればいーの?」
「ん、あぁー……どう説明すればいいか……魔力を動かせてからの方がわかりやすいと思うんだが……」
「私はまともに使えないんだから、その説明はちょっと難しいわ……」
説明に困った様子の父さんがチラっと母さんに目配せするが、母さんは魔力には詳しいが気力はからっきしなようで、その助けには応えられなかった。
「こう……"つかうぞ"とか、"出すぞ"みたいな気持ちを込めてだな……」
――うん、これはちょっとわかりにくい……父さんはどう見ても肉体派だし気力の方の才能が元からあったんだろうな……
「ロレイ、頼む……」
「そうですなぁ。旦那様の言う通りそういう気持ちが大事です。だからこそセンスや才能が問われるというものでもあるのですが」
――あの説明で正解なのか……確かにこれは個人のセンスに頼るところが大きく、初歩の感じ取る段階から使えるようになるまでは教えるのは難しそうだ……
「しいて言うなら、気力を全身に広げるイメージですな。エルティリーナ様でいう"大きい方"をさらに大きくしていく感じです」
「なるほどな」
「なんでフェディが納得してるのよ」
「い、いやぁ……気力周りに関しては自然と扱えるようになってたせいで、どう教えたものかと……気力を使った"武技"の方なら多少は教えられると思うんだがな」
ロレイナートの説明を子供たちと一緒に聞いて納得している父さんに対して、苦笑しながら母さんがため息交じりに言うが、才能のあった父さんからすると最初の段階から感覚で使えるようになっていたため、説明が難しいらしい。
――まぁ母さんみたいに無意識で使ってることはあっても、父さんみたいに飛躍的に向上させるようなレベルを意識的に使えるのは才能なんだろうな……気力を使うスキルは"武技"っていってたけど、初歩の発動ができれば"どこにどう使うか"とかで多少は教えられそうだもんなぁ。
「むーーー。こっちもうごかなぁい!」
「んーーーー」
説明を聞いた子供たちはさっそく目をつむって練習しているようだが、こっちもまだ無理なようだ。
俺はというと、ロレイナートから聞いた直後に試してみたら大きくなるのを感じ取ることができたが、覆うほど大きくして気づかれるのを避けるために途中で止めた。
「はっはっは。どちらもすぐにはできないさ。これからの稽古にはこれもいれなきゃな」
「もっと剣ふりたい!」
「それはエル用の剣ができてからだなぁ」
姉さんはとにかく体を動かしたいのか座ってる状態でも木剣を握って、周りに当たらない程度に軽く振っていた。
「旦那様、そろそろ朝食の時間になりますので、汗を流されてはいかがでしょうか?」
「おお。もうそんな時間か」
「えーー……」
「朝から一気にやっていたら昼の方まで持たないぞ?」
「わ、わかった!」
リデーナに時間を教えられて稽古が終わることを残念がっていた姉さんだが、昼の稽古の話をされて元気を取り戻した。
「それじゃあ、エルもお父さん達と汗を流していらっしゃい」
「うん! お兄ちゃんいこ!」
「わっと、ちょっとまって防具外さないと!」
姉さんに急に腕を引っ張られてこけそうになった兄さんは、急いで防具を外してロレイナートに預けた後そのまま引っ張られていった。
「ふふ。エルは楽しそうだったし、もっとやりたそうだったわ」
「そうだな。ライも成長しているし、これからエルも加わるならいい刺激にもなるだろう」
「昼間起きているといいけれど。午前中に少し寝るかしら?」
「今日はかなり早かったからな……午前中の勉強は無しにしてやるか」
「あれだけやる気があるんだもの。昼間の方も参加させてあげたいわ」
「そうだな。それじゃあ俺も汗を流してくる。片付けは任せていいか?」
「「かしこまりました」」
ロレイナートとリデーナが返事をすると、俺を抱いた母さんと父さんはリビングに直接入れるドアから子供たちを追って入っていった。
汗を流してさっぱりとした3人が席に着くと、朝食が運ばれてきた。
昨夜の夕食の時と違うのは、俺は母さんの膝の上に抱かれたままで隣の席にリデーナが座ったことだ。
リデーナの前には朝食はないが、その代わりにトロっとしてそうなスープが置いてある。
「今日からみんなで食べられるのは嬉しいことだな。それじゃあいただこう」
父さんがそう言うと俺はリデーナに抱かれ、目の前の黄色いスープをスプーンに掬って口元に持ってきてくれる。
――なるほど、離乳食だったのか。そりゃあそうだよな。ロレイは座ってないのにリデーナだけ座ってて、しかもメニューが全く違うもんな。
俺は口元に持ってきてもらった小さいスプーンをパクっと咥えてスープを食べる。
初めての離乳食ということもあり結構とろみはあるが固形物はほとんどなく、食べるというよりは飲むに近いスープだった。
――これはカボチャかな? さすがに調味料とかは少ししか入ってなさそうだけど、トロリとしててカボチャの甘みがそのまま広がっておいしい。
「あーーむ」
「ふふ。ちゃんと食べてるわね。稽古を見る前に少し飲んだけれど、ずっと見ていたようだしお腹すいてたんでしょうね」
「初めてなのでカボチャにしてもらったのも良かったのかもしれませんね」
「あぁ……ライは平気だったけど、エルはニンジンで作ったのはなかなか食べてくれなかったわね……」
「ん? おかーさんよんだ?」
「いいえ。呼んでないわよ。ほらまたこぼれてるわよ?」
「いえ、あれはわざとこぼしてるのでは……ニンジンが多いですし」
「あ、こら。ちゃんと野菜も食べなさいって」
「……はぁい……」
「あの様子だと今日の鳥たちのご飯は豪華になりそうですね」
「はぁ……好き嫌いはしてほしくないのだけれど、無駄になるくらいなら量を減らしてもらおうかしら……」
「それでもいいかもしれませんね。今もそっとライニクス様のお皿に移してますし」
姉さんの方を見てみると、ばれないと思っているのかニンジンを刺したフォークを兄さんの皿に近づけている。
その様子を父さんは微笑ましく、兄さんは苦笑しながら見ているだけで止めようとはしていなかった。
「エル、そんなにニンジン嫌い?」
「う゛っ。うん……お兄ちゃんはへいきでしょ?」
「まぁそうだけど……」
「ならあげる!」
そう言って次々とニンジンだけを兄さんのお皿に移動させていく。
「あ、こら。ダメとは言わないけれど、少しは食べなさい」
「はぁい」
――ダメとは言わないのか……まぁマナー的にはよろしくないだろうが、家族だけの時は本当にゆるそうだな……一応貴族なんだよな?
ふと家族の肩書を思い出したが、こういう家庭の方が心地いいので必要ない疑問は忘れることにした。
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兄の影が薄い。というより姉が動かしやすすぎるのかもしれない。
もう少し書いたら少し時間が飛ぶ予定ですが、まだ日常で書きたいこともあるのでまだまだ赤ちゃんです……魔法の練習とかもあるしね……