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139.すこしだけ練習

「母さんはとくにお疲れみたいだね?」


 今はシャーベットが気に入ったらしく、美味しそうに食べているのでそこまで感じられないが、部屋に入ってきた時は疲れている様子だったので話を聞いてみる。


「えぇ、まぁねぇ……久しぶりの集まりだったというのもあるけれど、少人数ならまだしも、今回のは結構人数の多いものだったから……」


「この時期はなぁ。お披露目パーティーが開催されるおかげで、カレアたちのように普段は王都にいない貴族も滞在しているから、そこそこな規模のが開かれたりする」


「お披露目パーティーの翌日にもあるらしくて、そちらも誘われたのだけれど、返事は後日するようにして

 帰ってきたわ……」


 母さんはそういってため息を吐くが、ふたたびシャーベット食べて美味しそうに微笑む。


 ――まぁそりゃあパーティーのあとの方が滞在してる貴族も増えるだろうしなぁ……現にうちとか、兄さんの時はもっとギリギリに来てたから、滞在期間が短かったんだし。母さんは久しぶりに顔を出したからかなり話しかけられただろうし、そういう貴族ならではのお茶会が苦手な母さんが疲れてるのも納得だな。


 そう思いながら俺もシャーベットを食べつつ話を聞いていると、今度は母さんが俺たちの様子を聞いてきたので、町でのことはさっきと同じようにかいつまんで話して、ナルメラド家にいた兄姉の話を聞いた。


「そうねぇ。思ったより早く帰ってこられたから、食べ終わったら少し魔法の練習をしましょうか」


 アリーシアが魔法の稽古のことを話してしたことでそう決まり、止めることが出来なかった姉さんは、最後の抵抗をしているかのように食べる速度が遅くなる。


 しかし、もともと美味しそうに速いペースで食べていたため残りは少なかったようで、母さんが食べ終わる前には姉さんのコップは空になっていた。




 あとから来た両親も食べ終わったので、みんなで庭に出る。


 氷魔法のお披露目の時と違ってちょっとした練習程度なので、見にきたとしてもじいちゃんくらいだと思っていたのだが、娘と孫が魔法の練習をする様子を見たいと言って、イリスとばあちゃんもついてきた。


「アリーシアちゃんとは久しぶりだから、まずは基本の魔力操作からね。手を取って循環させる方法はやっていたのかしら?」


「はい。お父さまやお母さまとやってました」


「それなら大丈夫そうね。それじゃあうちでやってた時のように、カーリーンと一緒にやりましょうか」


 母さんがそう言うと前と同じように俺とアリーシア、兄さんと姉さんの組に分かれて魔力操作の練習を始める。


「私からやるね?」


 アリーシアが手を取ってきてそう言うので、「うん」と返事をして魔力を感じ取ることに集中する。


 ――おぉ~。練習してただけあって、すんなりとできるようになってる!


 オルティエンでやってた頃とは違い、()()()()集中しているようには見えないのに、しっかりと魔力が流れてきているのを確認しながらそう思う。


――前は眉間にしわを寄せて凝視してやってたのに、今は黙ってるけど普通に見てる程度だもんな。


「ど、どう、かな?」


「うん。前よりしっかり魔力が流れてるし、かなりうまくなってると思うよ」


「よかったぁ……お父さんたちはスゴイとは言ってくれるから流せてるのは分かるんだけど、どれくらいできてるか分からないから、ちゃんと上達してるか不安だったの」


 アリーシアは少し緊張して無意識に強く握っていた手を緩め、安心したように笑う。


 ――あの伯父さんならたしかに少しでもできてれば褒めちぎりそうだしなぁ……いや、そもそもこの練習方法自体一般的じゃないみたいだし、あまり分からなかったのかもしれないけど……。


 交代して今度は俺が魔力を流している最中にそう思っていると、アリーシアが感心したように話しかけてくる。


「ふあぁ。やっぱりカーリーン君すごいね。あんまり集中しているようには見えないのに、ちゃんと流れてくるのが分かるわ……」


 少し失礼なことを言われた気がするが、アリーシアに悪気がないことは分かっているのでそこは気にしない。


 それに、実際別のことを考えながらやっていたのでアリーシアの言う通りなのだが、そのことに気づかれて少し気まずくなる。


 ――さすがに練習中だから俺もちゃんとしないとダメだよな……。


 そう思った俺は流す魔力を多くしたり少なくしたりして、アリーシアの反応を見てみることにした。


「……あ、あれ? なんか薄く……え、今度は多い? え?」


 強弱をつけ始めてすぐには分からなかったようだが、少し繰り返していると違いが分かったらしく、繋いでいる手を見ながら困惑している。


「わざと強くしたり弱くしたりしてるんだけど、ちゃんと分かってるみたいだね?」


「あ、これカーリーン君がそうなるようにやってるんだね……カーリーン君がやってるのに、こんなにブレがあるとは思えないから、私の感覚がおかしいのかと思っちゃったわ」


「これがしっかり分かってるんだから、魔力把握の能力もしっかり上達してると思うよ?」


 困ったような表情のアリーシアにそう言うと、嬉しそうに笑いながらお礼を言われる。


「さて、それじゃあ次は魔法を待機させて、魔力操作の練習をしましょうか」


「待機……ですか?」


 この練習はアリーシアが帰ってから始めていたので、アリーシアはどんな練習方法なのかの説明を聞いている。


「たしかに実践では重要になって来るが……この年でソレを魔力操作の()()に使うのか」


 一緒に聞いていたじいちゃんがそう呟いているが、すでに兄姉や俺はそれができるようになっているため、母さんはまず兄姉に見せるように言っている。


「「【ウォーターボール】」」


 兄姉が同時に魔法を使い、発射されることもなく手のひら付近で水の球を待機させる。


「おぉ。ちゃんと出来ているな……とくにライは余裕そうだな」


 姉さんは相変わらずコレが苦手なようで、話す余裕もないほど集中して自分の出した水の球を凝視しているが、兄さんは待機させた状態で話をする余裕があるので返事をする。


「結構前から練習してますから。でもコレもカーリーンの方が上手いですよ」


 兄さんから名前が出たことでじいちゃんたちの視線が俺に向いたので、俺も【ウォーターボール】を使って待機させる。


「そんな気はしていたが……カーリーンも余裕そうだな……」


 ついでと言っては何だが"こういう事もできるよ"と言わんばかりに、水の球を2つに分裂させてそれをクルクルと回転させる。


「す、すごい……」


「……想像以上だったようだな……」


 じいちゃんは、俺が魔力操作が上手いことを知っているのである程度は想像できていたようだが、ここまでの魔力操作を簡単にやってみせるとは思っていなかったようで、苦笑しながらも感心しているようにつぶやく。


「すぐには難しいでしょうから、まずは普通に【ウォーターボール】を撃つ感じから徐々に変えていきましょうか」


 母さんにそう言われて返事をしたアリーシアは、庭に手のひらを向けて【ウォーターボール】を使う。


 アリーシアの放った魔法は、うちでやっていた頃とは違って速度も出ているし、威力もしっかり上がっているのが一目で分かる。


「うんうん、上手になっているわね」


「でもまだみんなと比べると小さいです……」


「この期間でここまで出来るようになったんだから、ここから大きさを変えるのはそこまで難しくはないわ。ちゃんと練習していたようで偉いわよ、アリーシアちゃん」


「あ、ありがとうございます」


 大きさ自体は、オルティエンで稽古をしていた頃と変わっていないことを気にしていたアリーシアだったが、見るからに速度や威力が増していることを母さんに褒められて照れている。


「それじゃあ、そこから少しずつ待機させられるように練習しましょうか」


 母さんが微笑んでそう言うと、アリーシアは意気込むように「はい!」と力強く返事をした。

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