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138.おやつ

 メイドさんはコップにブドウジュースを注いだあと、ワゴンを押して退室した。


 ――これでリビングにいるのは俺が氷魔法が使えるのを知ってる人たちだけだし、変に驚かれたりすることもないか。まぁ別にここの使用人にならバレたところで問題はないと思うけど。


「これ、お土産で買ってきたものだよ」


「ははっ。それで今回は何も言わずに準備だけしていったのか」


 普段は説明などをしつつ出しているようだが、今回は俺から説明されたほうがいいと思われたようで、静かに準備をして出ていったメイドさんの行動を不思議に思っていたじいちゃんは、笑いながら納得する。


「あら、ルアードのジュースなのね」


「このスプーンは何かしら?」


 ばあちゃんは、机に置かれてある未開封の瓶のラベルを見てどこのジュースかの確認をし、イリスが一緒に置かれたスプーンは何なのかと不思議そうに見る。


「ドラードと何か作るような話をしてたけれど、ジュースのまま出てきたってことはやめたの?」


「いや、今からやるんだよ。ちょっとコップ借りるよ。アリーシアさんのも、ちょっと持たせてね」


 ドラードとの会話を聞いていた姉さんとアリーシアは、大人たちとは別の理由で不思議そうにしていたので、まずは隣に座っている2人のジュースから凍らせることにした。


「【フリーズ】」


 今回は町中と違って小声で言う必要もないので、普通に声を出して魔法を使う。


 ――逆に聞こえないような小声でやるほうが問題になりそうだしな……。


 ちょうどいい凍り方で止められるように、ゆっくりと凍らせていく。


 感覚的にはゆっくりなのだが、たった数秒で凍っていく光景を見ると、改めて魔法ってすごいなぁと思う。


 そのまま10秒ほど氷魔法を使い、ほどよく凍ったところで2人にコップを返す。


「わぁ! ジュースが凍っているわ!」


「一気に冷やしているだけかと思ったら、凍らせたのか」


「うん。みんなのもやってあげるよ。あ、そのままがいいとか、冷たくするだけの方がいいとかあったら言ってね?」


 一応まだ暑い時期ではないので、シャーベットは冷たすぎるかなと思ってそう言うが、みんな凍らせてほしいと言うので、俺のところにコップを持ってきてもらった。


 兄さんとイリスのコップは、壁際で待機していた執事さんが持ってきたのだが、じいちゃんは自分の分とばあちゃんの分を持ってきた。


「うしろで見ててもいいか?」


「う、うん。別にいいけど……」


 ――珍しい魔法だし、凍るという現象が気になるのかな……早く食べてみたいからとか、そんな理由じゃないだろうし。


 そう思いつつ、両手に1つずつコップを持って魔法を使って凍らせていく。


「ふむ……前に氷を出す魔法は見せてもらってはいたが……こういう魔法でもキレイに凍るものなのだな。しかし、凍らせたこれをどうすればいいのだ? スプーンで砕くには硬くはないか?」


「ううん、大丈夫だよ。軽く凍らせたくらいだから、スプーンで簡単に割れるよ」


 俺はそう言うと、凍らせた自分のジュースにスプーンを近づけて押し込み、シャクッという音とともに突き刺してみせる。


「お、おぉ! 前の氷のように固くはないのか。こんな絶妙な凍らせ方ができるほど、氷魔法の扱いもうまいのだな」


 じいちゃんも俺と同じようにスプーンで突き刺してみて、思っていたより硬くないことに驚きつつ、そうなるように意図的に調節できていることを褒めてくれる。


「わぁ、少し硬い雪みたいね!」


「私は雪を触ったことがないから、なんだか不思議な感じ」


 姉さんとアリーシアもコップの中をスプーンでつつきながらそう言っている。


 ――アリーシアさんが雪を触ったことがないってことは、王都はそこまで積もらないのかな? 庭が広いから"すぐに手入れされて触れられない"ってことは無いだろうし……いや、濡れたり汚れるから触らせてもらえなかった可能性があるか……。


 アリーシアの言葉が気になってそう考えている間に、みんなのもとにコップが戻る。


「ジュースを食べるというのはなかなかないが、うまいものだな」


「口の中で溶ける感じがいいわねぇ」


「夏だともっと美味しく感じられそうね」


 まだスプーンで刺す感覚を楽しんでいる子供たちとは違い、大人たちはさっそくひと口食べてそう感想を言う。


 今は暖炉こそついてはいないが窓は締め切っており、室内の気温は程よく調整されているようで、シャーベットを食べても寒いと思うことはなさそうだ。


「凍らせるだけでこうなるんだね。美味しいよ」


 じいちゃんたちが感想を言いながら食べ始めたことで兄さんも味が気になったらしく、一口食べてそう言ってくるので「よかった、ありがとう」と、少し照れながら返事をする。


「ん~! 冷たいけど美味しい!」


「これなら食べても怒られないわね」


 ――アリーシアさんは寒いのが苦手なのかな? でも美味しそうに食べてるからよかった。姉さんは冬に雪を食べようとして注意されたことがあったからなぁ……その姉さんも美味しそうに食べてるし、夏になったらかき氷みたいな感じで作ってあげてもいいな。シロップとかじゃなくても、なにかジュースをかけるのでも美味しいし。


 雪が積もった日に兄姉と外で遊んだ時を思い出しながらそう考えていると、ドアがノックされて「フェデリーゴ様、カレアリナン様をご案内いたしました」というメイドさんの声がし、両親がお茶会から帰ってきた。


「2人ともおかえりなさい」


 ばあちゃんが両親にそう声をかけると、母さんが少し疲れたような声で「ただいま」と返事をする。


「ここはジルの屋敷だから、"ただいま"というのもなんだかおかしな話だがな」


「うふふ、そこは気にしなくていいのよ」


 父さんが苦笑しながらそう言って空いている席に座ると、この屋敷の主の妻であるイリスにそう言われて「ありがとう」と言っている。


「それはなぁに?」


 みんなのコップにはスプーンが入っており、姉さんやアリーシアがそれを混ぜている様子を見て、不思議に思った母さんがそう聞いてくる。


「シャーベット。ブドウジュースを軽く凍らせたやつだよ」


「ほぉ。飲み物を凍らせるのか」


「父さん母さんも食べてみる?」


 そう聞くと2人とも食べるようなので、両親の分のコップを持ってきたメイドさんにジュースを注いでもらって受け取ると、母さんが俺のうしろに来る。


「【フリーズ】」


 多分魔法を見たいんだろうなと思った俺は、特に気にすることなく魔法を使ってジュースを凍らせていく。


「こういう魔法も使えるのねぇ……」


「……姉さんが雪を食べようとしたのを思い出してね……こうすれば食べても大丈夫でしょ?」


「はははは。アレなぁ」


 父さんはそのことを思い出して笑っているが、姉さんは少し気まずそうな表情をしている。


 ――思いついた経緯としてはおかしくないだろうし……夏場にまた作ってあげるから許してほしい……。


 ほどよく凍ったところで両親にコップを返すと、さっそくみんなと同じようにスプーンで中身をつついて軽く割り、掬って口に運ぶ。


「ん~。美味しいわ」


「おぉ、これはいいな」


 両親にも好評のようで2人とも美味しそうに食べ、すぐに2口目を掬っている。


「お使いで頼まれたものもちゃんと買ってきてるから、あとで確認してね。これはお土産として買ったものだから」


「あら、そうだったのね、ありがとう。とても美味しいわ」


 母さんにお礼を言われて少し照れくさく思いつつ、おやつとしてみんなでシャーベットを食べながら話をして過ごした。

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