136.解散
ドラードが冷えたコップを返すと、2人もシチューを食べていた時に使ったスプーンでコップの中をかき混ぜ、ひと掬いしてゆっくりと口へ運ぶ。
「ふわぁ……冷たくて美味しいわねぇ」
「うん。初めての感覚」
レオナの言葉に単純な同意だけして、アリエスは食感や味を楽しんでいるようだ。
――他国には行ったことないみたいだし、そうなると氷自体が珍しいから、こういう食べ物は初めてだろうしなぁ……それにしても、アリエスさんはよっぽど気に入ったんだな。返事はおろそかだけど手はしっかり動いてて、幸せそうに食べてるし……。
一気に食べて頭が痛くならないようになのか、単に味わっているのか分からないが、ゆっくりと食べているアリエスを見てそう思う。
「……って、カーリーン君も同じような魔法を使ってたけど……ドラードさんが魔法の師匠なの?」
「たしかにそれなら氷魔法が使えるのも納得……? でも、そもそも教えてもらったからって、すぐに使えるようになる魔法ではないはずだけど……」
「まぁ師弟みたいなものだよ」
――実際はドラードから魔法を教わったことはないけど、兄姉が剣を習っていることはあるし、いずれそうなるだろうから間違ってはないよな。
ドラードも俺の言葉を否定せずにいるので、2人はそういう関係性だと納得したようだ。
「そういえば、レオナさんたちはここから西の方にある町で登録したって言ってたけど、出身は同じところなの?」
「えぇ、そうよ。同い年で家も近かったから、物心ついた頃からの友達なの」
「家が近いと言っても、もともと小さな農村だから、みんながご近所さんって感じのところだけど」
「まぁ本当に小さい村でギルドなんてないから、村から一番近い町で登録したのよ」
――へぇ、そんな感じなのかぁ。というか、レオナさんとアリエスさんが同い年っていうのが驚きなんだけど……。
レオナは身長もそこそこ高く、剣士をしているからか引き締まった体をしており、20代半ばくらいのお姉さんという感じなのだが、アリエスは結構小柄なうえに顔つきも幼く、できるだけ上の年齢だと考えても10代半ばくらいだと思っていた。
――駆け出し冒険者のアリエスさんをみかけて、レオナさんが同郷のよしみで組むことにしたんだと思ってた……。
そんなことを考えながらアリエスの方をチラッと見ると、ジトーッとした視線で返された。
「……言いたいことは分かるよ? レオナは大人っぽい。実際に半年くらい年上だし」
「ご、ごめんなさい……もしかしてまた顔に出てた……?」
「あはは、大丈夫よ。そこまでは出てなかったから」
――少しは出てたってことか……話すキッカケとなったことといい、俺ってそんな顔に出るタイプだったんだ……。
「私たちのことを話すと、だいたいそんな感じで返ってくる」
「な、なるほど……」
「だから表情に出てたというよりは、"察した"って言った方が正しいから安心して? それにしても、いつもアリエスと同い年だと思われないのだけど、私って結構老け顔?」
「そんなことはないと思うけど……アリエスさんが幼――若く見えるだけで……」
「ちなみにカーリーン君、私は何歳くらいに見える?」
――おぉっと……うぅ~ん。25歳くらい? いや、アリエスさんと同い年なんだよな……でも冒険者として結構活動してて、ドラードいわく腕も立つようだから、多分アリエスさんの見た目通りな年齢ではないよな……。
「23歳くらい……?」
アリエスが普通より幼く見られているらしいことはおいておき、レオナを見て当たり障りなさそうな年齢を言ってみる。
「うぅ~ん、おしい! 私たちは21なのよねぇ」
少し悲しそうな表情でそう言うので、慌てて声を出す。
「い、いや! 凛々しくてキレイで、"大人"って感じがしたから!」
「あはは、ありがとう」
そういう褒め方をされても、子供の言うことだからか照れている様子もなく、笑顔でお礼を言ってくる。
「カーリーン君、私は?」
「か、可愛いと思います……」
「いずれ、私もキレイと言われるようになる」
アリエスが自分を指さしながら聞いてくるので、素直に答えると微笑みながらそう言う。
――まぁ元が可愛い系の顔つきだからなぁ……母さんみたいに可愛らしい感じに育ちそうだけど……。
そう思うが、口には出さないでおく。
「ははっ、まぁ見た目なんてあてにならんからなぁ。特に冒険者はいろんな種族がいるしな。レオナくらいの見た目でも10歳くらいの種族もいれば、アリエスくらいの見た目でも50超えてるやつもいるし」
「そうねぇ。王都は獣人族とヒト族が多いけれどたまにエルフとかも見るし……さすがにその人たちに年齢を聞いたことは無いけど」
レオナは苦笑しながら、チラッと近くを通った獣人族の人を見ながらそう言う。
――言われてみればここにもちらほら武器を持ってる人がいるけど、いろんな種族がいるもんなぁ。ほとんどが冒険者とかハンターなのかな? 誰かの護衛としては粗野な感じの装備の人が多いし……そういう意味ではドラードもそんな感じに見えるか。まぁドラードの場合は護衛というよりは保護者って感じだし、素手の方が強いって前に聞いたからまた違うんだけど。
そう思っている間も、レオナたちは冒険者のことについてドラードに聞いているが、"ドラードは冒険者じゃないけどいいのかなぁ"と思いつつそれを聞いていた。
「それじゃあカー坊、そろそろ買い物に戻るか」
「私たちもギルドへ行ってみましょう」
シャーベットを食べ終わり、いつまでも話しているわけにもいかないのでお開きとなり、みんな席をたつ。
「それじゃあ、私たちは昼はよくここにいるから、また機会があれば色々と話を聞かせてほしい」
「カーリーン君も、また会った時はお話ししようね」
「うん」
「あんたたちも機会があればオルティエンにも来るといい。ルアードも近いから、あのブドウジュースもお手頃価格だぞ?」
「そ、それは魅力的……」
「あはは、考えておきます」
レオナたちとそう話したあと、俺たちは別々の方向へ向かった。
「若いのになかなか筋のよさそうなやつらだったな」
「……俺には強さなんてわからないけど、いい人たちだったね」
ドラードが再び俺を抱き上げながらレオナたちのことを話してくるので、そう答える。
「ははっ、だなぁ。まぁこの辺りに食いに来てる冒険者は割と腕はいいし、ちゃんとしたやつだと思うぞ。変なやからだと飯より酒で素行も悪かったりするしな」
「アリエスさんは食べ物にこだわってるみたいだったし、食事以外にお金をかけてないだけかもよ?」
「はははっ。そうかもしれないなぁ。さて、オレが探してるものが見つかったら、またルアード産のジュースも買って帰るか」
「シャーベット気に入ったの?」
「ん、そういう名前の食べ物になるのか。まぁ気に入ったのはたしかだが、先にナルメラド家に行ってる兄たちにお土産は良いのか?」
「お使いの練習なのに必要?」
「ライ坊は良いかもしれんが、エル嬢とか拗ねてそうじゃないか?」
「そこは母さんたちが説明してくれてるでしょ……」
「あとはアリーシア嬢もな」
――あー……兄姉が気にしないなら何も言ってこなさそうだけど、間違いなく姉さんが何か言ってくるだろうし、そうなるとアリーシアさんも一緒になって拗ねそうだ……。
「……い、一応お土産も買っていこうか……」
来た道を戻りつつ、ドラードが目当てのものを探している中、俺はいくつかの言い訳を考えながらも周りを見て、寄った店の店員さんから色んな話を聞けたので楽しめた。
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