134.冒険者とハンター
分かることは教えてくれるということなので、何かないかと考える。
「冒険者とハンターってどう違うの?」
これはイヴから聞いた時から気にはなっていたのだが、今まで両親以外でハンターや冒険者と接する機会がなく、俺にはまだ関係ないかと思って両親にも聞いていなかったので、せっかくなので教えてもらうことにした。
「うぅ~ん。依頼内容は大体同じだし……あ、冒険者には町から町への護衛依頼があるわね。逆にハンターの方は近場の護衛や案内の依頼とか。あとは~、そうねぇ……どう違うのかと言われると……冒険者はあちこちに移動したりするわね。もちろんしない人もいるんだけど……」
「うん。それは知ってる。ハンターのほとんどはその登録した町で活動する人が多く、冒険者は町どころか国すら行き来して活動する者もいるって聞いたことがあるよ」
レオナが俺の質問に答えようと悩んでいると、口に入れたシチューを飲み込んだアリエスが代わりに答え始める。
「冒険者ギルドは登録者の情報を隣国を含む近場のギルドと共有しているから、拠点にしている町を変えるときなどの手続きが楽。元のギルドと移動先のギルドに報告をすれば、ギルドランクに応じた依頼をすぐに受けられる」
「身分証みたいになるんだ?」
「そう。ハンターギルドもさすがに国内の近場のギルドとは情報共有するけれど、拠点とする町を変えるなら申請して、ギルドからの承諾が必要。まぁ居着くわけじゃなければ申請とかも必要ないし、ハンターギルドのタグも身分証変わりにはなる。それに近場とはいえ、他国にまで情報を共有している冒険者ギルドと比べると、ハンターギルドの方が手数料や登録費は安い」
「そうなんだ」
「あと、ハンターは町がモンスターの氾濫等で有事の際には、強制的に戦力として加えられる。まぁ自分が生まれ育った場所でハンターになってる人が多いから、そこは強制じゃなくてもほとんどの人が参加するだろうけど」
「冒険者はそうじゃないの?」
「冒険者は他国の人間の場合もあるから強制ではないけれど、そういう際は緊急依頼として出る」
「へぇ……モンスターを狩って素材を卸すってところは似てるけど、結構細かい違いがあるんだ……」
「そう。まぁモンスター素材の買い取りはどっちに卸しても大差はないし、その人の強さや腕前の指標にもなるギルドランクも共通だから、大雑把に言うとあちこち移動したいかどうかくらいの違い」
「そのあたりが同じだと、手数料を多くとられる冒険者ギルドの方は依頼が減るんじゃ?」
「多くとられるのは冒険者の報酬からだから、依頼主が払う金額が変わるわけじゃないの。それに初めての町で活動するために必要な宿屋や武具屋などの紹介とか、ギルド併設の食堂での割引とか、他にも色々とギルドでしてくれるから、そのサービス料のようなものね」
「「へぇ~」」
アリエスが説明を始めてから一言も発していなかったレオナは、俺と同じように声をあげる。
「なんでレオナさんまで……」
「い、いやぁ、こういうものなんだなぁと思ってたから、詳しい違いなんて知らなくて……」
「まぁこのあたりは、ギルド職員にこっちから聞かないと教えてくれない内容だから」
――まぁ結構な荒くれ者というか、その手の説明を聞かない人が多そうなイメージだしな……
「でも報酬が変わるなら、聞く冒険者も多そうだけど?」
「依頼報酬から取られてる手数料が多くなることは、遠回しに説明されてるんだけどね。直接説明すると、いくら理由を説明しても納得しない荒くれ者も多いから」
俺のイメージは間違っていなかったらしく、アリエスはため息まじりにそう答える。
そんな話をしているとドラードがお盆をもって戻ってきた。
レオナたちが食べていたものと同じ通常サイズのシチューに加えてパンも買ってきており、小柄な人ならそれだけで十分な量だった。
更には飲み物も買ってきたらしくコップが4つ乗ってあり、そのうち2つをレオナたちの前に置きながら口を開く。
「子守りありがとな。これはお礼だ」
「子守りなんて……カーリーン君は大人しいし、色々聞いてきて賢いわよ?」
「ちゃんと私の説明も理解していたようだし」
「ははっ。まぁそれは知ってるが、さすがに子供1人にするのはな。んで、何の話をしてたんだ?」
ドラードは再び俺を足の上に乗せながらそう聞いてくる。
「冒険者のこととか」
「あぁ~。そういえば親に聞いたことないのか?」
「なかったね。あまりそういう話にならないし」
「へぇ、カーリーン君の親も冒険者なんだ?」
「オルティエンから来てるって言ってたけど、今は特にわざわざ来るほど変わった依頼とかもないはず……」
「護衛依頼じゃないかしら?」
「子供も連れて?」
「結婚してる冒険者はハンターに転職したり、しばらくは移動しない人ばかりだけど、たまにいるじゃない」
両親が冒険者のようなことをしてたのは事実なので、とくに否定はせずに残りのご飯を食べていると、ふと気になった。
「あれ? 父さんってハンターじゃなかったっけ? でも旅もしてたんだよね?」
2人の話の邪魔にならないように、ドラードにだけ聞こえるように聞いてみる。
「ん、あぁ~。別に、ハンターだからって旅をしちゃいけないってわけじゃないしな。まぁあいつは元々ハンターだったが、旅をしてた頃は冒険者の方に登録してたな。移動先で依頼を受けるときにそっちの方が便利だとかなんとかで。まぁ結婚する頃にはまたハンターに戻ってたが」
「それもそうか……というか、そんなころころ変えられるものなの?」
「あいつは特殊っちゃ特殊だが、変えること自体はできなくはない。ランク制度も同じだしな」
「そこはさっきアリエスさんに聞いた」
「ん? 呼んだ?」
アリエスとレオナはこっちの話は耳に入っていないようだったが、名前を呼ばれたことで気がついたらしい。
「ううん。"こんなことを教えてもらったよ"って話をしてただけ」
「そう。そういえば、1週間くらいしたら帰るって言ってたから、多分往復の護衛依頼を受けたんだと思うけれど、今日は他の依頼を受けてて、その間はドラードさんが見てくれてるかんじ?」
「今日は別の用事があるだけだけど、そんなかんじだよ」
アリエスたちの中では俺の両親は冒険者ということになっているが、実際は貴族だし、そもそも冒険者じゃなくハンターらしいので、詳しい説明が面倒になった俺はあいまいな返事をする。
「お、このシチューうまいな」
ドラードも説明が面倒だと思ったのか、何も言わずにシチューを食べて感想を漏らす。
「でしょ? そこそこいいお値段になるけれど、美味しいから結構食べることが多いのよ」
「この場所ならどこもそんな感じだけど、その分何を食べても美味しい」
「ここにはよく来るの?」
「町にいるときは、ほぼ毎日来てるわね」
「それだけ稼げるほどに腕はいいようだしな」
「あ、ありがとうございます」
食べながらではあるが、ドラードに褒められて2人は若干照れている。
「カー坊も食べてみるか?」
「……少しならまだ食べられるけど……」
そう言ってドラードからシチューを少し貰う。
ちゃんとメインの具材である肉も食べさせて貰い、その肉は舌でつぶせるほど柔らかく、簡単にほどけてシチューと溶け合い、すごく美味しい。
「美味しい! お肉が名前通りホロホロとほどけて柔らかい!」
「だろ。これでも何時間も煮込んだわけじゃなく、他の具材と同じほどしか煮込んでないはずだぞ。ステーキとかでもこんな感じになるしな。まぁこうなるから串焼きの場合は崩れないように注意が必要だがな」
ドラードは俺の反応を満足そうに見て笑い、自分も食べながらそう話してくれる。
「名前がホロホロ鳥だもんね……食感で名前がつけられてるとか……」
「そんなもんだろう」
――たしか前の世界にもホロホロ鳥っていたよな……あっちは鳴き声からとか見た目からとかって話だったけど、由来としては似たようなものか。まぁ生きている時の印象より、そのあとに食べた時の印象ってのが独特だけど……。
「まぁ鳴き声もホロホロホロって鳴くがな。2重でホロホロだ」
そんなことを思っていると、ドラードが高い声で鳴き声を真似てきて納得するとともに、その様子がおかしくて3人で笑ってしまった。
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