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131.市場を移動

 少し話しながら走っていると、市場に到着したようで馬車が止まる。


「この先は馬車は入れないから、ここから歩いて見て回るぞ」


 馬車を降りてドラードがそう言いながら手を差し出してくるので、「うん」と返事をして手をつなぐ。


 ――人も多いみたいだし、はぐれたら大変だもんな……ドラードは背が高いからそこそこ見つけやすいと思うけど、俺はまだ小さいからお互い見えなくなりそうだし……。


「結構かかると思うから、昼は適当に食べてまたここで待っててくれ」


 ドラードは御者さんにそう言うと、「かしこまりました。いってらっしゃいませ」と軽く頭を下げて見送ってくれる。


 馬車を止めておける広場から市場の中心に向かって歩いて行くと、露店や店舗が増えるにつれて人も増え始め、"手をつないでてよかった"と思うほどごった返してくる。


 ――さすがに普通に歩いててぶつかるほどではないけど、俺は歩くのも遅いし、手をつないでないとすぐにはぐれそうだ……


「人多いね……」


「まぁもうすぐ昼だからなぁ。これでも他の市場と比べると少ないほうだ。貴族とぶつかったりして目をつけられると大変だからって、この市場自体を避けてる住民もいるからな」


「そういう貴族もいるんだ……でもこれだけ人が多いと、結構ぶつかる人も多そうだけど」


「見るからに貴族って分かる人が通るときは、普通に避けられるらしい」


「つまり、俺は貴族っぽくないと」


「はは。まだ子供だからなぁ。それにいい生地の服を着てはいるが、カー坊は飾り気のあるものを着ないから、"そこそこ儲けてる商会の子供"とでもみられてるんじゃないか? まぁそれでも避ける人はいるから、今は普通に歩けてるが」


「ドラードの服装が執事服とかじゃなくて普通の服だから、使用人っぽくないってのもあるんじゃない?」


「ははは。それもあるかもなぁ。口調もこんなんだしな」


 ――リデーナに散々言われてるだけあって、そういう自覚はあるんだよな……。


「どうかなさいましたか? 貴族のように見られたいんですか、カーリーン様?」


 俺が呆れたようにドラードを見上げていると、急にまともな使用人らしい口調でそう言ってくる。


「うわぁ……」


「"うわぁ"とは失礼だな」


「いや、リデーナに散々注意されてるのは知ってるけど、いざドラードにそういう口調で接されると違和感が凄い……ドラードは今まで通りでいいよ、その方が接しやすいから……」


「はは、ありがとよ」


 さっきまでのからかうようなニヤケ顔をやめて、普通に笑ってそう言ってくる。


「もう何件か通り過ぎたけど、この辺りの店は見なくていいの?」


 店を見てはいるが寄ることはせず、通りの真ん中を歩いて行くドラードにそう尋ねる。


「後で確認するかもしれんが、この辺りは人が多いからな。もう少し中の方に行けば人も減るし、食い物屋も多い」


「中の方が少ないの?」


「貴族や育ちのいいやつもそれなりに来るから、食べる場所としてテーブルが置いてあったりして、店自体が少ないからな。それに中央の近くにも馬車を止める場所があるから、そっちの方が貴族関係のやつとでくわす可能性がたかい」


「向こうにも場所があるのに、わざわざこっちから来たんだ……」


「色々見て回りたいだろ?」


「それはそうだけど……」


「んで、さっきの話の続きだが、中央付近はそうなってるからあまり歩きたくないやつが来ることも多く、そういう裕福層狙いの値段が高めな店も多い」


「なるほどね……それじゃあ、なおさらこの辺りで買った方が良いんじゃないの?」


「まぁ安さならそうなるがな。金がないわけじゃないし、別にふっかけられるわけじゃなく、普通に品質が良いらしいから、そっちで探してなければ移動って感じだなぁ」


「金を持ってるみたいな発言は、あまりしない方が良いじゃない……?」


「はははは。オレから盗れるものなら盗ってみなってな」


「そういうフラグはいいよ……まぁドラードなら大丈夫だろうけど……」


 ドラードの戦闘力もある程度は知っているので問題はないと思うが、少しだけ不安になってしまう。


「俺が(さら)われたらドラードのせいだね」


「おいおい、縁起でもないこと言うなよ……それにオレが一緒にいて手を出させると思うか? これでもフェディ並みに気配感知できるんだぞ?」


 ドラードが苦笑しながらそう言ってくる。


「知ってるよ。じゃなきゃ今回のお使いの許可も出なかったでしょ。兄さんや姉さんはともかく、俺はまだ自衛も難しいし……」


 まだ王都の治安もよく分かっていないので、"冗談だよ"とは言わず正直に話す。


「んー。カー坊ならもうその辺の輩くらいなら対処できそうだがな。手っ取り早く足元を凍らせれば、慣れてないのもあって、すぐに対処何てできんだろうし」


 ドラードは少し考えながら、俺に出来る自衛方法を教えてくれる。


「使えるだろうけど、実際そうなった場合にできるとは限らないじゃん……人に向けて魔法を使うことなんて、稽古で少しやったくらいなのに……」


「やっぱりカー坊は賢いなぁ。普通の子供ならアレくらい魔法が使えれば、"やっつけてやる"くらいの気概になりそうなものだが」


「……子供っぽくなくて悪かったね」


「ははっ。そこまでは言ってないだろう? 拗ねんなって。ほら、今は店を見て楽しむんだろ?」


 ドラードは笑いながらそう言って、俺が人ごみの上から周りが見えるように抱き上げる。


 視点が一気に高くなったことで、露店に並んである色とりどりの野菜や果物が見えるようになる。


「うわぁ。色々あるね。それにいい匂いもする」


「だろう? 中央まではもう少しあるが、この辺りにも飲食店があるんだろうな」


「そういえば、ドラードは王都はほとんど知らないって言ってたのに、詳しいね?」


「まぁ昨日、別の市場で色々聞いたからなぁ」


「ちゃんと情報収集もしてたんだ」


「"ちゃんと"って……何をしてたと思ってたんだよ……」


「食い歩きとか?」


「まぁ否定はしない」


 ドラードがやっていそうなことを素直にいうと、笑いながらそう返してくる。


「でも、そういうことをするためにも、ある程度情報は得た方が効率良いからな」


「買い物とか食い歩きのために聞いて回ってたんだ?」


「はは、そうとも言うな。何せオレが知ってる町の情報は少ないし古いからな。オルティエン領のことならまだしも、他の町のことなんてほとんど知らんし」


「父さんたちと旅をする前も、フラフラしてたんだっけ?」


「あぁ。あちこち寄りはしたが、買い物するくらいで長居はしないから、そこまで情報も必要なかったからな」


「自由な旅人だったんだ」


「まぁそうだな」


「ほかの国にも行ったことあるの?」


「もちろんだ。海を渡ったこともある」


「へぇ。海かぁ……」


「そういえば、カー坊は見たことないか」


「うちの領内にもあるんだよね?」


「あぁ。だからたまに料理に海の魚も出てるだろ?」


「……言われないと分からないよ……」


「ははは、そうか。まぁこの王都から南の方に行けば港があるから、この市場なら魚介類もあるだろうな」


 そんな話をしていたら、俺のお腹が小さくクゥっと鳴った。


「はは。お腹すいたか」


「この匂いと話題のせいだよ……」


「恥ずかしがるなって、それじゃあ先に飯にするか」


「うん」


 抱かれているので、間近でお腹の音を聞かれたことに少し恥ずかしくなったが、"ドラード相手にそこまで恥ずかしがることもないか"と思って普通に返事をする。


 俺を抱いたことで早く歩けるようになったドラードも、俺と同じように屋台のご飯が気になるのか、気持ち早歩きで市場の中央の方へ向かった。

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