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129.お使い

 注意事項といっても、基本的な「怪しそうな人にはついていかない」や、「困ったらすぐにお店の人などの大人に相談する」というものだった。


「今回はドラードと一緒だから、すぐにドラードに報告しなさいね。まぁ、あなたなら大丈夫だと思うけれどね。ちゃんとお使いをこなせたら、今後もお使いをお願いするかもしれないわ」


 さすがに、まだ幼いから好きな時に遊びに行く許可までは貰えそうにないが、これから町に行ける回数がさらに増えるかもしれないと分かり、お使い自体のやる気も上がる。


「お使いは何を買ってくればいいの?」


「そうねぇ……あまり重たいものや大きいものだと大変だから……茶葉を買ってきてもらおうかしら」


 母さんはそう言うと銘柄をメモした紙と、注意事項を伝えている間に用意させていた小袋を俺に渡してくる。


 小袋からはチャリチャリと金属のぶつかり合う音がしているので、茶葉の代金として硬貨が数枚入っているのが分かった。


 ――そういえば初めてお金をつかうなぁ……まぁこういう事でもないと、常に使用人か両親と一緒にいるから、持つ必要がないもんなぁ。


 そう思いながら、硬貨数枚しか入っていない小袋は、ポケットに入れても邪魔にはならなさそうなので、そこにしまう。


「買い物に行く時なのだけれど、リデーナは私たちと一緒に行かないといけないから、他の使用人に御者を頼んで馬車を出してもらいなさいね」


「別に歩きでもいいんだが。なぁ?」


 ドラードがそう言って俺に同意を求めてくるが、俺は場所を知らないため答えられない。


 ――ドラードがそう言うなら、そこそこ近いんだろうけど……まぁいざとなればドラードに抱きかかえてもらえばいいし、どっちでもいいかな。


「買い物が終わったらそのままナルメラド邸に来るんでしょう? その時に歩きだと少し遠いし、カーリーンのお使い以外にも、あなたの買い物もあるのだから荷物もあるでしょうに」


「……たしかにな。それじゃあ、頼むか」


 ドラードがそう言うと、母さんがメイドさんに馬車の用意をするように伝える。


「俺たちだけで買い物に行ったのが知られると、兄さんはともかく、姉さんは拗ねそうだね」


「ふふふ。まぁ仕方ないわよ。あの子のお使いの練習のときも使用人と2人きりだったし、分かってくれるわ」


 あとで、"姉さんを(なだ)めないといけないかもしれない"と思っていた俺は、母さんの言葉で安心した。


「それでいつ頃に出るの?」


「逆に聞くが、いつ頃からなら出ていいんだ? オレが買いたいものなんだが、昨日は見かけてないから時間がかかるかもしれなくてな」


「そんな珍しいものなのか?」


「いや? オルティエンでは普通に売ってるし、高いもんじゃないぞ」


「そうねぇ……お昼を食べてからじゃダメかしら?」


「昼飯なら、屋台か食堂に入って食べるぞ? なぁ?」


 ドラードが再び同意を求めるように俺を見てそう言ってくるが、今回は屋台や食堂がすごく気になるので「うん!」と即答する。


「うふふ。カーリーンはすごく楽しみなようね。分かったわ。お昼食べてからになると、お父様のところへ行くのも遅れるだろうし、今から行ってもいいわよ」


「うん、ありがとう! 行ってきます!」


「えぇ。ドラード、カーリーンをよろしくね」


「あぁ。もちろんだ」


「カーリーンも、ドラードを頼んだぞー」


 ――ドラードに俺のことを頼むのは分かるんだけど、逆に俺にもドラードのことを頼むのか……まぁルアードの町でもそうだったけど、王都でもすぐに出かけてたしなぁ。じいちゃんのところに行く時は俺から言わないと、いつまでもズルズルとあちこち見て回るかもしれないか……。


 そう思いながら「うん!」と元気よく返事をして、ドラードと一緒にリビングを出た。




 玄関についたあと、ドラードは少し準備をするために離れていたが、馬車の用意が終わる頃には戻ってきていた。


「聞いてると思うが、市場まで頼む」


 俺が馬車に乗ったあと、ドラードは御者さんにそう言い、「かしこまりました」と返事を聞いてから馬車に乗る。


 ドラードは立場は使用人だが、両親と旅をしていたからなのか、魔龍討伐に関わっていたからなのか分からないが、両親と同列とまではいかなくても、他の使用人からかしこまった口調で話されることが多い。


 ――オルティエンではリデーナをはじめ、ベルフも砕けた口調で話してるから、こっちに来てから初めて知ったんだけどな。ドラード本人はいつもの口調だし、ナイロたち以外は一時的な使用人だから、その差かもしれないけど。


「それじゃあ、最初にカー坊のお使いを終わらせるぞ」


「その方が時間ギリギリまで散策できるもんね。でも、あまり遅くならないうちに向かわないとダメだからね?」


「ははは。分かってるって。カー坊が満足したら言ってくれ。すぐにでも向かうさ」


 ――笑いながらそう言ってるけど、つまり俺が言わないと散策が続くかもしれないってことか……両親だけなら許してくれるだろうけど、今日はじいちゃんのところだから気をつけないと……。


 そう思いながら、ゆっくりと貴族街の中を走っていく。


 新型の馬車は両親が使うため、今乗っているのは普通の馬車のようで、乗り比べてみると振動が大きく感じる。


 それでも、さすが王都の主要の道なだけあって凹凸も少なく、昨日より速度も出ていないからか、思ったほどではない。


 貴族街との境にもなっている川を渡り、少し走ると馬車が止まる。


「到着いたしました」


 御者さんの言葉を聞いて馬車を降りると、カップや茶葉の入った瓶などのイラストが描かれている看板が目に入った。


 店舗自体はそこまで大きくはないのだが、()()()()と考えると納得できるし、店の前なのに茶葉の良い香りが漂ってきており、雰囲気もいい。


「さて、ここからはカーリーンのお使いの練習だからな。困ったらオレに聞いてもいいが、まずは1人でやってみろ」


 ドラードは優しくそう言いながら、俺の背中を押して店内に入る。


 店内は、袋で小分けされている茶葉を置いてある棚の他に、カウンターのうしろの容器にも茶葉が入っているのが見える。


「いらっしゃいませー」


 棚の商品を陳列していた店員さんが笑顔でそう言うと、寄ってきて話しかけてくる。


「本日は、何か決まった銘柄をお求めですか?」


 着ている服の質からなのか俺が貴族だと察しているようで、ドラードではなく、俺に目線を合わせて聞いてくる。


「うん、でも先に棚のものを見せてもらってもいい?」


「えぇ、構いませんよ。何かありましたら、お声をお掛け下さい」


 貴族街が近いからか店員さんの接客態度も非常によく、微笑んでそう言ったあと棚の陳列に戻る。


「ドラード、上の方がよく見えないから抱き上げてくれない?」


 そこそこ上の方にまである棚は俺の身長ではよく見えないので、そう言って抱き上げてもらう。


「銘柄はカレアから聞いてるのに、すぐに言わなくてよかったのか?」


「うん。こんなに種類があるのに、すぐ出るのはもったいないじゃん」


「はは。まぁそうだな」


 ドラードは俺のワガママにも笑顔で返し、抱いた状態でゆっくりと店内を移動してくれる。


 それぞれの小袋の前に張られた紙には、メジャーなものだと銘柄が書いてあるが、混ぜてある茶葉の種類や、大まかな割合が書いてある棚もあった。


「かなり種類が多いね」


「まぁ茶葉自体はそこまで種類はないが、育った環境や加工手順で変わって来るからな。味に敏感だとひとつまみの違いも分かるし、自分の好みを探す楽しみ方もあるからな」


 料理人のドラードもその違いが分かるのか、配分量などを見ながら楽しそうに茶葉の棚を見ていた。

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