127.王都での初めての朝
ナルメラド邸での夕食はとても豪華なものだった。
普段のうちのように席についてから運ばれてくる形ではなく、先にメインディッシュとなるものが大皿でダイニングルームに用意されており、それをメイドさんに取り分けてもらい、取り分けられてもキレイに飾られている料理を見ながら食事を楽しんだ。
食事中も黙々と食べるのではなく、じいちゃんがうちに来た時のように話しながら食べており、食事が終わったあとも、そのままデザートなどを食べながら談笑をしていた。
特に久しぶりに実家に帰ってきた母さんとは、伯父さんや伯母さんのことや、母さんが幼い頃からこの屋敷にいる使用人の話なども懐かしみながらしており、そのほとんどのメンバーが変わらず残っていることを知ると、「時間があるときに、お話ししたいわ」と嬉しそうにしていた。
馬車の感想などはほどほどにして話をしていたのだが、積もる話がたくさんあって盛り上がっていたので、帰った頃にはもう子供たちは寝るような時間だった。
じいちゃんが「今日は泊まっていくか?」と聞いてくれたのだが、せっかくの王都に屋敷もあるし、子供たちにそっちも慣れてほしいということで屋敷に帰り、馬車は快適だったとはいえ旅の疲れが溜まっていたようで、寝る準備を終えた俺はすぐに眠ってしまった。
翌朝、カーテンが開けられ、瞼に日があたって意識が浮上してきた。
「おはようございます。カーリーン様」
そう声をかけてきたのは、この屋敷で働いでいる年配メイドさんのリアミだった。
「ん~……おはよう……リアミ……」
「はい、おはようございます。私の名前も覚えているなんて、記憶力もすばらしいですね」
帰ってきてからもほとんど話す機会がなかったリアミは、まさか俺が名前を憶えているとは思っていなかったようで少し驚いていたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべる。
――"記憶力も"って言ってるってことは、魔法のこととかは知ってるのかな?
そう思いながら体を起こし、ベッドのふちに座る。
「お顔を洗う用の桶をお持ちしますか?」
「ううん。脱衣所まで行くよ」
「かしこまりました。でしたら、そちらで着替えましょう」
そう言いつつリアミは手早く俺の着替えを用意してくれて、手をつなげるように差し出してくる。
――まぁまだ見た目は幼いもんな……一緒に生活してたらそのうち大丈夫だと思われるだろうけど、2日目だししかたないか。
などとまだ完全に起ききっていない頭で考えつつ、手を握って部屋を出た。
顔を洗って着替えたあとリビングに向かうと俺が最後だったようで、他の家族はすでに座って話をしており、俺が起きてきたので朝食の時間となった。
――いつもと味付けが少し違う? ってことはドラード主体で作ってるわけじゃないんだな。そういえばドラードは道中の料理はしてくれたけど、名目は護衛として付いてきてたんだっけか……まぁこれはこれで美味しいから何も問題はないんだけど。
そんなことを思いながら朝食を食べて食休みをしていると、父さんが今後の予定などの話をしてくる。
「さて、昨日は遅くもなってあまり話せなかったが、お披露目パーティーまでは予定が何も決まっていない」
「稽古とかは?」
「俺やカレアは他の家から声がかかって出かけることもあるかもしれんから、やるなら朝のうちだな……ナルメラド騎士団のところへ誘われているのは、お披露目パーティーのあとになるが……」
「えー! 早く行ってみたいわ」
「うぅ~ん。まぁそれはちょっと今日相談しておこう。カレアの魔法の稽古はどうする?」
姉さんのわがままに苦笑しながらも前向きに検討するように言ったあと、母さんにそう聞いている。
「そうねぇ。アリーシアちゃんの魔法もみるって約束したから、そっちもお兄さまと相談してからになるわね」
「まぁ、昨日到着したばかりでおまえたちも慣れていないだろうから、今日の稽古は休みだな。また何か予定が入ったらその時に伝えよう」
父さんがそう言うと姉さんは残念そうにしていたが、俺としてはこの屋敷も探索しておきたかったのでちょうどいい。
話も一区切りついたので、早速俺は「屋敷の中を見てみたい」と言うと、リアミが案内してくれるようで、朝と同じように手をつないでリビングを出ると、他のメイドと入違った。
――代わりのメイドさんかな? あー、どうせなら兄さん姉さんも誘えばよかったかな? 兄さんはさっそく何かの本を読んでたし、姉さんは稽古は無しって話をしたのに、リデーナを連れて庭に飛び出したから仕方ないか……。
そう思いながらエントランスまで来たところで、玄関のドアが開いた。
開けた人物は執事のナイロだったのだが、その後ろには伯父さんがいた。
「む。おはよう、カーリーン君」
「おはようございます、伯父さん」
――さっきのメイドは伯父さんが来たことを伝えに来てたのかもな。
一瞬なにやら戸惑ったような表情を見せた伯父さんは、俺に挨拶をしたあと近づいてきて、目線を合わせるようにしゃがむ。
「……あー、昨日はすまなかったな」
「え?」
突然の謝罪に困惑していると、伯父さんは言葉を続ける。
「アリーシアとのことだ。大人気ないと思いなおして強くは言わなかったが、"そう思うなら、本人にそのことも言わない方がよかったのでは"とか、"あんな幼い子に何を言おうとしたのか"などとイリスに言われてな……」
――あー……たしかに踏みとどまったなら、くぎを刺そうとしていたことも黙っておけばよかったもんな……まぁ今もこうやって事情を話してくれているあたり、正直な性格なんだろうけど。
そう思いながら苦笑していると、伯父さんは俺の表情に気がついて、少し慌てた様子で口を開く。
「い、いや、違うぞ? 別に妻や娘に言われたから謝りに来たのではなくてだな? 私自身、"君のような年齢の子に、何を言おうとしてたんだ"と反省していたから言っているんだ。どこぞの馬の骨ならいざ知らず、カレアの子で娘が楽しそうに話す相手で……見た目もカレアの幼い頃に似ているから溜飲が下がったのも事実だが……」
――最後のがなければ、普通にくぎを刺してた可能性があるのでは……それにしても、やっぱり親子なんだなぁ、慌ててるときのまくしたてる感じがアリーシアさんと似てる。
早口で弁明している伯父さんを見てそう思うと、可笑しくなって少し笑ってしまった。
「む、どうした?」
「あ、ごめんなさい、今の慌て方がアリーシアさんと似てたから……」
「むぅ……職場ではこのようなことはないんだがな……家族とのこととなるとな。それにカーリーン君が相手というのもあるか」
「母さんに似てるから?」
「まぁ、自分で言うのもなんだが、カレアとは仲も良かったし大切にしていたからな……どうしてあんなお転婆になったのか……いや、そのおかげでフェディと出会えて幸せそうだし……」
――父親かな? じいちゃんと同じようなこと言ってる……まぁじいちゃんも仕事が忙しくて家を空けることも多かっただろうし、父親代わりみたいになってたのかもな。
「それで、今日はそれを言うためにわざわざ来たの?」
何やら考え込みそうになっていた伯父さんに別の話題を振って、正気に戻す。
「ん、あぁ、いや、別の要件もあるんだが、一言謝っておきたいというのも用件のひとつだった」
「俺――僕は気にしてないから大丈夫だよ。父さんたちに用があるならリビングにいるよ」
「あぁ、ありがとう」
伯父さんは優しい笑みを浮かべて、なでてくれたあと立ち上がる。
「それと、私と話すときも家族と話す様に砕けた口調でいいぞ」
別れ際にそう言われたので、「うん、わかった」と少し大きめの声で返事をして、俺は屋敷の探索に戻った。
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