119.初めての屋外泊
日が陰り始めた頃、森の中から父さんたちが戻ってきた。
父さんは燃料として使えそうな枝などを片腕に抱え、兄さんは何やらデカいウサギのようなものを両手で抱えている。
「あら、狩りもしたの?」
「ちょうどいいのがいたから、ライとエルの練習がてらにな」
両親がそう話していると、兄さんは獲物を竈の近くに居るドラードのところに持っていき、何も持っていなかった姉さんは俺のところにきた。
「アレ私が狩ったのよ!」
「弓もないのによく仕留められたね?」
――魔法を使った可能性もあるけど、魔法であんなにキレイな状態で仕留めるのは、姉さんだと無理だろうしなぁ。でも姉さんが狩ったらしいし……。
「お兄ちゃんが、私の方に向かうように追い詰めてくれたの」
どうやって狩ったのかを考えていると、姉さんが答えを教えてくれた。
「なるほどね。楽しかった?」
「えぇ、とても! カーリーンも来ればよかったのに」
「俺がいたら狩りはできなかったかもしれないし、俺は俺でこっちで準備が楽しかったからね」
「あ、また机とか作ったのね?」
姉さんは狩りの興奮がいまだに収まっていないのか、テンションが高いまま俺の作った机の方に近づく。
「お、エル嬢。いい獲物を狩ってきてくれたなぁ」
さっそく捌く準備をしていたドラードにそう声を掛けられ、姉さんは嬉しそうに返事をしている。
「せっかくだから、コレも今夜の食事に出せるように捌いてくるからゆっくり休んでてくれ。ルアードで買ったジュースがまだ残ってるから、冷えたのが良いならカー坊に冷やしてもらうといい」
「カーリーン、そんなこともできるようになったの!? みせてみせて!」
ハイテンションのまま素早くジュースの入った瓶を持ってきてそう言うので、それを冷やしてあげると抱き付いて褒めてきた。
俺が氷魔法を使えることを知らなかった父さんや兄さんは、使った時は驚いていたが、すぐにいつもの表情に戻って姉さんと一緒に褒めてくれた。
完全に暗くなる前に竈や焚火に火をつける作業は、兄さんが魔法の練習としてやっていた。
といっても兄さんは、火をつけることくらい簡単にできるので、"練習"というよりは"手伝い"だったのだろう。
今日の夕食も、屋敷での準備と比べると手早く、さらには屋外の竈で作ったとは思えないほど見た目もきれいに飾られていた。
とくに父さんたちが森で採ってきた山菜や、姉さんが狩ったウサギなど、外ならではの料理はすごくおいしかった。
――こう言ったら失礼だとは思うけど、俺たちの好きな味を知ってるドラードの料理の方が、宿の料理より美味しく感じるんだよなぁ。まぁ今回は父さんたちが採ってきたものもあるし、特別感があるからなおさらか。
今は食器などの片付けも終わり、焚火の近くで魔法で作った椅子に座ってのんびりと話をしている。
「さて、この旅路も半分終わったわけだが、ここで初めての野営だ。といっても、準備はしっかりしているし、天候もいいから辛いものではないが」
「あの馬車もあるもんね」
「あぁ。それでまぁ、寝る場所なんだが……」
「私がフェディとテントで寝るから、馬車はライとエルとカーリーンで使っていいわよ」
「……ということだ」
なにやらいい笑顔で言う母さんに視線を送られて、どこか気まずそうに頬を掻きながら父さんはそう答える。
――あれ? グラニトは騎士団から持ってきてるテントがあるって聞いたけど、もう1つはリデーナが使うだろうし……。
「ドラードは?」
「っぷはははは! 大丈夫だぞ、カー坊。俺も旅をしていた頃の1人用のものを持ってきている」
ドラードはどうやら両親が一緒に寝ることを予想していたようで、しっかりと準備をしてきていたらしい。
――行く前に一緒に寝るようなことも言ってたしな……割り振るなら父さんとドラード、リデーナと母さんの組分けになるか? いや、母さんが馬車で寝る場合は、兄さんが父さんと寝るだろうし、そこにドラードも一緒となると少し窮屈になるだろうから持ってきてたのか。
普通の体格の男性であれば、3人くらいは寝られそうな大きさのテントを見ながらそう考える。
――父さんはもちろん、ドラードも身長が高いから、あのテントだと2人でちょうど良さそうだもんな。まぁ、あくまで余裕をもたせるならの話で、窮屈でも寝るだけなら3人でもいけそうだし、見張りとかするから交代もあるだろうし。
大人たちが見張りの順番を話し合っているのを聞いてそう思っていると、兄さんが話に参加し始めた。
「僕も見張りをやってみたいです」
「お? そうだなぁ……俺は最後になるだろうし……」
「それじゃあ、初めの方担当の俺とやりますかな?」
見張りの順番は、馬移動の人がなるべく休めるようにと早めになり、馬車で移動する父さんが最後になっていたため、グラニトがそう提案する。
「はい! グラニトさん、よろしくお願いします!」
兄さんが嬉しそうにそう言うと、グラニトはニカッと笑って返事をしている。
――前の時はまだ幼かったし、さすがに見張りは参加しなかったのかな? しかし、兄さんがこの申し出をしたとなると……。
「私もやりたい!」
俺の予想通り、隣に座っていた姉さんも、手を挙げて元気よくそう告げる。
「はははは。こうなるわなぁ。んじゃあ、エル嬢はオレとだな。一番始めだ」
「えぇ、わかったわ!」
すんなりとドラードから許可がもらえた姉さんは、嬉しそうに返事をしていた。
寝る前にお風呂の代わりに体を拭き、それぞれがテントへ入っていく。
汚れを落とす【クリーン】という魔法があり、男性組とリデーナはその魔法で済ませたのだが、母さんと姉さんはリデーナに拭いてもらっていたので、俺も気持ちの問題で拭いてもらった。
「土魔法で、簡易的なお風呂を作れるようになろうかな……」
「それいいわねっ!」
魔法だけでもサッパリはするのだが、俺はできるならお湯につかりたいのでそうつぶやくと、姉さんが思ったいた以上に食いついてきた。
「ふははははっ。野営では余分な魔力を使わないように、【クリーン】ですら使わないことがあるくらいなんだぞ?」
「まぁ、そうだよね……」
すぐに眠れそうになかった俺は、姉さんと一緒に見張りに参加し、焚き火の近くに座って話をしている。
「はははは、まぁ今回みたいに魔力量に自信がある場合は別だがな。しかし、いちいち風呂を作るって話は、さすがのオレも聞いたことがないぞ」
ドラードはさっきのオレの言葉がツボに入ったのか、笑いながらそう言ってくる。
「あまり大声で笑うと、父さんたちが起きちゃうよ?」
「おっと。そうだな」
「母さんと旅をしてた頃も、そういうのはなかったの?」
「あー。天然の温泉や、暑い時期にちょうどいい湖とかを見かけたら入りはしたが、わざわざ作りはしなかったな。カレアは土魔法が苦手だしな」
「それもそうか……」
――今でこそ魔力量は多いけど、旅をし始めた頃はそこまでじゃなかったかもしれないしなぁ。なんともたくましい令嬢だったんだな……それにしても、お風呂かぁ……あの机や竃の出来栄えを考えると、作れそうかな? まぁ今日はもう遅いからまた機会があれば試してみるか。
しばらく焚き火のパチパチという小気味よい音を聞きながら話していると、交代の時間になったようでグラニトがテントから出てくるのが見えた。
「さて、交代の時間だ。ライ坊を起こして、おまえたちはしっかり休むんだぞ」
「えー。まだ起きていられるわ」
初めての屋外泊ということで、テンションが上っている姉さんは駄々をこね始める。
「……姉さん、俺はもう眠いよ? 寝ないの?」
「そうね。寝ておかないと、明日の移動中に寝ちゃいそうだものね」
俺が目をこすりながらそう言うとあっさりと意見を変え、俺の手を取って立ち上がる。
ドラードは、俺がわざとそういう行動を取ったことに気がついているようで、姉さんに見られないタイミングで、「よくやった」というように親指を立ててくる。
ドラードとグラニトに「おやすみ」と言って馬車に向かっていると、兄さんが起きて馬車から出てきた。
「おはよう兄さん、少しは眠れた?」
「んー! まぁね。カーリーンも見張りに参加してたんだね。2人ともお疲れ様、朝までゆっくり休むんだよ」
兄さんは伸びをしたあと、そう言いながら俺と姉さんをなで、「おやすみ」と言って焚き火の方へ向かう。
「2人だと広すぎるわね」
「だったら、こんなに引っ付いて寝なくてもいいんじゃない?」
普段一緒に寝る時のように、俺に抱きついて横になった姉さんにそう言う。
「あとでまたお兄ちゃんが戻ってくるでしょ?」
「まぁそうだけど……」
「それにまだ夜は冷えるから、暖かくてちょうどいいわ」
姉さんは満足そうに微笑みながら抱き直してくるが、俺もその意見には同意できるので、いつものように抱かれて眠りについた。
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