118.氷
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王都へ向かい始めてから4日目になった。
昨日までは道中の町にある貴族が泊まれる豪華な宿に泊まったのだが、今日はいよいよ屋外泊となるようだ。
町に寄れば宿くらいはあるのだが、防犯面の関係もあって貴族は泊められないという場所もあり、どこにでも宿泊できるというわけではなく、他の貴族の家以外となるときちんとした宿に泊まるしかないらしい。
父さんと兄さんが2人で行ったときには、村に寄って村長の家にお世話になったこともあるようだが、今回は家族で移動しているため、こんな人数でお世話になる事はできないのでそうしているようだ。
移動の際にいつも使う宿などがあるのではないかと思ったが、道中の天候や馬の状態で多少変わるのでそういうのもなく、特に変に思われることもないらしい。
「しかし、もう半分はきたなぁ……」
屋外泊をするのによさそうな場所で馬車が止まると、降りて伸びをしたあと父さんがそうつぶやく。
「そうねぇ。このペースなら次の町にもたどり着けるかもしれないけれど、時間に余裕はあるのだから問題はないわね」
次の最寄りの町に向けて移動していたとしても、馬車で1日の距離にあるとは限らないらしく、目的地を王都として進んでいるこの道では、ちょうど町がない区間のようだ。
それでも新型の馬車であればもしかしたらたどり着けるかもしれないが、母さんの言う通り2週間を目途に出発し、4日目で半分まできているのだから急ぐことはないのだろう。
「まぁエルやカーリーンも楽しみにしていたようだしな」
父さんの言葉で母さんも振り返り、両親の優しい視線が俺と姉さんに向けられる。
――まぁ俺も屋外泊は楽しみだったからなぁ……キャンプみたいだし。それぞれの町を見るのも楽しかったけど、流石にちょっと飽き始めてたからな……。
父さんと兄姉は移動中に馬車を降りて軽く走って並走したりもしていたが、流石に俺はそういうことはしなかった。
――まだ転ばないとも限らないしな……それに馬車から声を掛けるだけでもいい暇つぶしにはなったし。
そう思っている最中も、リデーナやドラードが馬車から荷物を取り出して野営の準備をしている。
まだ夕暮れというには早い時間ではあるが、これから準備などをしているとすぐに日が陰ってくるだろう。
「それじゃあ、近くに森もあるから、薪用の枝集めに行くか」
「俺はここで何か手伝ってるよ」
「そうか? それじゃあライ、エル、行くか?」
俺はまだ足手まといになると思って辞退したが、兄姉は喜んで父さんの誘いに返事をして森へ向かう。
「それじゃあ、テントはリデーナとグラニトがやってくれているから、私たちは机とかの準備をしましょうか」
母さんがそう言ってくるので返事をして移動し、よさそうな場所で初日に使ったように土魔法で机や竈を作る。
「やっぱりきれいに作れてるわねぇ。上出来よカーリーン」
母さんは俺の作った机などを触りながら褒めてくれるので、少し照れながらお礼を言う。
――こういう作業は使用人の仕事じゃないのかなとも思ったけど、うちだと今さらだよな。まぁ母さんは俺の魔法を見たかっただけかもしれないけれど。
そのあとリデーナが母さんのところに来て、今後の予定などを話し始めたので、俺は何かの作業をしているドラードをみつけたのでそちらに向かった。
「何やってるの?」
「お、カー坊。箱の水を抜いてるんだ」
ドラードの手元には冷蔵箱として氷と食材を入れてある箱があり、その下部にある栓を抜いて氷が解けて溜まった水を抜いているようだ。
「保温効果が高い作りになっているとはいえ溶けるからなぁ。流石に1日1回は入れ替えてるんだ」
ドラードはそう言って栓をして蓋を取ったので中を見てみると、底の方には水が溜まっても平気なように簀の子のようなものがあり、氷と食材が直接触れないように仕切りも設置してある。
「へぇ、そうなってたんだ。そこに氷をいれるの?」
「あぁ、ここに入れて冷やしておくんだ。すぐに使わない食材は直接ある程度凍らせたりもするがな。【フリーズ】」
ドラードはそう言って仕切りの中の小さくなった氷を取り出すと、食材に氷魔法を使って軽く凍らせる。
「【アイス】。はい、ドラード。これくらいでいい?」
「おう、サンキューなカー坊」
俺はドラードの作業を見ながら、それを手伝おうと魔法で仕切りに入るくらいの氷の塊を作って渡すと、ソレを箱に入れたあと動きを止める。
「……はぁっ!? 氷!?」
「え、ダメだった?」
「いや、ありがたいはありがたいんだが、カー坊、氷魔法使えるのか?」
「ドラードも使ってたじゃん」
「いや、そうなんだが……」
「どうしたの?」
ドラードが騒いだのが気になったらしく、母さんとリデーナが様子を見に来た。
「なんか俺が氷魔法使ったらドラードが驚いちゃって……」
「カーリーン、氷魔法使えるの!?」
「……え? ドラードも使ってたよ?」
「まぁ、ドラードはね……えっとね、カーリーン、氷魔法を使える人はこの国には少ないのよ」
「え、そうなの?」
「えぇ……火は生活に必要だし、水や風は身近なものだけれど、氷は違うでしょ?」
「冬にできるけど……」
「冬だけでしょ? まぁ一時的にとはいえあるにはあるし、この国でも使える人はいるのだけれど……」
「適性を持ってる人が少ないと?」
「適性というよりは、そもそも想像しづらいというか……とにかく使える人は少ないのよ」
――火や水と違って、"凍る"という現象が身近にないからか? それよりも……。
「使えたらマズい……?」
「そんなことはないわ! いろんな魔法が使えて私は嬉しいわよ!」
母さんは先ほどまでの驚いた表情から一変、嬉しそうに笑顔でなでてくれるので、問題はないことが分かってホッとする。
「……さっきの言い方だと、母さんは使えないの?」
「えぇ。私は魔力が多くて苦手な土魔法とかも使えるけれど、氷魔法は使えないわ。リデーナでさえ使えないのよ」
「え、そうなの?」
「えぇ。私もロレイも使えません。使えるものも、ドラードの他には数名しか……」
リデーナは未だに少し驚いたような表情でそう答える。
――エルフ族は魔法技術に長けているのに、そのリデーナが数名しか知らないってかなり希少なんじゃ……。
「そんな魔法を使えるドラードって……」
「いやいや、俺はヒト族じゃないからな? まぁさっきは驚いちまったが、もっと寒い地域に行けば使えるやつは増えるからな。カー坊は使える魔法が増えたことを喜べ」
ドラードはニカッと笑ってそう言ってくれる。
「……身近にあると使える人が増えるってことは、逆に荒野や砂漠みたいな地域だと水魔法が使える人は減るの?」
「お。いいところに気がついたな、その通りだ。だからあっちの方では水自体が売り物になってたりするし、水魔法が使えるというだけで地位が上がったりする。氷の場合だとなおさら高価になるな。まぁこの国周辺では水魔法でも冷却はできるから、氷魔法が使えるからといって地位が上がるとかそこまでのことはないがな」
「ドラードも色んなことを知ってるね……」
「そりゃあ長生きだからなぁ。そのぶんあちこち旅もしたし」
ドラードはそう言って笑いながら、氷を詰めなおした箱を閉めて次の箱を取り出す。
「……カーリーン様が氷魔法を使えるのは、ドラードの影響でしょうか? よく厨房に遊びに行っておりますし」
俺のうしろで母さんとリデーナが何か話をしていると思っていたら、そんな言葉が聞こえてきた。
「まてまて、俺の"せい"……いや"おかげ"? だと思っているのか? カー坊がいるときに氷魔法を使った事なんて……いや、あったか? あったかもしれん……」
「あ、あったよ」
「あったらしい。ということは、俺のおかげだな」
俺が肯定すると、ドラードはなぜか誇らしげに笑いながらそう言う。
――"どこで覚えたのか"とか聞かれても困るしな。ドラードの氷魔法は今日初めて見たんだけど……ドラードがこんな性格で助かった……。
「ふふふ、そうねぇ。あの土魔法のことといい、お爺さまを十分驚かせることが出来そうねぇ?」
母さんはドラードを注意するどころか、嬉しそうに笑いながら俺をなでてくるので問題はないのだろう。
――しかし氷魔法がそんな扱いだったとは……空気を冷やす時も水魔法だったのはそれが原因だったんだな……見たこともない魔法に関しては、あらかじめどういう扱いなのか聞いてから見せた方がいいか? 空間魔法はもちろん、もし雷魔法が使えたらどういう反応されるか分かったもんじゃないし……。
そんなことを考えながら、父さんたちが戻ってくるまで俺が使える魔法について少し話をつづけた。
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