116.長く感じた1日目
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
そのまま家族だけで少しの間くつろいでいると、別の使用人がお風呂の用意が出来たと伝えに来たので、みんなで入ることになった。
みんなといってもルアード伯爵邸は他の貴族などがやってくることも多いので、本邸のお風呂も2つあるらしく、時間をずらすことなく別々の場所で同時に入浴するという意味だが。
流石に姉さんは自分の家ではないからか、今日は一緒に入るように誘ってこなかったので、俺は父さんと兄さんと一緒に入ることになった。
相変わらず兄さんは俺とお風呂に入るのが恥ずかしいらしく、さっさと入浴を済ませて戻ってしまったが、父さんも母さんと比べると出るのが早いため、それに合わせて出ることにした。
――自分ちだったらもう少し長くつかっていたんだけどなぁ。その場合一応ロレイかリデーナが見に来てくれるけど、今日はそういうわけにもいかないし仕方ないか。
そんなことを思いつつ、最初に案内された部屋でのんびりしていると、母さんたちも戻ってきた。
「……姉さんはなんで不機嫌そうなの?」
母さんと並んで入ってきた姉さんは、少し不機嫌そうに口をとがらせているので、何があったのかを母さんに聞いてみる。
「うふふ。ルアード家だからって遠慮していたのだけれど、本当はカーリーンと入りたかったんですって。準備をしているときに"うちではよくカーリーンと入っている"ってクーリに話したら、"仲がよろしいですねぇ"って言われたのよ。そのあと少し話をしてたのだけれど、"カーリーンくらいの年齢であれば別に一緒に入ってても不思議じゃない"って話になってねぇ」
「あぁ……遠慮して何も言わなかったけど、一緒に入ってよかったならそうしたかったって拗ねてるんだ……」
「そういうことよ」
「拗ねてないわよ」
姉さんはそう言いながら俺の隣に座ってクーリに用意してもらったお茶を飲んでいると、ドアがノックされて執事さんが入ってきた。
「失礼いたします、オルティエン様。お部屋のご相談に参りました。1部屋ずつご用意できるよう準備は整っておりますが、いかがなさいますか?」
「そうだなぁ、俺とカレアは同じ部屋で頼む」
父さんは隣に座った母さんに目線を向けると、母さんは父さんの意図を即座に理解したかのように優しく微笑みながら頷き、その様子を見た執事さんは「かしこまりました」と丁重に返事をした。
「お母さんたちが一緒でいいなら、私もカーリーンと寝たいわ!」
先ほどのことがあったからか、姉さんは両親の部屋割りを聞いて手をあげながらそう言う。
「それなら兄さんも一緒に寝ようよ」
――父さんたちが一緒に寝られるサイズのベッドがあるなら、俺たち子供3人でも大丈夫だろうし、うちのベッドだとさすがに3人だと狭いからなぁ。まぁ姉さんが俺の部屋に来て寝てるだけだから、一緒に寝るようのベッドじゃないしな……
「それもいいわね! お兄ちゃんも一緒に寝ましょ?」
「え、う、うん、いいよ」
妹と弟に誘われた兄さんは断れなかったのか、すんなりとソレを承諾した。
――俺とお風呂に入るのはちょっと恥ずかしがったりするのに、一緒に寝るのは別にいいのか? でも馬車で寝るときの話では恥ずかしがっていたし、やっぱり母さんと一緒に寝るのが恥ずかしいお年頃なんだろうなぁ。
俺たちのやり取りを微笑ましく見ていた執事さんは、両親に確認をとり、最終的に両親と子供たち3人で別れて寝ることに決まった。
「それでは、夕食の用意ができましたらお呼びしに参りますので、この部屋をご自由におつかいください」
執事さんは丁重に一礼して穏やかな口調でそう言って退室した。
夕食の用意ができるまでの間、久しぶりに友達の家に来た母さんは、セイラの部屋に行って話をしていた。
その時に一緒に行かないかと誘われたが、ゆっくりしたかった俺は父さんと兄姉と一緒に部屋でのんびりと過ごす方を選んだ。
夕食のときは、いつものうちと同じように話をしながらの食事となり、移動中に父さんが言っていたように、子供たちが質問すると嬉しそうにそれに答えてくれるので話が弾んだ。
俺が特産品のことを聞くと、まだ幼い俺からそのようなことを聞かれるとは思っていなかったようで、ルアード伯爵夫妻は少し驚いていたが、すぐに笑顔に戻って熱心に教えてくれた。
その話をしたからか、食事の際に出ていたブドウジュースとは別に、食後のデザートとしてブドウも出してくれたので、兄姉と俺はその濃厚な味に驚きつつも美味しくいただき、ルアード伯爵夫妻はその反応を見て笑みを浮かべていた。
食事が終わったあともその部屋でしばらく団らんしていると、再びお風呂に入ることになり、あまり汗はかいていないのだが、寝巻に着替えることもしないといけないうえに、俺は寝る前にさっぱりしたかったのでちょうどよかった。
しばらくして部屋にみんなが戻って少し話をしていると、夜もいい時間になったため解散となり、執事さんが俺たちをそれぞれの部屋に案内してくれた。
「明日は早いから、あんまり夜更かししたらダメよ?」
「うん、わかった」
俺たちの部屋は両親の部屋の向かいに用意してくれており、部屋の前でそう話をしたあと「おやすみ」と言ってそれぞれの部屋に入る。
室内は最初に案内してもらった応接室と比べると狭いが、ソファーやローテーブルなども置いてあり、寝泊まりする部屋にしては広々としている。
――多分父さんたちの部屋と同じような感じなんだろうなぁ。ベッドもかなり大きいから、3人が川の字になってもゆったりと眠れそうだ。
「落ちたらダメだからカーリーンが真ん中ね! 私とお兄ちゃんで落ちないようにしてあげるわ」
「あはは、そうだね」
兄さんが一緒に寝るのは珍しいからか、少しテンションが高い姉さんがベッドに近寄りつつ、寝る位置を決めると、兄さんも笑いながらそれに同意している。
「ブドウ美味しかったわねぇ」
「そうだね」
ベッドに上がりはしたがすぐに寝るわけではなく、珍しく子供3人だけなこともあってか話をしはじめる。
「ドラードにもブドウとかを買って来るように頼んだのに、先に食べちゃったなぁ」
「いいじゃない、明日また食べられるってことでしょ? それにドラードが買ってくるのは、また少し違う味かもしれないわ。そっちも楽しみね」
「そんなに気に入ったんだ?」
「すごく美味しかったもの。カーリーンはあんまり好きじゃなかった? それなら私が食べてあげるけど」
「そんなことないよ!? 俺も食べるよ」
俺が少し焦ったようにそう答えると姉さんは「冗談よ」といいながら笑い、その様子を見ていた兄さんも静かに笑っている。
そんな話をしているとドアがノックされ、リデーナが入室してきた。
「失礼します。明日のご予定ですが、日が昇り始めたころに起床し、準備を終えたあと出発となります」
――まだ日が昇るのは遅めな時期だから、出発は思ったより遅いのか。まぁヘッドライトとかあるわけじゃないし、暗い時間に進まなくていいならそうするか。
「何か質問や気になることはございますか?」
一通り予定の説明をしてくれたリデーナがそう聞いてくると、兄さんが「大丈夫だよ」と答える。
「かしこまりました。しばらくは廊下で待機しておりますので、何かありましたらお呼びください。いくら馬車での移動といっても、夜更かししませぬよう」
「リデーナも御者をやってくれるんだから、早めに休んでね?」
俺がそう言うと、リデーナは少し驚いた表情をしたあと柔らかな微笑みを浮かべる。
「ふふ、分かりました。お気遣いありがとうございます。それでは、おやすみなさいませ」
リデーナはそう言うと、部屋の照明を消して静かに部屋を出ていった。
「それじゃあ寝ようか」
「えぇー。せっかく今日はお兄ちゃんも一緒なのにー」
兄さんの言葉に、姉さんが不満そうにそう言うが、「移動し始めて初日の夜だし、まだまだこういう機会はあるよ」と兄さんに説得されて大人しくなる。
俺は俺でその大人しくなった姉さんに、いつものように抱かれて眠る形になったのだが、"今日は3人だけど、これなら掛布団からはみ出ることもないな"などと思いながら眠りについた。
ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!
※お知らせ※
ツギクルブックス様より、「異世界に転生したけど、今度こそスローライフを満喫するぞ!」の第1巻が発売されました!
どうぞよろしくお願いいたします!





