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114.ルアード領都

 たまに馬車や旅人たちとすれ違いながら街道を進んでいく。


 モンスターや野盗の脅威もあるうえに、移動するとなると時間や手間もかかるためか、その数は多くはないが。


 それでも町と町を行き来する乗合馬車ともすれ違ったので、仕事にせよ旅行にせよ、そういう人たちもいるのはたしかなようだ。


 ――いつか俺もあちこち見て回りたいなぁ。まぁまずは、うちの領内にある港町に行けるようになってからだな。


 この街道沿いには町や村がなく、次に着く町はルアードの領都になるらしい。


 正確には少し遠回りをすればいくつかあるらしいのだが、"特に用事もないのでこのまま領都へ向かう"と、遠くに見える村らしき場所を指をさしながら教えてもらった。


 そのまましばらく色々と教わりつつ進んでいると、再び父さんが右前方を指さしながら口を開いた。


「見えてきたな。あれがルアードの領都だ」


 父さんが指差す方を見ると、壁に囲われた町が見える。


 今は少し高い場所を走っているようで、ある程度町の中まで見渡すことができた。


「おぉー! 大きい!」


 オルティエン領都もなかなかに広いのだが、危険な森や山脈が近くにあって拡張しにくいうちと違い、周りには草原が広がっているルアード領都は広げやすいのかもしれないなと思う。


「壁は少し低いのね?」


 自分も窓から見えるように、俺の隣にきて一緒に見ていた姉さんが、父さんにそう言っている。


「ははは、そうだなぁ。ルアード領都はオルティエン領都と違って、見ての通り見晴らしがいいからな。異常はすぐに発見できて対処もしやすいんだろう」


「普通はこのくらいなのよ? うちみたいな壁で囲ってるのは、他の辺境の領都や王都くらいだわ」


 ――たしかにオルティエン領都の壁はゴツいし高いもんな……まぁ、防衛のためと考えると頼もしいけど。


「しかし、思ったより早く着いたな……時間を調整するために休憩は長めにとったつもりだったんだが……」


 空を見ると太陽はまだかなり高く、夕方頃に着く予定だったため結構早い到着となったようだ。


「そうねぇ。まぁ早くなるかもしれないことは伝えてあるから大丈夫よ」


 母さんは、予定より早く訪ねてしまうことを心配そうにしている父さんにそう言うと、姉さんにちゃんと椅子に座るように注意して、元の位置に座らせる。


 そんなことを話しつつ徐々に町に近づくと、門の前に並んでいる人たちが見えた。


「結構並んでるみたいだけど……」


「まぁ野盗たちもいるから、一応軽いチェックがあるからなぁ。それにちょうど商人たちが着く時間帯だから列ができているが、この時間帯だけだな」


「あれだけの荷物を全部確認しようとすると、結構時間かかりそうだもんね」


「商業ギルドに登録して、そのタグや証明書を持っていると簡単に確認するだけだし、持っていなかったとしてもそこまで細かく確認するっていうわけじゃないがな」


「冒険者とかもそうなの?」


「あぁ、そうだ。そういったギルドに登録していない人は、出身の村や町の長とかの証明書がその代わりになる。まぁそこまでしなくとも町には入れるし、よっぽど急ぎか"頻繁に往来することになった人が書いてもらうことがある"という程度だが」


 ――なるほどなぁ。ギルドに所属するとそういう利点もあるのか。チェックはそこまで厳しくないらしいけど、平常時からそこまできびしくする必要もないくらい平和なんだろうな。


 父さんに色々聞きながらそんなことを考えていると、並んでいる人たちの横を通り過ぎて門の前まで向かう。


 列の先頭付近まで来たところで、門のところにいる軽鎧を着た人たちのうち、1人がこちらに気がついて向かってきた。


「こちらはオルティエン家の馬車です。ルアード伯爵からの書状はこちらに」


 窓を少し開けたままなので、リデーナと門衛がそういうやり取りをしているのが聞こえてくる。


 ――そっか、家紋とかないから外観で貴族だって分からないんだもんな。


「しょ、書状を確認いたしました! オルティエン家の皆様、ルアード領都へようこそ。お通りください!」


 書状を確認した門衛は、背筋を伸ばしてどこか緊張したようにそういうと、門のところにいる他の人に合図を送る。


「荷物とか確認はないんだね」


「うふふ。さすがに貴族相手にだし、領主様からの書状もあるからね」


 俺のつぶやきが聞こえていた母さんに笑いながらそう言われつつ、門をくぐって町に入る。


 入ると同時に門衛の1人が馬にまたがって、どこかへ急いで向かったようなのだが、おそらく領主邸に伝えに行ったのだろう。


 ――そういえば、うちはロレイたちがお客さんの到着を把握してるけど、同じように門衛が走って来てるのかな?


 そんなことを考えながら、馬車は人々の話し声や商人の呼び込みの声が響く、活気にあふれた大通りを進んでいく。


 道はオルティエンと同じように魔法でキレイに整えられており、道中と比べると揺れも減った気がする。


 窓から町を眺めると、門に近い大通りだからか商店が多く、馬や馬車を止めておける場所がある宿なども見える。


 商店の他にも露店も幾つか見え、そこにも結構な人が買い物をしているようだが、大通りの中央は馬車が通るように決められているのか通行人はおらず、止まることなく進むことができている。


「あ、ブドウの香りがするわ」


 姉さんが馬車の中に入ってきた甘い香りをかいでそう言う。


「はは。ルアードの名産品だからなぁ。門から近いし、それを買い付けに来る商人もいるからな」


「あのジュースは美味しかったもんね。元となる果物はどんな感じなんだろ?」


「お、気になるか?」


 窓は開けたままだったので、俺の言葉を聞いてドラードが寄って来てそう言う。


「まぁそりゃあ。というかよく聞こえたね……」


 ――中央あたりは馬車専用になってるからか、ある程度は人ごみからは離れているとはいえ、それでも聞こえてくる人の声や、整備された道の上を走っている馬車の音がする中でよく聞き取れたな……。


「まぁ、耳の良さには自信があるからな。んで、食べてみたいなら買ってきてやろうか? といっても今夜は伯爵様のところにお世話になるから、食べるのは明日以降になるだろうが」


「え、ドラードは一緒に行かなくていいの?」


「あぁ、俺はあくまで"護衛"だからな。"使用人"のリデーナは一緒に屋敷に入るが、護衛の俺たちは別館か近くの宿になる。それに、少し食料も追加で買っておきたかったからな」


「それじゃあ、お願いしようかな」


「私の分も買ってきて!」


 母さんを挟んで反対側に座っていた姉さんが、俺たちの話を聞いて、母さんの膝に手をついて身を乗り出して俺の方に寄りながらそう声を張る。


「はは、もちろんだエル嬢。全員分買って来るさ」


 "僕のも"とは言い出せなかった兄さんは、ドラードが"全員分"と言ったことで少し嬉しそうにしている。


「あまり買い過ぎないようにしてくださいね」


「それじゃあ、リデーナの分は――いや、分かってるって、買って来るから睨むなよ」


 まだ食材は昼食分しか使っておらず、ここで買い過ぎても荷物になるだけだとリデーナに注意されたドラードは、仕返しにからかおうとしたようだが、どうやら休憩中にも見た鋭い目つきで圧をかけられたらしい。


「まぁそれじゃあ、またあとでな」


 ドラードは俺たちにそう言ったあと、グラニトに「任せたぞ」とだけ伝えて速度を落として別れた。


「ふふふ。ドラードも楽しそうね」


「ははは、そうだなぁ。昔と変わらないな。すぐ食べ物の匂いにつられていなくなったと思ったら、色々と買ってきてたもんな」


 ドラードとの旅が久しぶりな両親は、昔のことを思い出しながらその様子をみて笑っていた。

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 前にも書きましたが、『領地名=治めている貴族の家名=領都の名前』なので、"〇〇領都"と表現することが多くなると思います。"領の話ではなく領都の話"だと分かる場合などは省くと思いますが……


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