11.就寝と起床
姉さんが俺にお菓子を食べさせてはしゃいでいると、父さんと兄さんがお風呂から戻ってきた。
ロレイナートも気配を察知するのが得意なのか少し前からドアの近くに待機していて、ノックもないのにドアを開けたらちょうど父さんたちが来たという感じだ。
「おぉ。今日はいつにもまして賑やかだな?」
そういいつつ自分の席を母さんの隣に持ってきて座り、何があったのかと覗いて来る。
「エルに出してたボーロを食べられるようになったのよ」
「おぉ! それじゃあ明日からは一緒に食べられるな」
母さんは姉さんが勝手に食べさせたことを伏せて父さんに説明すると、子供たちが見ているからか大げさに驚いた表情を見せた後、ニカっと笑いながらそう言った。
――まぁ父さんはそれに対して叱りそうにはないし、母さんがもう注意はしてるからいいのだろう。
「んーあーーー」
一応話をそらそうとお菓子の催促をすると、姉さんが小さく砕いたものを食べさせてくれた。
兄さんも食べさせてみたいのかそばに来てその様子を見ていたので、今度は兄さんをじっと見て催促してみる。
「え? まだ食べるの?」
「すこしずつしかたべさせてないもん、まだたべられるよねー? にーさんもたべさせてみる?」
姉さんはそういって摘まんでいた欠片を兄さんに渡すと、ゆっくりと俺の口元に持ってきてくれたのでパクっと食べる。
「あはは、お腹がすいてたのかな?」
口の中でボーロを溶かし、ゆっくりと食べる俺に微笑みながら優しくなでてくれる。
そのあとも父さんからも食べさせてもらったりしつつ、しばらく団らんしてから寝室へと向かった。
各自が寝室に行くとリデーナやロレイナートは「おやすみなさいませ」と言った後退室した。どうやらそこまでが仕事のようで、そこから入浴したり自分たちのことをするようだ。
子どもたちもそれぞれ自分の部屋があるようで、先ほども来た寝室には両親と俺だけになった。
風呂上りに着たゆったりとした服装のまま寝るようで、母さんは上着を脱いでベッドに座って父さんの寝る準備が終えるのを待っていた。
父さんも同じように薄手の上着を脱いだ後、首元を緩めるように上のボタンだけ外してから母さんの隣に座る。
「朝の稽古からエルも参加させるの?」
「あぁ、そのつもりだが……やっぱり早いから昼間の稽古の方がいいか?」
「あなたの本を読んでエルもやる気みたいだし、一応起こしてあげた方がいいんじゃないかしら?」
「むぅ……自分からやる気になってくれるのは嬉しいことだが、あの本に感化されるとはなぁ……」
やはりあの絵本は父さんのことを書いていたようで、当人は少し恥ずかしそうに頭を掻く。
「身体づくりは大切だが、女の子だし俺の稽古よりお前の魔法の稽古の方が先だと思っていたが」
「あら? 私もあなたと並んで前にいるタイプの魔法使いよ? そこに並べるほどの身体能力もあって損はないわ」
「いやまぁカレアはそうだったんだが……」
「私も身体強化魔法を駆使してようやく並んでたんだから、元がいいならそこも必要ないかもしれないでしょ?」
「それもそうだが、そもそもそういう事態には……」
「ないとは言えないでしょ? モンスターの出る森があり、そこからの氾濫を抑えるための街でもあるんだから」
話をしているとドアがノックされて姉さんが「はいっていーい?」と聞いてきたので、父さんがドアを開けた。
「エル、どうした?」
「いっしょにねていーい?」
「えぇいいわよ。おいで」
母さんがそういうと隣に座り、姉さんを挟むようにして父さんも座る。
「ちょうどいいわ。エル、明日朝から稽古あるみたいだけど、起きられる?」
「うん! がんばる!」
「ひ、昼からでもいいんだぞ?」
「んーん! 昼の稽古もやる! フーゴみたいに強くなりたい!」
「ふふふ。やる気は十分みたいね」
「あぁ、そのようだな……」
娘にはまだ早いかと思って渋っていた父さんだったが、本人のやる気とキラキラと期待している目には勝てなかったらしい。
「それじゃあ寝るか。エル、朝起こすが……眠かったから朝稽古は参加せず寝ててもいいから、起こした父さんのこと嫌わないでくれよ……?」
「ん? ならないよ! だいすき!」
そういいつつ父さんに抱きつく様子を見ながら、母さんは俺をベッド横のベビーベッドに寝かせて掛布団をかけてくれる。
「ふふふ。私たちの英雄様も、娘には弱いようね」
俺にだけ聞こえるくらいの声量で笑いながらそうつぶやくと、ベッドに上がって姉さんが真ん中になるように3人で横になって就寝した。
「――さん、おとーさん」
姉さんの声が聞こえて俺は目を覚ました。
窓から外は見えるが早朝と呼んでいいのか悩むほど暗い。
「む……どうしたエル」
「あさだよ」
「……暗いが……」
「あーさーだーよ」
「わかったわかった」
父さんは眠そうに目をこすりながら体を起こして窓を見るが、やはり暗い。
「鳥たちも動き始めたから本当に朝だな」
「そーだよ!」
――姉さんは時計もないのによく起きられたな……それだけ稽古が楽しみだったのだろうか。というか鳴き声は聞こえてないと思うんだが、鳥の動きわかるのか父さん……
「しー。カーリーンが起きて……るな……」
姉さんがちょっと大きめの声を出したため、俺が起きないようにと言おうとして母さん側にあるベビーベッドを見たので、ばっちり目が合ってしまった。
「お、おーあー(お、おはようございます)」
「ん……カーリーン起きたの? お腹すいた?」
父さんと姉さんの声に加えて俺の声も聞こえたからか、母さんも体を起こしてベビーベッドによって来る。
「おはよー。おかーさん」
「おはよう、カレア」
「えぇ、おはよう。2人が起きたってことは朝? まだ暗いけど」
「うん、あさ!」
「そのようだ。今日はカーリーンは夜泣きしなかったな」
「お風呂の後にボーロを食べたからお腹がすかなかったのかしらね? いい子にしてくれていたからゆっくり眠れたわ」
――確かにお腹はすかなかったが、おしめの方は……起こすのも悪いなぁと思って我慢してます。
「それじゃあ着替えて準備するか」
「リデーナ達はまだ来ないだろうから、着替えさせてあげるから動きやすい服持って来なさい?」
「わかった!」
姉さんはそういうとパタパタと自分の部屋へ向かった。
「ふふ。やる気満々ね?」
「あぁ。俺が起こされたくらいだ……」
「あら、そうなの?」
「じゃなきゃいくら何でも早すぎるからな」
「それもそうね。今日はゆっくり眠れたし、久しぶりに朝稽古を見ていようかしら」
「はは。その方が張り切るだろう」
「それはあなたが? 子供たちが?」
「……両方だ」
気恥ずかしくなった父さんは、軽く顔を赤くして背けながらつぶやいた。
「ふふ。それじゃあ私も着替えなくちゃね。その前にカーリーン、おしめは大丈夫かしら?」
「いーーあー……」
放っておくとかぶれの原因にもなるし、起こすまいとした事で逆に余計な心配をかけるのもいかがなものかとスッと目をそらしてしまった。
「ふふふっ。なぁにカーリーン。私の言ってる言葉がわかってるのかなー?」
母さんが笑いながらおしめを確認する。
「あらあら。この状態でよく泣かなかったわね。今替えてあげるからね」
そういうとおしめを替えられてすっきりとした俺は両親の様子を見ていると、姉さんが服を着替えて戻ってきた。その後ろにはきっちりとメイド服を着ているリデーナが付き添っている。
「おはようございます、旦那様、奥様」
「あら、おはよう。まだ早いのに」
「いえ、これも仕事ですので」
「ロレイも起きてるのか?」
「はい。稽古前の軽い食事を作ってもらいに厨房にいっております」
「今日はみんな早起きだな。ライも起こして準備させてきてくれ」
「かしこまりました」
そういうとリデーナは出ていき父さんは動きやすい服装に、母さんはシンプルな授乳しやすい服に着替えた。
――父さんはハンターだからわかるけど、母さんも自分で着替えるんだなぁ。まぁ昨日"父さんと並んで戦っていた"ようなこと言ってたし、箱入り娘ってわけじゃなさそうだしな……
みんなの着替えが終わると、寝室を出てリビングへと向かった。
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それにしても……書いておいてアレだけど長男の影が薄い……