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101.馬車

 玄関から外に出ると、程よく装飾がある質がよさそうな素材で出来た馬車が目に入った。


 ――うちは母さんもあまり派手なものは好まないからか、想像してたより飾りとかはないけど、このツヤや高級感を感じさせる色合いはすごく貴族っぽい。


「おぉ! 今あるものより少し大きいか?」


「えぇ、たしかに大きいわねぇ。でも邪魔にはならなさそうだし、いい大きさね」


「ヒオレス様の言葉をそのまま申し上げますと、『ただでさえ大きいフェディがいるうえに、子供も3人いるのだから、これくらいないと窮屈だろう』とのことです」


「はは……まぁそうだな」


 父さんはコーエンから言われた、じいちゃんの言葉に苦笑している。


「前にじいちゃんが来たときにも思ってたんだけど、家紋というか、なんかそういう印みたいなのはないの?」


 俺は馬車のまわりを眺めながら思ったことを聞いてみる。


「そうねぇ。付けるところもあるけれど、王都から遠くなるほどそういう貴族は減っていくわ」


 ――貴族の馬車だとわかったほうが威厳を伝えられるんじゃ……あ、いや、遠くになるほど盗賊とかに狙われる可能性が高くなるからか?


「貴族が盗賊や野盗に襲われたという報告はあるが、王都から離れている領地を持っている貴族はモンスターを相手にすることも増えるから、自然と戦いに慣れているものが多くてな。襲われたとしても捕らえられなくとも撃退はできている。うちもそうだしな」


 そう考えていると、父さんが説明をしてくれる。


「そこで家紋が付いていない馬車でも、"勝てない相手が乗っている可能性がある"と野盗たちに思わせているのよ。まぁさすがに素材はちゃんとしたもので作られているけれど、それは商人も同じようなものだからね」


「どれに貴族が乗っているか分かりにくくして、野盗から襲われる可能性を下げてるんだ?」


「そういうことよ。離れている領地だからといっても、みんなが私たちのように戦えるわけではないから、少しでも被害を出さないための策ね」


「向かってる方向でバレそうな気がするけど……」


「ん~。領地に戻るときはそうなるわね。でも、モンスターの関係もあって王都から離れるほど野盗たちは減っていくから、襲撃のほとんどは王都寄りの地域なのだけれど、そのあたりの街道は少なくて同じ道を通ることが多いのよ。だから、十分被害は減ったらしいわ」


 ――たしかに道は少ないほうが守りやすいと思うしなぁ。同じ道を通るってことはそのぶん人目も増えるから、それが野盗避けにもなってるだろうし。


「高級そうな馬車への襲撃が減ったぶん普通の馬車が襲われたり、撃退や捕縛できてた数も減って野盗たちが減らないんじゃないの?」


「もともと普通の馬車を襲ったところで儲けは少ないからなぁ。それに冒険者が護衛依頼を受けて同行していることも多い。となると一攫千金というわけではないが、高級そうな馬車が狙われることが多かった。だが、この策を始めてからはそれもやりにくくなり、自然と馬車を襲うもの自体が減った。まぁその代わりに町などが狙われることが多くなったが、こうなると予測していた国からも補助金が出され、各領主が力を入れて警備を強化したから、ちゃんと捕まえられている」


「なるほど……」


「うふふ、まぁこういう話はまた王都へ向かうときに馬車で教えてあげるわ。エルにも教えておきたいからね」


 母さんが笑ってそういうので、今度教えてもらえるのならそのときでいいと思い、「うん」とだけ返事をして、再び馬車の周りを移動しながら見始めた。


「驚きました。ヒオレス様やヘリシア様から話は伺っておりましたが、カーリーン様は聡明ですね」


 今のやり取りを見て、コーエンが驚いた表情で両親にそう言う。


「今のように色々と聞きたがってきて、ちゃんと教えているからかしらね?」


「カーリーンはライと一緒に本を読むことも多いし、そこでも知識を得てるんだろうなぁ」


 ――最近は両親やリデーナたちも何も言わない気にしてなかったけど、やっぱり普通の人からすればちょっとおかしいんだな……でも初めてのことばかりで気になるんだからしかたない!


 俺はそう考えながら、いつの間にか来ていたロレイナートに馬車のドアを開けてもらい、中を見させてもらう。


「おぉ~! 中も広いし、座席も柔らかい!」


「えぇ、本当ねぇ。これなら長時間乗っていても疲れにくいし、なおさら1日での移動距離も伸びそうね?」


 俺が中を見始めたあたりで、近くに来ていた母さんも座席を触って同じ感想を言う。


 座席の背もたれ部分や座席の下を見ていると、レバーのようなものがあるのに気がついた。


「ねぇ、コーエンさん、これ何か知ってる?」


「おや、私が説明する前に気づかれましたか」


 馬車のことを一通り聞いているであろうコーエンにそう聞くと、微笑んで近くまできた。


「見ててくださいね、レバーをこうして、引っ張るとー」


 コーエンがレバーを引いてガコッという音がしたあと、座面が前方向にスライドして背もたれ部分が倒れていき、平らな状態になった。


「おぉ!? ベッドみたい!」


「本当ねぇ。前の馬車は座席に板を乗せて準備していたから、これは便利ね!」


「でもこの広さだと、父さんは寝れなさそうだね……」


「はははは、たしかになぁ。でも大丈夫だぞ。もとから屋外泊のときは、外で見張りもするからテントで寝る。それはカレアとおまえたちが使えばいいさ」


 俺たちのうしろで様子を見ていた父さんは、そう言って笑いながらなでてくれる。


「テントといえば、そちらも持ってきております。こちらへどうぞ」


 コーエンさんがそう言って馬車のうしろに回るので、両親と一緒についていく。


 馬車の後部には取っ手が付いてあって、開けられるようになっているようなので、トランクのようなものだと分かった。


 ただ、その部分を見たときにふと違和感を感じた。


「ねぇ。コーエンさん、そこ魔道具?」


「え!? そ、そうですが……よくお分かりになりましたね……」


 ――あぁ……こういう反応も久しぶりな気がする……家族は諦めたのか受け入れてくれたのか、あんまりこの手のことで驚かなくなってるもんな……ありがいことだけど。


「"マジックボックス"か?」


「えぇ。この馬車にはマジックボックスが備え付けられています」


「容量は? 1.5か、2か?」


「こちらは3ですね」


「またそんな……」


「ねぇ、その数字って何?」


 俺には何のことか分からない数字を聞いて、母さんが呆れたような声を出すので、素直に聞いてみることにした。


「えっとね、マジックボックスっていうのは、外見より多い容量の箱のことをいうのだけれど、それの倍率ね。うちにも旅用にあるけれど2倍のものしかないわ。しかも普通の人が持ち運べるサイズの2倍でも結構値が張るのに、このサイズで3倍だなんて……これだけで普通の馬車が何台買えるのかしら……お父さまは本当に……」


 母さんは再び呆れたような声色でそう言いながら、幅はほぼ馬車と同じで、高さも50センチほどあるトランクを眺める。


 ――なんと! 空間系の魔道具じゃないか! やっぱりあるんだ!!


「町に行くときとか使ってなかったけど、こういうのもあるんだね?」


「魔道具だから魔力を込めなきゃいけないからね、使わなくていいならそれに越したことはないのよ」


「魔力がなくなったら中身はどうなるの?」


「ん~……コーエン、ちょっと開けてくれる?」


 母さんは俺を抱き上げてそう言うと、コーエンがトランクを開けてくれる。


 中は奥行きが1.5メートルほどと、後部座席の足元より向こうまであるように見えるので、中を見たあとだと目がおかしくなったのかと思ってしまう。


「えぇと、分かるかしら……少し奥のところにある線が見える?」


 母さんが目線を合わせて指をさすのでその先を見てみると、50センチほど奥に、彫られたような溝がぐるりと内側を這っているのが見えた。


「あの溝?」


「えぇ、あのあたりが本来の大きさなの」


 ――たしかに全体の奥行きは、あそこまでの長さの3倍くらいだな……。


「魔力が切れると、奥から徐々に内部を押し出すようにして、あの線まで戻るのよ」


「いきなり消滅したり、散乱したりはしないんだ」


「何よその物騒なもの……まぁ中身がたくさん入っている状態で蓋をしてて、そのときに魔力が切れると押し出されてきたもので蓋が吹き飛ぶから、散乱はするわね」


「中に人は入れるの?」


「生き物は生体魔力があるから無理ね。だからひっかける棒などを使って出し入れするのよ」


 そう言ってトランクのドアの内側に取り付けてある、返しのある棒を指さす。


 その近くに魔石もあったので、これが魔力を補充する場所だと分かった。


 ――ほほ~なるほどぉ。まぁこの奥行きだと、手を入れられたとしても取りにくいしな……魔石が内側にあるのは防犯対策かな? またはぶつけられてもある程度耐えるようにか。


「だから基本的に使わないときは空にしておかないと、忘れていて魔力が切れたときに大変なのよねぇ」


 母さんは過去にそういう経験があるのか、どこか思い出すような感じで苦笑しながらそう言った。


「ちなみに、重さはどうなるの?」


「あくまでこれは空間を広げているだけだから、中身の重さそのままね」


 ――この世界の人だと持ち上げられる人も結構いるだろうけど、ほどほどの大きさじゃないと色々不便そうだな。


「まぁそれらを積み込むのは俺の役割だな」


 そう言いながら父さんがワシワシと撫でてくれるので、「たしかに父さんなら余裕そうだね」と言うと豪快に笑っていた。

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