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100.急な来客

 数日が経って注文していた服が仕上がったという連絡があり、今日届けに来るらしい。


 最近は王都に行く日も近づいており、稽古はほどほどにして授業の時間が増えている。


 というのも、前に習っている兄さんやパーティーに参加しない俺はともかく、姉さんは王都に関する知識と、マナーやダンスの練習など、パーティーに参加するにあたって最低限のことを学んでいるためだ。


 マナーは問題ないくらいには身についているし、ダンスは体を動かすのが得意な姉さんはすぐに合格を貰ったのだが、やはりというか勉強のほうで詰まっているらしい。


 俺もダンスの練習は今のうちから参加しておいたほうがいいのではと思ったが、普段はやらない練習なので期間が空いてしまううえ、兄さんが短期間で十分出来るようになったので大丈夫と言われた。


 ――いやぁ、優秀な兄さんと比べられてもなぁ……まぁ7歳の子供メインのパーティーだからダンスの重要性が低く、そもそも本格的に踊れる子が少ないらしいし、母さんがそう言うなら大丈夫なんだろうけど。


 ダンスの練習を始める前に母さんに言われたことを思い出して、そんなことを考える。


 兄さんはダンスの復習を兼ねて、姉さんの練習相手としてそちらに参加しているので、朝の稽古が終わったあとのリビングには、俺と父さんしかいない。


「王都まで2週間くらいかかるって言ってたけど、泊まる町とかは決まってるの?」


「いや、決まってるのは隣の領都くらいだな。そこまでは1日目で到着するのはわかっているが、それ以降は天候や馬の体調次第で結構ズレるからなぁ」


「そっかぁ。今回は屋外泊もするんだよね?」


「そうだなぁ……今回はエルやカーリーンもいるから出来れば宿に泊まりたかったんだが、そのエルがやりたがっていたしなぁ。まぁ進めるだけ進むことができるから、到着は早くなるんだがな」


「日が暮れるまで少しあるけど、暗くなる前に次の町に着けないとかありそうだもんね。というか、今回は母さんもいるけど気にしないの?」


 娘やまだ幼い俺のことを思ってそう言っているのはわかるが、妻である母さんはいいのかと思って聞いてみる。


「そりゃあ、カレアとは何回も野宿をしているからな、今さらだろう?」


 ――そう言えばそうだったな……まぁキャンプとかそういうものとは雰囲気は違うだろうけど、今回は察知能力の高い父さんもいるから安全だろうし、楽しみだなぁ。


 父さんと話しながらそう思っていると、ロレイナートがドアをノックして入ってきた。


「旦那さま、お客様がお見えになりました」


「ん、思ってたより早い時間だな。仕立て屋だろ?」


「いえ、コーエン様でございます」


義父上(ちちうえ)のところの?」


「はい」


「カレアから何も聞いてないんだが……」


「ヒオレス様からの書状をお持ちでしたので、そちらに事情が書かれているかと思います。コーエン様は客室にご案内しておりますが、直接お話されますか?」


「あぁ、もちろんだ」


「俺もついて行っていい?」


「あぁ、邪魔はしないだろうし、いいぞ」


 リビングに残されても暇なので、父さんに許可を貰って一緒に客室へ向かう。


 ロレイナートがドアをノックして開き、「旦那さまがお越しになりました」と告げた後、父さんと俺は部屋に入った。


「お久しぶりです、フェデリーゴ様」


「あぁ。王都で会って以来だな」


「ははは、ここまでは遠いですからね」


 俺たちが入ってきたと同時に席を立ってお辞儀をした男性は、鎧というほどではないが防具をつけていることから、戦闘の出来る人だと推測する。


 それと同時に、父さんと同年代くらいで鍛えられている肉体をしているので、同類なんだろうとも思った。


「まさか、隊長格のあなたが来るとは」


「ははは。まぁ休暇も兼ねてですよ」


「だから鎧を着ていないのか」


「その通りです」


「あぁそうだ、紹介しよう。息子のカーリーンだ」


「カーリーンです。よろしくねがいします」


「私はナルメラド騎士団1番隊隊長、コーエンです。よろしくお願いいたします」


 挨拶をしてペコッと頭を下げると、茶髪の男性はニコッと人のよい笑みで自己紹介をしてくれる。


 ――まさかじいちゃんの所の騎士団の隊長さんだったとは……


義父上(ちちうえ)からの書状を持っていると聞いたが、それを運ぶためにわざわざ?」


「えぇ、まぁ書状以外にもありますが。まずはこちらを」


 父さんはコーエンから書状を受け取り、開封して内容に目を通している。


「……例の馬車か!? まさか俺たちが向こうへ行った際に受け取るのではなく、持ってこさせるとは……」


「あの新型の馬車は素晴らしいですよ。御者席に座っていても揺れが少ないですし、力が少なくて済むのか、馬の疲労も軽減されているうえに速いです。さすがに魔馬(まば)は連れてきておりませんが、それでも王都から10日で到着しました」


「あぁ、これにも"急ぐことなくゆっくりと行くよう伝えてあるから、実際にかかった時間を聞くといい"と書いてあるな。今年は家族全員で王都に行くことになったから、正直ありがたい」


「カレアリナン様からの手紙を読んで、馬車を送ることを決めたようです」


「娘に甘いのか孫に甘いのか、あるいは自慢したいのか、どれだろうな?」


「はははは。どれもありえそうですね」


「このことをカレアにも伝えなければな。ロレイ、カレアを呼んできてくれ。子供たちはまだ練習していたら、続きはリデーナに頼む」


「かしこまりました」


 そう言われたロレイナートは軽くお辞儀をして、母さんを呼ぶために客室を出ていった。


「稽古中ですか」


「あぁ、今年は娘が参加するからそのダンスの練習だな。ライには復習も兼ねて相手をしてもらっている」


「ライニクス様といえば剣の腕も上がっていそうですし、ぜひ稽古の様子を見学させてもらいたいものです」


 ――兄さんのことを知ってるみたいだし、前に兄さんが王都で試合をしたときも見てたのかな?


「あぁ、それは構わない。いつまでいる予定なんだ?」


「3日ほど滞在する予定です」


「ふむ……稽古を観るだけじゃなく参加もするなら、うちに泊まるか?」


「たしかにまだ宿は取っておりませんし、参加していいのであればぜひとも……ですが、よろしいのですか?」


「あぁ。ライもエルもそのほうが張り切りそうだからな。歓迎する」


「それでは、よろしく願いいたします」


 父さんがそう言いながら右手を差し出すと、コーエンは嬉しそうに握手をする。


 少ししてドアがノックされ、母さんを呼んできたロレイナートが戻ってきた。


「久しぶりね、コーエン」


「えぇ、お久しぶりです。カレアリナン様」


 母さんもコーエンのことは知っているようで、嬉しそうに挨拶をして俺の隣に座る。


「まさか向かう前に届けるなんて……しかも隊長さんに届けてもらうなんてねぇ」


「カレアリナン様宛ての手紙も預かっております。どうぞ」


「えぇ、ありがとう」


「そうだ。コーエンは3日ほどオルティエンに滞在するようでな。その間うちに泊まることになったから、ドラードたちにも伝えておいてくれ」


 母さんのぶんのお茶を用意していたロレイナートにそう言うと、「かしこまりました」と言ってすぐに伝えに行った。


「お父さまたちの近況は手紙で知っているけれど、騎士団の人たちも元気かしら?」


「えぇ。あれから新人が入ったり数人退職いたしましたが、ほとんど顔ぶれは変わっておりません。みんな元気にやっております」


「そう、それは良かったわ」


「カレアリナン様も来られましたし、馬車をご覧になりますか?」


「そうね、せっかくだから見せてもらいましょう」


「そうだな。カーリーンも行くか?」


 父さんが席を立ちながらそう聞いてくるので「うん」と返事をして、母さんに手を引かれて一緒に玄関へ向かった。

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皆様の応援もあり、とうとう100話になりました!ありがとうございます!

これからも楽しく読んでもらえるように頑張りますっ!


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