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10.一息とお菓子

 目のやり場に困るお風呂の時間は、思っていたよりは早く終わることになった。


 おそらく赤ちゃんの俺がいるからだとおもうが、個人的にはもう少しのんびりとしたかった。


 ――まぁ母親に抱かれた上リデーナという別の女性が傍にいる状況でのんびりできるかといわれると、そこまで気は休まらなかっただろうけど……


 リデーナは姉さんと母さんの着替えを手伝った後、手早くメイド服に着替えて母さんの髪を念入りに拭いている。


 母さんと姉さんはこの後はもう寝るまで特にやることもないので、ゆったりとした服の上に薄手の上着を羽織っているが、リデーナは"早くても、主人が寝るまでが使用人としての仕事"と言ってメイド服を着ているようだ。


 母さんによって先に髪が乾いて着替えさせられた俺は脱衣所にあるベビーベッドに寝かされ、代わりに姉さんが頭を拭いてもらっている様子を首を横にして見ていた。


 ある程度髪が乾くとみんなでリビングへ行き、男性陣と交代するようだ。


 父さんと兄さんが部屋を出ていくとロレイナートがカップを片付けて、母さんと姉さんのお茶を用意していた。


 ――リデーナは赤ちゃんの俺もいて姉さんも幼いから手伝いで一緒にお風呂に入ったけど、兄さんはもうそこまでの手伝いは必要ないからロレイナートはこっちに残ってるのかな?


 お茶を用意しているロレイナートを見ていると、目が合ってニコリとほほ笑んでくれた。


 ――うん。かっこいいな。年配の今の姿だとちょっと渋い感じでかっこいいが、本当の姿だとそれはそれでかっこよさそうだ。


「リデーナもロレイナートも座って一息入れたら?」


「給仕の仕事がありますので」


「もう。昔はよく一緒に座ってお茶を飲んでくれてたのに……」


「あれは……2人だけの時だけでしたし……」


「もう一緒は嫌なの? ()()()()()()()()()?」


「うっ……その呼び方は流石におやめください()()()


 ――2人とも仲がいいのは確かなんだけど……使用人としての仕事があるからと固めなリデーナも、昔は母さんのわがままに負けて一緒にお茶したりしてたんだな……それならちょっときっかけを作るのを手伝ってみるか。


 そう思った俺はリデーナを見ながら、母さんの隣の席の机をタンタンと叩き「ん--!」と何かを催促するような行動をとる。


「ふふ。ほら、カーリーンもここに座れって言っているわよ?」


「ですが……」


「いいじゃないの。今は家族しかいないし、家の者だけの時くらい」


「そうおっしゃるのであれば……」


 そう言ったリデーナが母さんの隣に座ると、ロレイナートがリデーナにもお茶をだした。


「ありがとう」


「ほら、ロレイナートも」


「かしこまりました」


 そういうとロレイナートは自分のお茶を用意して姉さんの隣の席に座る。


「カーリーンも気に入ってるみたいだし、これを機に私が幼かった頃のように接してほしいわ?」


「そういわれましても……」


「はっはっは。いいじゃないですか。私も旦那様が"あまり畏まった態度は落ち着かない"というので、結構好きにさせてもらってますよ?」


 ロレイナートがお茶を一口飲んで、母さんとリデーナの様子を見て笑っている。


「……まぁ少しずつでよければ……」


「えぇ。よろしくね? ライニクスが生まれた時から言い続けていたけれど、6年目にしてようやく……」


 母さんが冗談で泣いている仕草をすると、リデーナはどう反応していいか困っている様子だった。


「正確には旦那様と結婚してこちらに来てから度々言われてましたから、実際はもっと長い間ですな?」


 ロレイナートが正確な情報を投げてくると、リデーナは鋭い目つきでロレイナートを睨んでいた。


 ――リデーナは母さんの幼いころをしってるし、ロレイナートの正体も母さんは知ってるってことは、この2人は昔から母さんの実家で使用人をしてたんだろうなぁ。


 そんな大人たちの会話を聞きつつ周りを見ていると、姉さんと目が合った。


 話の邪魔にならないようになのか、お茶請けとして出されたお菓子の味が好みだったのか今まで大人しかったのだが、夕食後ということもあり少なかったお菓子を食べ終えて暇になったようだ。


 椅子から降り机の下をくぐって最短距離で移動し、母さんに抱かれた俺の前に顔を出す。


「カーリーン、これおいしーよ」


 と言って口元に出された手には、お茶請けに出されていたお菓子のかけらがつままれていた。


 お風呂上りなため洗剤のいい匂いに混ざって、小麦粉と卵で作られている焼き菓子のようなにおいがする。


 ――見た感じクッキーのようなものかな?


「ほら、あーん」


 姉さんがそう言うのでつられて口を開き、そのお菓子を食べた。


 口に入れると唾液を吸収して舌でもつぶせるくらい柔らかくなり、ほんのりと甘い味がする。


 ――あ、これあれだ。ボーロみたいなやつだ。


 そう思いつつ、まだうまくは動かせない顎と舌を使って食べる。


 欠片だったこともあり、すぐに溶けて広がった味に懐かしさを感じた。


 ――子供の頃結構食べてたけど、大人になってもたまに食べてたもんなぁ。ボリボリ食べてみたり、フニャフニャになるまで飴みたいに転がしてから食べてみたり……


「んまーあーー」


「あ! エル! 何かあげた!?」


 リデーナ達との会話に夢中になっていた母さんは、机の下からそっと顔を出していた姉さんに気が付いていなかったようで、俺がしゃべったと同時に視点が下を向いてようやく気が付いたらしい。


 ――あ、よく考えたらまだ離乳食前じゃん……食べたらダメだったか……


「お、お菓子……」


 母さんが慌てた様子で聞いてきたので、不安になった様子で姉さんが答える。


「カーリーン、あーんしてあーん」


 俺を対面に抱きなおして、口の中の確認をしようとするので素直に口を開く。


 ――まぁ……もう飲んじゃったんだけど……久しぶりのボーロおいしかったです……


 まだ食べたらダメということを忘れていたため、反省しつつ確認される。


「ちゃんと飲み込めてるわね。よかったわ」


「エルティリーナ様にお出ししたお菓子は、すぐ溶けるように柔らかくなるものなので、大丈夫だと思います。実際エルティリーナ様が離乳食を食べ始めたころにおやつとしても出していたものですし。気に入られているので今でもお出ししておりますが」


「あぁ、あれだったのね。それならよかったわ。でも、まだ離乳食も食べたこともないんだから、あげちゃだめよ?」


「ごめんなさい……」


 ――うーん……忘れて俺が食べたことで姉さんが注意されてるのはなんか申し訳ないな……ちゃんと食べられるみたいだし、練習にもなるから姉さんを援護するか。


「んー! あーーん」


 俺は姉さんをじっとみて、次を催促するかのように口を大きく開ける。


「え、え? まだほしいの? おいしかった?」


「ん! あーーん」


「おかーさん……」


「うーん。ロレイちょっと出してくれる?」


「かしこまりました」


 ロレイナートがワゴンからボーロを少量取り出して母さんの前に持ってくる。


 リデーナに俺を預けた母さんは子供のひと口サイズに作られたボーロを、指先サイズに小さく割ってから俺の口元に持ってきた。


「ほらカーリーン、食べる?」


「あーーむ」


 差し出された欠片を口に含んで柔らかくなったあたりでつぶして食べ、飲み込んだ後再び口を開けて待機する。


「大丈夫そうね。ふふ、初めてのお菓子がそんなに気に入ったのかしら?」


 母さんはそう微笑みながら次の欠片を食べさせてくれる。


「これなら明日から離乳食も食べられそうですね」


「えぇそうね。エルも食べさせてあげる?」


「うん!」


 そういうと姉さんは母さんから欠片を貰って俺の口元に笑顔で持ってくるので、それも食べる。


「でも今度からお母さんに内緒であげちゃだめよ?」


「わかった!」


 姉さんは元気な返事をすると、俺がまだ口を開けていないうちから次の欠片をつまんで待機していた。

ブックマーク登録、評価、いいね等ありがとうございます!


まだ乳幼児編ですが、ある程度落ち着いたら一気に時間を進めると思います。

まぁこの時期のネタとして書きたいことがまだあるので、しばらく赤ちゃんですが……

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異世界に転生したけど、今度こそスローライフを満喫するぞ!
1巻
第1巻
― 新着の感想 ―
可愛い
今まで色々な作品で散々書かれて来た赤ん坊パートが長い。代わり映えしない。楽しさがない。辛い。
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