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ゾウリンダイ星BOW土建株式会社本社内部監察室室長代理兼惑星地球破壊特別顧問ヘー・リンダイ氏による事前通告。

作者: 樫山泰士

《西暦2020年1月12日》


 ッピー。ガガ、ガガ、ガガガガ。

 ッピー。ガガ、ガガ、ガガガガ。


《午前11時23分》


『えーっと? “テステス、テステス、テステス、テステス、チェック、チェック、チェクワンツー――本日は晴天なり。”――どうかな? だいじょうぶそう? ――よし。それでは顧問、どうぞ』


『はい。ご苦労さま。――コッホン。 えー、地球の皆さま、こんにちわ。こちらは、ゾウリンダイ星BOW土建株式会社、本社内部監察室室長代理兼惑星地球破壊特別顧問のヘー・リンダイでございます。 繰り返します。 私は、ゾウリンダイ星BOW土建株式会社、本社内部監察室室長代理、兼、惑星地球破壊特別顧問の、ヘー・リンダイ、でございます。 いま私は、ゾウリンダイ星の超々短波ソニック技術を用い、貴惑星の各種音響機器、並びに、皆さま各人の外耳周辺骨を振動、皆さまの…………えー、これは? なんて読むんだっけ?』


『“蝸牛 (かぎゅう)”です。顧問』


『えー、そのカギュウに直接、私の声をお届けしておりますが、こちらは、皆さまの健康を害するようなものでは御座いませんので、その旨ご承知置きください。 繰り返します。 こちらの、私のこの声は、皆さまの健康を害するようなものでは御座いませんので、その旨ご安心くださいませ――これで大丈夫かな?』


『はい。それで一応、彼らの人権にも配慮した形になります。顧問』


『よろしい。――えー、皆さますでにお気づきのことかとは想いますが、貴惑星は、4256年開催予定の『第十一回大銀河グレーテストオリンピック』その東銀河外縁エリア、大銀河競技場横に必要不可欠とされております、外部化粧室設置のため、たいへん遺憾ではありますが、取り壊し予定惑星のひとつとされております。 えー、ですので。その取り壊し計画に基づきまして、貴惑星の破壊工事を、これから13分後、貴惑星の時間にして、約13分後に開始させて頂きたいと想います。 えー、工事の方法につきましては、破掃法 (注1)にしたがいまして、先ずは、希望住人の移動を確認。その後、惑星表面の余分な人工物・自然物をゾウリンダイ式劫火放射器により一掃。それから、ゾウリンダイの大型粉砕船 (複数)による本格的な惑星破壊のあと、清掃。というかたちになっております。工事完了までの時間は――』


『あ、顧問。そのまえに移動希望の出し方とリサイクルの話を――』


『うん? あー、そうそう、そうだったな。 えー、貴惑星からの移動を希望される方は、最寄りの東銀河帝国土建事業部地域事業課出張所等にある『破壊惑星からの移動希望届け出書』に必要事項を記入のうえ、同課への事前提出をお願い致します』


『あ、顧問。最近は移動後の事後提出もよいそうです』


『え? そうなのか。あー、訂正致します。事前もしくは事後での提出をお願い致します。こちらの用紙は、同課のホームページ・アプリからもダウンロード可能ですので、是非ご活用ください。 また、今回の惑星破壊を通して発生した廃棄物に関しましては、産業廃棄物扱いとなりますので、こちらも、破掃法のルールにのっとり、適切な処理、リサイクルを行なうことで、循環型銀河の形成に役立てたいと考えておりますので、どうか皆さま、その旨ご安心ください。 えー、我々、BOW土建株式会社の産業廃棄物リサイクル率は現在、97.91%、97.91%を誇っております (注2)――以上かな?』


『最後に、移動と工事完了までの時間を。念のため』


『ああ、はいはい――最後に。繰り返しになりますが、貴惑星からの移動を希望される方は、貴惑星の時間にして約1……10分以内に、移動を完了させてください。 もし、それまでに移動を完了されていない場合につきましては、貴惑星に残る意思ありと見做されますので、その旨よろしくお願い致します。 えー、また、劫火放射開始後、工事完了までの時間は、貴惑星の時間にしておよそ42分間、42分間となっておりますので、その旨合わせて、よろしくお願い致します――大丈夫かな?』


『えー、はい。大丈夫です。顧問』


『よろしい。――えー、それでは皆さま、どうか、よい週末を』


     *


「……はい! OKでーす。顧問、お疲れさまでした」


「いやいや、破壊前通告はひさしぶりにやったが、なんだ、ここまでリアクションがないと、いささか拍子抜けだな」


「ですね。大体の惑星住人は、亜空間通話でなにがしかのクレームを付けて来ますから」


「いやあ、大人しい住人たちでよかった」


「まあ、この時点では、レベル5にも達していない惑星のようですし。人心も穏やかなのでしょう。皆さま、こころよく惑星破壊を受け入れてくれたようですね」



(おしまい)

【作者注】

このお話は、『時空の涯の物語』の「第二十六週:神託と黒き矢」(6月投稿予定)の一部を抜粋編集したものです。


『時空の涯の物語』はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n3983hx/



【その他脚注】


(注1)

 『破掃法』とは、正式には『破壊惑星の処理及び清掃に関する法律』のことで、破壊惑星から排出される廃棄物の抑制と処理の適正化、それに破壊惑星が含まれる恒星系ならびに周辺恒星系の生活環境の保全と公衆衛生の向上、さらには、破壊惑星原住民の人権を配慮することを目的に制定された、東銀河帝国の法律のことである。


 西銀河帝国や南北銀河にも同様の主旨の法律はあるが、東銀河帝国のコレは法文解釈の幅が広いうえに罰則規定も少なく、ぶっちゃけ現場任せ感が強過ぎるために、ゆるゆるのところはとことんゆるゆるだし、厳しいところは「なんで、そんなことに?」ってなるぐらいに厳しく、他の銀河からはあまり良い評価は得られていない様子である。



(注2)

 但し。このうちの八割程度は、そのエネルギー利用やブラックホール埋立利用なども含めたものなので、本来の意味での“リサイクル (再生利用)率”は、20%前後だとする識者もいる。

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