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私とわたし

作者: 雨帆傲離

この国が建国されたのは私が生まれる少し前のことだ。

建国した後、治安維持のために秘密組織『デファンドル』が創設された。

私は組織の養育機関でスパイとして育てられたのだが素質がなかったようだ。

それでも国のために尽くしたい気持ちがあり、理由あってオペレーターに志願した。

地味な役割だなと思いつつも縁の下の力持ちであるオペレーターに私は満足していた。


最初に組んだバディとは2年間共に任務をこなした。

麻薬捜査、密輸、人身売買……数えきれないくらい解決していった、当時は何でもできる万能感に酔っていたのかもしれない。

その慢心があの悲劇を生んでしまう原因だったのだろうか、今でも悔やみきれないところがある。


建国100周年の記念祭に起きた事件……フェアレーターによる大きなテロが起き、私のバディはテロリストにより殺された。

私は自分の不甲斐なさを悔いた。涙も枯れるくらい流した。


そんな私が彼女と出会ったのは、バディを失った一年後だった。

しばらくは雑用をこなしていたのだが、人手不足ということで上司からバディを組むように命令され復帰することになった。


「……あなたが新しいバディのリベルちゃんね。私ハイネ、これからよろしくね」


待ち合わせの場所に向かうと、金髪で幼い顔の少女がいた。

15歳くらいだろうか。背丈もまだ伸び切ってないように見える。


「あんたが新しいオペレーター? なんか頼りないわね、ちゃんとわたしをサポートしてよね」


肩まで伸びてる髪を払い、碧い目を細めながら私に苦言を投げかける。

話には聞いていた。スパイ養育機関で主席、歴代一位の成績で飛び級卒業したホープだと。

しかし何だ、この偉そうな態度は。


「あんたじゃなくてハイネね、はい復唱」

「呼び方なんてどうでもいいのよ、ちゃんと仕事さえしてくれれば……ね!」

「あのね、育成機関じゃあなたは優秀だったかもしれないけどここは現場よ。育成機関と違って……殺されることもあるわ」

「そんな事わかってるわ、今までだって一人でちゃんとやってこれた。まぁ無能なオペレーターと組まされることばっかりで実力の半分も出せなったけどね」


何を言っても聞いてくれない。

私にだって何にでもなれると思っていた時期があった。

ここまで人の言うことを聞かない事はなかった気はするけど。

しかし最悪の出会いかたとは言えバディはバディだ。


「……とりあえず私の指示はしっかり聞いてね。リベルちゃんも気になることがあったら聞いてもらっていいから」

「わかったわ、聞くことはないと思うけどね」


相変わらず高飛車だが、流石にバツが悪いのか目線を逸らしながら返事をする。

この調子で任務なんてこなせるのか不安で胸がいっぱいです。


***


「おはよう、リベルちゃん」

「……」

「挨拶は基本よ、『おはよう』に『おつかれさま』この仕事は毎日が死と隣り合わせだから挨拶を大事にするのよ」

「そんな必要ないわ、どうせ今日もパッと片付けて終わりよ。明日も明後日も同じ繰り返し、そもそも危ないのはわたしであんたじゃない。安全なところから偉そうに説教しないでくれる?」


低い身長で大きく見せようと胸を張りながら話してくる。

確かにオペレーターはあくまで遠くで指示をするだけ、命の危機に遭うことはない。

それは誰よりもオペレーターである私自身が知っている。

しかしそれはそれ。他のことをないがしろにしていい理由にはならない。


「確かにその通りよ、私には才能がなくて捜査官になることができなかった。だからこそあなた達捜査官を助けられてるようにオペレーターになったの。そんな私の言う事に少しは耳を貸してもらえないかしら」

「ふーん、それじゃあ少しは役に立ってよね、オペレーターさん」


だから何? とでも言いうような素振りだ。

私の言葉は届いてないみたい。

当たり前か、彼女と私は昨日今日会ったような仲なのだ、信頼なんてあるわけもない。

だからといって任務を放棄するわけにもいかない、困ったものだ。


「今回の指令は強盗の確保よ。◯◯銀行を襲ったグループが今車で逃走中らしいの。その犯人グループを確保するのよ」

「チョロそうね、犯人は何人? 場所は? 早く教えなさい」


つま先をコツコツと地面に叩きながら聞いてくる。


「犯人は二人で××街◯◯町目の廃工場に潜伏してるらしいわ。銀行を襲った時手榴弾やアサルトライフルを持っていたそうよ。もしアジトなら他にも武器を持ってる可能性があるわ」

「ふん、そんなもの持ってたって使わせなければ無いも同じよ」


もう終わったも同然かのように聞く耳を持ってくれない。

彼女の感覚では日常茶飯時のレベルの任務なのだろうか。

現場に出る事のない私にはわからない感覚なのかもしれない。



彼女が早くつけたのか他のチームが遅れているのか、着いたときに他のチームはまだ到着していないようだった。


「廃工場に着いたわ、人がいそうな気配がないわね」

「もしかしたらどこか行ってるかもしれないわね、気をつけて調べて頂戴」


通信機から連絡が入る。

潜伏先の周辺を調べると、どうも人気がない場所らしい。


「地下室があるわね、周りを見ても何も無いし調べて見るわ」

「待って、待ち伏せされてたら地下はまずいわ。出入り口も限られてるし応援がくるまで待つべきよ」


彼女は助言する私の言葉を無視して地下室に向かおうとする。


「うるさいうるさい、わたしは天才よ。これまでの指令も一人で出来たわ。むしろ変な指示のせいで失敗しそうになったこともあるわ。よく知りもしないあんたの指示よりわたしはわたしを信じるわ」

「少し落ち着いて、ゆっくり考え……」


イヤホンを切ったのだろうか、私が何を言っても反応がない。

私にはカメラから見える映像、マイクから聞こえる音のみになった。


言うだけあって犯人を確保するまでの立ち回りは完璧だった。

薄暗く見えにくいことを利用し、通路先から見えない立ち位置で進んでいった。

犯人を取り押さえる際も作業で気が逸れているときを狙って素早く無力化させていた。

優秀だというのは間違いがないのだろう。


「ほらね、簡単じゃない」


犯人は後頭部に両手を当て膝まづいている。

でもまだ一人だ。報告ではもう一人いるはずだ。


「まだ一人残ってるわ、気をつけて。何をするかわからないわよ」

「そんなの仲間を人質にすれば大丈夫よ、銀行強盗レベルの犯罪者なんてそれでどうにかなるわ」


イヤホンをつけたのか返事がある。

とはいえ独断行動をやめるつもりはないらしい。


もう一人も自分が捕えるという勢いだ。

手柄を挙げたいと言う気持ちはわかる、昔の私たちだってそうだった。

けど実力に合わずに思い上がった結果バディを失ってしまった。

もうあんなことは起きてほしくない。


「何者かの車が廃工場に向かってるわ。おそらくもう一人の共犯者よ。もう一人は別の班に任せてリベルちゃんは犯人を連れて離脱しなさい」

「何言ってるの、今がチャンスなんじゃないの。離脱なんてまっぴらよ、わたしは出来るわ」


そう言うと、私の言う事を無視して犯人を連れ音のするほうへ向かう。


4WDの車だろうか、頑丈そうな車がこちらへやってくる。おそらく遠くへ逃げるために調達してきた車だろう。

その車から首に刺青を入れたスキンヘッドの男が出てくる、情報にあったもう一人の犯人だ。

犯人を盾に投降を促そうとする。慣れたものだ。

おそらくこれまでも同じやり方で上手くやってきたのだろう。

一瞬緊張の糸が切れるのが伝わった。

犯人にもそれが伝わったのだろうか、一瞬の隙をつかれた。


「そこのお前、腕を組……」


言い終わるより前にこちらへ銃弾が飛んでくる。

犯人がこちらへ発砲してきたのだ。


「リベルちゃん!? 大丈夫!? 返事をして」


荒い息づかいが聞こえる。動けているようではあるがどんな状況かわからない。


「……だい……じょ……ぶよ。人質が……盾代わりになったお陰で直撃は避けれたわ。それにしても何なの、仲間ごと撃つなんて……」

「今他の班が向かってるわ、障害物に隠れて時間を稼ぐのよ」


どうも命に別状はなさそうだ。

とは言え負傷してる状態では満足に戦うことはできない可能性がある。


しかし不幸中の幸いか、他の班も到着したようだ。

そのことを伝え交戦が終わるまで身を隠すように伝える。

なにか言いたげではあったが、自分に落ち度があったという気持ちがあったのか私の意見を聞いて大人しくしてくれた。


銃撃音が鳴り響く、その間ずっとドラム缶の裏に隠れていた。

20分ほど経っただろうか、犯人を取り押さえたとの連絡が入る。

静かになって彼女もその気配に気づいたのか口を開いた。


「……終わったようね」


怪我のせいか普段より弱々しい声が聞こえてくる。

突入時の高圧的で強気な雰囲気はどこにも感じられない。


「ええ……取り押さえたようよ。救護班も呼んでるから来るまで待ってて頂戴」

「……わかったわ」


他に被害は出なかったものの、私たちの初任務は失敗に終わった。


***


入院中の彼女はというと銃弾が腕に当たったが突き抜けたらしく回復も順調とのこと。

とは言え捜査官の命である腕に怪我をしたので検査も兼ねて入院する形になったようだ。

私はバディが休みということで雑用がメインになった。


二週間ほどが経ち面会の許可が降りたのでお見舞いに行くことにした。

お見舞い品は何にしようかと思ったが無難に果物……メロンやりんごなどの色々な果実が入ってるものにした。


受付に病室を聞いたが個室らしかった。

上層部の手配だろう、私としては話しやすい分ありがたいが。

病室にいくと窓に向かって黄昏てる彼女が見えた。


「こんにちは、リベルちゃん」

「……」


私が来たことがわかると急に顔が曇る。タイミングが悪かったかしら。

腕には包帯が巻かれているが他に大きな怪我をしてる様子はない、擦り傷が少しあるくらいだろうか。


「腕の怪我どう? 動かせる? 少しは良くなったかしら」

「……馬鹿にしてんの?」


早く帰りさない、というオーラが出ている。


「違うわよ、心配でお見舞いに来ただけよ。ほら、これお見舞い品」


私はフルーツショップで買ってきた果物をベッドの横にある机に乗せる。

それを見るや彼女は腕を横に振って地面に叩き落とした。


「何するの!?」

「どうせあんたはわたしの失敗を笑いに来たんでしょ。いいわよバディを解散しても。私だって今まで使えないやつは切り捨ててきたんだから」


頬が紅潮紅潮して声も震えてる。


「いきなりどうしたの!? 落ち着いて、ね?」

「わたしはいつだって一人でやってきた、実際育成機関でも首席で捜査官になってからも一人でやってこれたわ」


それは彼女の言う通りだろう。事実今回の任務も始めは滞りなく進めていた。

だがそれは始まりだけだ。独断専行をした結果任務をこなすことができなかった。


「だからわたしに着いてこれないやつは切り捨ててきたわ。あいつら言葉だけは達者で何の実力もないもの。今回は私が切り捨てられるってだけ。当たり前のことよ」


シーツをギュッと握りしめて俯きながら声を絞り出すように言葉に出す。


「別に私はリベルちゃんのことを切り捨てたりしないわ」


それは私の本心だ。

確かに彼女とは馬が合わない、そう感じてはいる。


「ごめんね、リベルちゃん。私あなたがどんな人か知らないから他の人に聞いたの。そしたら私が知ってるリベルちゃんと同じようなことしか聞かなかったわ、自尊心が高く他を見下してる、独断行動をよくとる人だって」


でもそれは周りがつけた評価だ。

人は世界を自分というメガネを通して見てるのだ、昔そんなことを書いてる本を読んだことがある。

私は私の目で彼女の本当の姿を評価したい。


「でもそれが全部ではないはずよ、そう考えたら私リベルちゃんのこと何も知らないんだなって」


私も話していないことが沢山ある。知らないのはお互い様か。


「リベルちゃんも私のこと何も知らないでしょ? ……話してないから当たり前よね」


そうして私は彼女に自分の事について語った。オペレーターになった経緯や最初のバディを失った事も……

彼女は黙って聞いてくれた。


「ね? 幻滅したでしょ、それが私。あんなに偉そうなこと言ってたけど私も失敗だらけなの」


自分で話していて悲しくなる。

でもそれが他の誰でもない私だ、悲しみはするけど後悔はしない。


「だからね、一回の失敗で落ち込む必要なんてないわ。命だって助かってるもの、次に活かせばいいわ」


少しは彼女に言葉が届いたのだろうか、ここまで自分の話をしたのは初めてかもしれない。

病室に入ったときの険しい顔と比べて少し穏やかになった気がする。


「暗い話はこれで終わり。私もあなたのことが知りたいわ。退院したら一緒にお買い物にでも行かない?」


少し逡巡した顔をした後に口が開く。


「……どうしてもって言うなら」


小さな声だったが肯定の返事をもらうことできた。

それなら善は急げだ。後で無かったことにされないためにも早めにいくとしよう。


「よし決まり! 退院したら連絡してね」


***


退院したという連絡が入ったので早速約束を取り付けた。

白いワンピースを着てきたのだけれどちょっと派手だったかしら。


手首につけた腕時計を見る、少し早く着きすぎたみたいだ。

10分ほど待ってるとネイビーのTシャツに黒のスキニーパンツをきた彼女がやってくるのが見えた。


「こっちこっち〜、おはようアスカちゃん」

「……おはよう」

「どこか行きたいところある?」

「……ないわ、あなたが行きたいところでいいわよ」


遠慮してるのだろうか、それなら先に私が行きたいところへ連れて行ってあげるわ。

となると一つかしらね。


「そう? それなら服屋よ! いいところ知ってるの!!」


早く早くと彼女の手を引き洋服屋へと直行する。




「やっぱり可愛い〜、最初見たときから思ってたの。リベルちゃんには可愛い服が似合うなぁって」


紺のガウチョパンツに薄いベージュのブラウスを試着した彼女みて、つい思ったことが口に出る。


「リベルちゃんいつも地味目の服着てるんだもん、折角可愛いのに勿体無いって」


そう言うと彼女は両手で顔を隠した、耳が赤くなっている。照れてるのかな?

いつもはあんなに高圧的だけど、こういう所を見ると年相応の可愛さがある。


「可愛いなんて初めて言われたわ……でもちょっと興奮しすぎよ」


両手から目だけを出しながら話をする。


「リベルちゃんっていつも来ている黒い服以外って持ってないの?」

「持ってないわ、だって必要ないでしょ。いつもの服のほうが普段でも目立ちにくいし動きやすいわ」


薄々思ってはいたけどやっぱりか〜。

彼女の言うことは一理あるとは思う。

日々命のやり取りをしてるから普段から注意する癖はつけないといけない。


「女の子がそんなのじゃいけないわ、女の子はオシャレするものよ。今日はいっぱい服を買いましょう」


でもそれはそれだ。

自分がしたいことに蓋をして生きるのは死んでいるのも同然だ。

やってみて興味がなかったらそれでいい。でもやってもないまま終わるのは勿体無い。

そんな私の熱意に押されたのか分からないが満更でもない顔をしている。


「可愛いよ〜」

「本当?」

「はい、ポーズとって」

「こ……こう?」

「意外にこういうのも悪くないわね」

「この服は落ち着くわね、主に色が黒いところが」


手当たり次第洋服店に行っては色んな服を見た。

服服服……着せ替え人形のように服を着せちゃったかしら。


「ちょっと疲れたわ」


歩いていた彼女の足が止まる。


「まだそんな見て周ってないわよ?」

「あまり慣れないことはするもんじゃないわ、少し休憩させて」


珍しく弱音をはく。いや珍しくというか初めてじゃないだろうか。


「ごめんね、つい夢中になっちゃって。そこのイスで少し休みましょう」


連れ回しすぎて疲れちゃったかしら。

あまりにも楽しかったから無理させちゃったかもしれないわ、悪いことしてしまったわ。


「何か飲み物買ってるくるわ、何か飲みたいものある?」

「紅茶が飲みたいわ」

「わかったわ、行ってくるわね」


とは言ったもののすぐ近くに飲み物を売っている場所がない。

ゆっくりしたいだろうし少し遠くまで探そうかしら。


「お待たせ〜、ん?」


飲み物を買って帰ってくると彼女はどこか一点を見つめていた、何をみてるのだろうか。


「リベルちゃん?」


キラキラした目で熊のぬいぐるみを持っている小学生低学年くらいの女の子を見ている。


「あの子がどうかしたの? 知り合い?」

「いや、違うわ」


さっきまでの顔とは打って変わりキリッとした表情で答える。

何も無いのに見てたわけはないと思うんだけど。


「それなら……ぬいぐるみでも見てた?」


図星だったのか驚いた表情になる。


「いっ、いや違う、違う」


慌てているのが丸わかりだ。

仕事一筋で何も興味がないように見えたけど女の子らしいところあるじゃない。


「なるほどねぇ、ぬいぐるみが好きなのなら言ってくれたら良かったのに。さぁ次はぬいぐるみの売ってるお店に行くわよ」

「……笑わないの?」


消え行くような声で聞いてくる。


「なんで?」

「だってこんな歳になっても可愛いものが好きなんて恥ずかしいじゃない」


両手をギュッと握りしめ顔は俯いている。


「そんなことないわよ、好きなものってのは人それぞれ違うもの。おかしい事じゃないわ。人のあれこれを笑うような人間は人の器が小さいだけよ、気にしなくていいわ」


彼女のほうを向き手を取り、そう言った。

彼女には私の思いが嘘ではないということをわかってほしかったから。


「前に私の過去の話したの覚えてる? 人ってのは色々あるものよ、リベルちゃんがどう考えてるか分からないけど無理して背伸びする必要はないわ」


私はお見舞いに行ったときの話……その中でも人間関係に悩んだ育成機関での話をすることにした。

育成機関では他よりも捜査官としての能力が劣っていた。

一つ二つだけならまだしも全体的に劣っていたためかイジメの対象になっていた。

そんな中一人私に手を差し伸べてくれる人がいた。

その子とは話があった、可愛い服を着る趣味が同じということもあってよく買い物にも出かけた。

捜査官としては未熟だけど他の面で支えていきたい、そう思った。

その子が私の最初のバディ……テロで亡くなった……。


そう言い終えると彼女は少し考えたあとに口を開いた。


「……そうなのね、少し気楽になれたわ。実を言うとね、わたし友達がいないの。育成機関でもろくに話し相手がいなかったわ。優秀だったらわたしを認めてくれるとおもって頑張ったわ。認めてくれるどころかますます話かけてくれなくなったわ」


ポツポツと……しかしハッキリとした声で話し始めた。

皆は天才だというがそんなことはない、努力してその結果があるだけだと。

ただ自分は当たり前のことをしてきただけなのに……努力をしないのに嫉妬だけはしてくる。


「それからは自分だけが信じられるものだったわ。バディを何回も組んできたけど指示のせいで命を落としかけた事もあった。よく言い争いになった子もいたわ」


今までのバディの事について話をしてくれた。

才能のある人間に嫉妬する、才能の差によって生存率が変わるこの業界では当たり前のことだ。

彼女はそんな中でも歴代一位と言われるくらいの才能だ。

どのくらい嫉妬されているか想像もしたくない。

とは言えそんな醜い人間ばかりだと言うこともない。


「だから今回も期待してなかったわ。……でもあなたのお陰で気づけたわ。相手が拒否する前にわたしが拒否してたのかもって事をね」


その言葉に涙腺が緩む。


「リベルちゃん……」

「反省してることもあるけど後悔はしてないわ、今までがあったからこそあなたに会えたんだから」


そう言う彼女の顔はもう俯いてはいなかった。


「私もリベルちゃんと会えて嬉しいよ、話してくれてありがとう」


彼女と分かり合えた……少なくとも私はそう思えた。


「じゃあ急ぐわよ、ぬいぐるみを見た後にデザート店にも行くんだから。時間がないわ」


デザートを食べると元気になる、これは私の信条だ。


「凄いパワフルね、二の腕のをぷよぷよしてるの見た事あるけどデザート食べすぎなんじゃないの?」


いたずらっ子のような顔で聞いてくる。

だって仕方ないじゃない、食べても食べても行くたびに新しいデザートがあるんだもの。

しょっぱいものと交互に食べるのも格別ね。無限に食べれる気がするわ。


「言うようになったわね、よろしいリベルちゃんにもデザート地獄に陥れてやるわ」



***


「おはよう、リベルちゃん」

「おはよう……ハイネ」


挨拶を返してくれた!?

今までは壁に話してるのかと思うくらいに何の反応もなかったのに。


「リベルちゃんもう一回言って〜」


嬉しさのあまりダル絡みをしてしまう。


「あぁうるさいうるさい、早く準備よ。いつ指令がくるかわからないわよ」


恥ずかしそうに顔を逸らしながら着替えをする。


さて今日はどんな任務があるのかしら、と紅茶を入れて待つ。


「指令が来たようね、準備はいい?」

「大丈夫よ、今回はどんな内容なの」


手にグローブをつけながら答える。

私は指令の内容がどんなものなのかと確認をする。


「ちょっと待って……フェアレーターの幹部イスキューロスの潜伏先がわかったそうよ。右腕のプレーシオンに他多数の部下がいるっぽいわね」


あのときの……前のバディを失ったときのテロ組織の幹部だ。

特にイスキューロスは組織の中でも武闘派で知られている。

テロを起こした際にカメラ越しで相対しているが卑怯というか狡猾な手を使う男と言った印象だ。


「他のチームも動いてるようだから……だから無理しないでね」


言葉が詰まる。


「無理はしないわ。二度もハイネにバディを失う悲しみを背負わせたりなんてさせないわ」


私の心情を察してくれたのか、彼女は私に優しく微笑みながら言ってくる。

彼女の背中を見ながら送り出すことしかできない自分の無力さがもどかしい。

実力があれば隣に立てたというのに……。



今回指示された場所は高層ビルだ。

多くが強盗や窃盗、誘拐などで規模も大きくないものが多い。

そう言った場合だと廃墟や人気が少ないアパートなんかを借りてることが多いのだが……。

フェアレーターという組織は建国より前からある組織でかなりの規模の組織だという情報がある。

この高層ビルを拠点としてるのを見るにそれは明らかだろう。


「言われた場所に着いたわ、状況はどんな感じ?」

「人払いはもう済んでるそうよ、あと他チームのことなんだけどもう少しで全チーム集まるそうよ。集まり次第各ポイントから仕掛けるらしいわ」


今回はかなりの数のチームが任務についている。

それだけ大掛かりな作戦だということなのだろう。

あのテロ事件を起こした組織の発端なのだから。


「了解、配置についてるわ」


指示された配置を伝えると、彼女は素早く配置場所へと向かう。


ものの十分もしないうちに他のチームも配置についたとの連絡が入る。

上からの合図とともに突入を開始した。

事前に内部情報を入手できていたこと、戦闘員が少なかったことが重なり順調に進んでいった。


「制圧完了、他の状況はどう?」

「順調に制圧してるらしいわ、ただ幹部のイスキューロスと右腕のプレーシオンが見つかっていないらしいわ」


他のチームもイレギュラーが起きることなく進んでいるとの連絡が入る。

情報によると屋上にヘリポートがあるらしい。

ここで逃げられたらまた大きな事件を起こされる可能性がある。


「屋上にいける階段があるわ、さっき外を見たときヘリコプターがくるのが見えたわ……どうしたらいい? 意見を頂戴」


私に指示を仰いでくる。

本当ならば他のチームがくるまで待つのが危険はないのだろう。

しかしそこまで待っているとイスキューロスを逃す可能性が高い。

連絡をとってみるがすぐにこれるチームはなさそうだ。


「支援にこれるチームはないみたい……けど今行かないと遅れる可能性があるわ」

「わかったわ」

「でも気をつけるのよ、命最優先よ。わかったわね」


念を押した上で屋上へ行くということに決まった。


屋上へ向かうとバタバタバタというヘリコプターのプロペラ音であろう音が聞こえてくる。

気づかれないように覗くとヘッドセットにヘルメット、茶髪に黒スーツ、黒髪のストライプ柄のスーツの三人が見える。

操縦士にプレーシオン、そしてイキューロスだろう。

彼女はヘリコプターの風圧で隙ができるまで待った。

一瞬の隙ができた瞬間彼女の銃弾がプレーシオンの右手を撃ち抜いた。


「武器を捨てて両手を頭の上に組みなさい」


無力化したあと十分に気をつけながら投降を促す。


「まぁ待てプレーシオン、こんな可愛い子が言ってるんだ。話を聞いてやろうじゃないか」


動こうとしたプレーシオンに対してイキューロスが制す。

奇妙なまでの従う様子に違和感を覚える。


「さてお嬢さん、抵抗する気はない。銃を下ろしてはくれないかな?話がしたいだけなんだ」


吸っていた葉巻を捨てて黒い髪を軽く整える。

よひどの肝っ玉が座っていると見える。


「下すわけないでしょ、それよりヘリコプターからも離れなさい。早く」

「わかった、わかったよ。ただこの杖がないと立っていられなくてね、そこは許してもらうよ」


そういうとヘリコプターを止めさせて話始める。


「俺はな、貧乏な家で育ったんだ。毎日食うのにすら困っててよ。俺が生まれた頃は戦争をしていたから周りも似たようなもんさ」


建国したあとに生まれた私は知らない、けど凄惨なものだったと言うは聞いてことがある。

圧倒的に足りない資源、科学力の差、人間を乗せた特攻隊なるものまであったらしい。


「それで馬鹿なりに考えたんだ。どうしたらいいだろうって、戦争が終われば豊かになると信じて兵士に志願したんだ。汚いことも率先してやった。国、家族、周り、そして自分自身を救うには仕方ないって思いながらな」


聞いたことがある。

秘密結社が今の形になる前身の団体があったらしい、もしかしたらイキューロスが所属していた部隊がその団体なのかもしれない。


「そうしてるうちに戦争が終わった。これで豊かになる、俺の人生も始まる、そう思ってたんだ」


声のトーンが下がる。


「だが実際には違った。国は俺のような公にできない人間はことごとく秘匿にした。それどころか排斥しようとした。そのとき分かったよ、所詮俺たちは使い捨ての駒にすぎなかったんだなと」


淡々と話をする。


「だから決めたんだ。俺がこの腐った国をよくすると」

「……でもあなただって人のこと言えないくらい悪いことをしてるわ、それはそれこれはこれよ。罪は償わなくちゃいけない」

「……その通りだな、改心するよ」


そういった瞬間イキューロスの口角が上がっているのに気がついた。

イキューロスが杖に仕込んでいた銃弾を放つ。


「よけて!!!」


私の言葉に反応して彼女の体が横に動く。

間一髪だった、弾丸は横数十センチを過ぎて壁に当たる。


「チッ、勘のいいやつめ。プレーシオン!! 早くあいつにトドメをさせ」

「ですが……まだ子どもです……このまま反撃できないようにするだけで殺す必要まではないのでは……」

「この腑抜けが、誰がお前を育ててやったと思ってる。その甘さは早く捨てろといっただろ」


イキューロスが声を荒げる。


これはチャンスだ。そのことを伝えようとする前に『わかってるわ』と言われる。

不意を突かれたが武器は杖の仕込み銃、しかもおそらく銃弾は一発だけだったようだ。


「ハァハァ……終わりよ、諦めなさい。次は撃つわよ」


奥の手も出し切ったイスキューロスを捉えることは難しくはなかった。

制圧を終えた他のチームも駆けつけ無事捕まえることができた。

私としてはヒヤヒヤものだったけど。


「よがった〜。怪我は? 大丈夫? 無理してない?」

「大丈夫よ、本当に。少し擦りむいた程度よ」


いつもの声色で答える。


「……嘘じゃないわよね」

「本当よ、信用ないわね」

「そりゃ今までがありますから。でもよかった、大きな怪我しなくて」

「ハイネのお陰よ、助かったわ」


本当に良かった。

私の中でやっと一区切りついたような気がした。


「よ〜し、それじゃあ大きな任務達成の祝杯をしましょう。この間は全然服買えなかったからね〜、お化粧品も買いたいし早速明日買いに行くわよ」

「うっ、突然右腕が……コレハモウアシタハムリダナー」

「……なんでいきなり片言になるの? これはバディ命令です。明日行くことは確定ですからね」

「……軽めでお願いね」

「ふふっ、ちゃんと無理させないように行くから安心して。それじゃあ帰ってくるの待ってるわ」


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