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教会の話は王族事情のついでのようだ

イェーク・コルトン曹長は話し始めた。

「俺はガイラバルト軍でも上位、上から一桁に入る剣技を持った士官だった。まあ、同世代では抜きんでていたよ。消滅した旧都の近くの騎士爵家の出でね。ついでに消滅した市町村民の生き残りだった。旧都の周囲は滅んだ町の代わりにダンジョンが大量に・・・まあ、多いのかどうか分からなかったが、あの限られた地域にあのダンジョン数は多いということらしい。そこに入って行っては力を付けたのだ。生まれたばかりのダンジョンのコアを潰すと何か目に見えて力が上がるのだな。だが、強力な魔物がいるダンジョンが残って、そこに入ることは難しくて魔物が地上に出てくるようになった。最初は苦労したが魔物出現は一体ずつが殆んどだったので、何とか倒せたが、中はかなり危険な状態だった。強い魔物が複数出てくるようになった頃、軍が来て俺は討伐の案内をするようになった。結果的に腕を認められて軍に入りツルギ様の流派の剣も覚えた」

「ツルギ様はリューキ元帥の御子息です。この地でオークに教導されたこともある」

ダモクレス流と言うヤツか。

ムニム軍曹の話では体術の指南だったと聞いているが武芸達者のようだな。

「大型のダンジョンは消滅させるより中腹で間引いた方が、資源獲得になると言う事でダンジョン探索が落ち着いたころ、軍の再編で俺は新都に入ることになった。そこでさらに腕を見込まれて部隊も任されようという時に、帝王のティム・ティーマーに目を付けられてしまったのだ」

「かなりの問題行動を起こす王でな、強いものを見ると所かまわず喧嘩を吹っ掛けて回ったものだ」

「少尉殿、喧嘩じゃなくって、決闘だったぜ! でな、その決闘を蹴って逃げろって言ってきたのは王妃のカリエラ様だった。まあ、王があんなだから公式には王妃とも女王とも公表してはいないのだ。大尉から少佐になろうって言う仕官の話は無くなってしまったが、悪い気はしなかったよ。あれだけの国の中枢を司る人が親身になって俺なんかの身の振り方を考えてくれたのだから」

「そんな王がいて、王妃やツルギと言う人は大事ないのか?」

「あんな王だが、2度ほどリューキ元帥には負けていて、子煩悩でもあるのだ」

話を挟んだのはロッド・ロンベルド准尉だった。

「カリエラ様との御子、カルナ様は、まあ、この地であのお姿で獣化を伝えたイノキバオークの前なら話しても良かろう――獣化の呪いを御生まれした直後に掛けられてな、体が弱っては獣化が進むそんな状態だった。授乳できれば良かったのだが、カリエラ様の、その、御胸は獣化した赤子の鋭い歯で血まみれの状態だった。そんな時の同じ時期にツルギ様を産み育てていたリューキ様が、胸を傷つけられることも厭わず乳母としてカルナ様を育て上げ、見事乳離れまでさせたのだ。貴族議会はカルナ様を王族とは認めぬばかりか殺処分を決定したが、リューキ様はツルギ様とカルナ様を連れて辺境を回り、旧貴族の追っ手を退け続けたのだ。テイ王夫妻はリューキ元帥に大恩があるのだな。その経過でツルギ様とカルナ様が添い遂げられるのは自然のことあった。その頃この地に来られ、カルナ様はここのオークと共に獣化の術を完成させたのだ」

「呪いと言ったな。誰にかけられたのだ?」

「権力欲の強い上位貴族の連中だな。今では「旧貴族」という括りでまとめているが。当時は王族派と貴族派の裏切りと紛争で内乱の繰り返しだったのだ。旧都消滅も貴族共の所業の果てのことよ」

「旧都消滅時はリューキ元帥が邪神を封じたということだな? 邪神? ホントっすか?」

「邪神? いや、そんな話は・・・」

伍長もロンベルド准尉も初耳のようだ。

「ザンザ殿がナビーネ様から聞いた話、とのこと」

「旧都消滅は発生後拡大を続けたと言う現象で、ルーゼンカイル王兄閣下が自らを犠牲にして抑えたというのがガイラバルト軍公式見解なのだが」

また、新しい名が出てきたな?

「ルーゼンカイル・ゼル・デューオン様、リューキ様の旦那様だったのですよね?」

と、ネネ准尉。

「正式に婚姻は結んでおらぬはずだ。間違いなくツルギ殿の父君にあらせられるが」

「話がえらく拡大しちまったなあ。でな、ここのオークたちは自覚してるかどうか知らねえが、今でもリューキ元帥直属の位置づけなんだ。俺等はその血を絶やさぬことと、部族の者を拉致されたり誑かされることを防ぎ、最悪移動することになっても場を把握しておくことが密命されてるんだ。てめえみたいな不審者が接触してきた場合、警戒せにゃならんのだ」

「不審者呼ばわりは不本意だ・・・あーえー」

「何だ伝えろよ」

「オークどもに欲情してるお前の方が不審者の変態だ。いや、その物言いはいかがなものかと」

「はんっ! 旧都の性病持ちの娼婦を相手にしてる奴らに比べりゃ、こいつら相手にしてる方が遥かに健全だぜ! 孕ませてやりゃ、感謝してくれるしよ」

なるほど、悪びれずに言う曹長の御里が知れてしまったな。

「清々しい下衆ぶりだな曹長。しかし、この建築途中の物件は教会なのだ。育児託児に使う目的での寝床にするのは良いが、ここでの種付け行為は控えて頂きたいとのことです」

「ああ、種付けは今まで通り仕官宿舎でやるよ。この上の湯治場は使わせてもらうがな」

下衆とか言われて怒らんのかこいつ。

「しかし、ロンベルド准尉は随分と王族や元帥のことに随分とお詳しいのですな? あ、これはザンザ殿と自分の気になったことです」

「わしはティーマー帝国から流れてきた王城付きの近衛兵崩れでな。テイ王、テイ王とは我ら元帝国側の人間が好んで使っていた君主号でな、まあ、あの男は他に様々な呼ばれ方をしているが、この地を訪れた時、わしはリューキ様等の従者だった。当時はこの国境は重要監視地点でな、リューキ様がここを離れる時、わしはこの地に残ることになったのだ。ガイラバルト軍としてはここの最古参だな。和睦成立後はトガー側の警備兵――向こうでは防人と云うのだが、良い関係を持っていたしな」

「こんなところで話して良いのか? 王族のやんごとなき事情もあったようだが」

とは、曹長の心配だった。

「わしの知っとることなど、微々たるものよ。特にテイ王家と元帥家、さらには婿入り先のトガーとの関係はあまりにも情報量が多すぎて、総括的に把握している者など居らぬのでないか」

「今、元帥一家と言ったけど? 元帥は一人息子のシングルマザーではないのですか?」

「リューキ様はな。ツルギ殿とカルナ様の御子は8人だったか?」

「9人10人目は時間の問題だろう」

なるほど、オーク共とは相性が言い訳だ。

「うぬ、やはりあの時命掛けても子種を頂くべきであったか!」

真剣に悔しがるネネ准尉にふりおろしっぽを食らわしてやろうとか思ったが、妊娠の身を考慮に入れて足元に尻尾を打ち付けてやったのだった。


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