春の旅は終わりのようだ
誤字報告ありがとうございました。
暖かく感じたのは間違いではなく、エレトンたちの所に向かう時、周囲の山の積雪も無くなってきたことでも確認できる。
夕刻に空間移動したら、出現場所をすれ違えてしまったようだ。
南から接近して上空から山羊と一家を伺いながら追い越していく。
行列の中間を移動していたエレトンからビバーク地を確認し、モニータを抱いて先回りしようとして呼び止められた。
「今日はあんたの手持ちの食材は使わなくていいからな」
「明日、到着するからか?」
「ああ、荷物は極力減らしておきたい」
「明日の朝、来てやろう。余計な荷は俺が輸送しよう」
「!、そりゃあ助かる」
「そんな輸送能力があるのなら、もっと前から朝晩運んでもらいたかったですわ!」
変な頭の女が何か言ってる。
「俺、都合が悪いことある。夜に来れなかったら、毛皮具なしで寝るか夜通し歩くことになるぞ」
「ハハハ、結局頼りにできるのは自分たちの力ってことさね」
殿のマロンが追いついたので、エレトンの周囲に山羊が集まってしまったようだ。
「あの林の横でいいな」
俺はモニータを抱いてビバーク地に飛んだ。
その夜はエレトンの持っていた食材を石の焚火台で焼いたり焙ったりして食べた後解散した。
もちろんその夜の祈りはエレトン一家の無事な到着だった。
女神ポイントは50ポイントだったが。
翌朝早く、牧場の家の前に狼たちを集合させた。
〈今日、ここの家主が戻ってくる。山羊をたくさん連れてくる〉
「タエ」
〈ちゃんと伝わってるか?〉
〈うん、伝わってる〉
狼たちは傾聴しているようで、大丈夫そうだ。
〈山羊を襲ったりしてはいけないのは、前に命じた通りだが、山羊たちがお前たちに怯えてここに戻って来なくなっても困る。そこで、お前たち半分は、川の合流地点から東に渡る。一旦下流に下る。南に山羊が戻って行かないように追い立てる。北の川上の半分は山羊に川を北に上らせない。東の山に入らせない。いいな?〉
狼たちは遠吠えで応える。
〈ニオ、ラク、ダン、ハンナは留守を頼む〉
「「「ハフ」」」
ハンナだけはそっぽ向いてるな。
〈今日は狩りじゃないからハンナは赤ちゃんを守るの!〉
タエが補足してくれる。
〈タエは高台で全体を見て俺の指示を中継だ〉
〈ザンザは?〉
〈俺は最初にエレトンたちの荷物を預かりに行く。その後は空から指示を出す〉
〈分かった〉
「行くぞ!」
俺が体を空に浮かすと、ゲンが先頭でダッシュで出発する。
一旦は川の合流地点で狼を待機させる。
ダンと雄二頭が門前川の警戒。
ジュンと残りが山羊たちの後ろに回って追い立てだ。
タエは南側が良く見渡せる高台に登ってもらう。
〈ジュンらは東から山羊の後ろに回ってくれ。あの川幅の広いところで、すれ違うつもりでいればいい〉
タエが高台で一声鳴く。
念話の中継状態は良いようだ。
〈では、俺はエレトンたちのビバーク地に行ってくる〉
俺が南西に向かって飛ぶと後ろで狼たちが遠吠えを上げて見送ってくれる。
ビバーク場所ではエレトンたちが固まって俺を待っていた。
荷物は固めているようだ。
「ザンザー! おはよおはよー」
モニータ朝からテンション高いな。
「おはよー、遅くなったかな?」
「今、荷がまとまったところだ。これ、一遍に運べるのか?」
「ああ、余裕だ」
俺は亜空間に順次荷の塊を入れていく。
〈今日は門前川と多門川の合流地が近づくと狼たちが山羊の後ろに回って追い立てることになっている〉
中継するモニータの言葉を聞いて、
「なんでだよ?」
と、切れ気味に言うのはガトー。
「今、牧場の周りはオオカミのマーキングだらけなんだって。そのままだと山羊が怯えて近寄らないから、無理やり牧場に追い立てるんだって」
「大丈夫なのかよ」
「先頭がちゃんと牧場に向かってくれれば大丈夫だって!」
「ザンザ、多門川を渡る時、俺たちゃ靴脱いで裸足になりたいんだが、そんな暇あるか?」
「その時はジュンたち?を休ませ、ゲンたちを北に引かせるんだって」
「何だそりゃ、名前があるのか? 狼に?」
「新しく生まれた仔以外には全部あるんだって」
「家が狼に乗っ取られたりしてねえよな」
「外はそれに近いかも」
「まじかあ。まあ、心配しても仕方ねえ。とっとと帰るかよ」
エレトンは腹を決めたようだ。
俺自身もなる様にしかならないと思うしな。
ガトーが山羊を先導し、移動最後の日が始まる。
先導は緩く蛇行する大門川を向かって左、西側を可能な限り直進しながらゆるい傾斜を登っていく。
1時間ほど進んでジュンの待つ川幅の広い場所に出る。
ジュンたちは一旦東の茂みの中に入りながら南に向かう。
その動きは狼が人を見て警戒し、逃げていくように見える。
やるな、ジュン!
〈ザンザ、クマが来る! 3頭〉
タエからの念話?
〈ミカヅキグマ、9頭が門前川を下ってきます。うち、子熊2頭〉
ナビーネからもだと?
山羊を襲うつもりか?
〈ジュンはゲンの方に加われ! ジャンとグンテは山羊が散らないように見てろ!〉
俺は空からジュンより先に門前川に向かう。
「山羊を集合!」
ガトーに指示を出す。
モニータが追い付けば、事情を知ることが出来るだろう。
数からして「熊の里」の熊たちか?
追い返せなければ、殺さないといけないのか?
魔法と狼の威嚇で下がってくれればいいが。
〈ザンザ! クマが更に3頭、その後ろからも!〉
熊は三派に分かれているようだ。
見えてきた、先遣隊はあの若禿か。
あれでも群れのボスだから先行して来るか。
左右の熊は序列3位と4位か。
ガントとゴンタの威嚇で怯んでる。
若禿は威嚇するゲンに構わず、川の中を下ってくる。
なので、先ずは接近して重力魔法で若禿の体重を軽くしておいて、風魔法で吹き飛ばす。
風船のように3位4位の位置に舞っていく若禿が浮かんでいるうちに、重力魔法を切る。
ドシャッと、いう音と共に地に落ちる若禿。
怯む程度にはダメージになったか。
しかし、そこに次の3頭が加わってくる。
5位の苦労性と、子連れの牝は連れ仔が大きいな。
同じ手法でいくか。
土魔法で熊の足元を固くし、重力魔法で熊ごと軽量化、固化した土を跳ね上げて風魔法・衝撃波だ。
地盤ごと後方に吹き飛ぶ6頭の熊
しかし起き上がって、こちらに来ようとする若禿。
ゲンにジュンが加わって吠えたてるが止まろうとはしない。
懲りねえな!
そういや、『状態』が若ボケの若禿だったか。
若ボケだから元気だけはあるのか。
ならば、こいつさえいなくなれば・・・
〈ゼナだー!〉
タエの念話で、俺は門前川の方を三つある目の左側だけで見る。
が、その勢いに思わず顔を向けて、ガン見してしまった。
土埃を上げながら走ってくるゼナ。
何だ? あのスピードは?
サファリかサザンクロスのラリーカーのような、時速100㎞は超えている勢いで土煙と砂塵を巻き上げながら多門川から門前川の方向にカーブを切るゼナ。
更に注視すると、背にジニーを乗せている。
ジニーの重力魔法で軽くなった体で爆走している訳か。
ゼナのしようとしていることは分かる!
急制動を掛けながら、土津波か!
俺はゼナの真上に向かって飛ぶ。
急制動を掛けた背中から、反動でジニーが前に吹き飛ぶ。
その下で土の津波が熊たちを飲み込むのを見ながら、俺はジニーをキャッチする。
ゼナは土津波で盛り上がった土を前足で横薙ぎにしている。
吹き飛ぶ土と共に転がっていく熊共。
若禿だけが両前足後足を広げて横回転しながら重力魔法なしで宙を舞っている。
「アッキャッキャッキャッキャ」
それを見降ろしながら大笑いするジニー。
お兄ちゃんはお前の笑いのセンスが心配・・・いや、ここは笑いを共有しておこう。
うん、若禿は笑いの獲れるヤツだ。
生かしておいて良かった。
生きてるよな? 若禿?
バウンドしながら地面に激突した後、身動きがないが。
その手前の地形は大きく変わってしまったなあ。
抉れたところに川の水が入り込んで、変な溜池になりつつある。
他の熊は上流に向かって退散している。
俺は抱えていたジニーをゼナの背中に乗せる。
「ゼナ」
〈助かった。しばらくここにいてくれるか?〉
「フウー、フウー、フフー」
珍しく息が荒いのは全力疾走のせいなのだろう。
〈若禿はボケてるから、目を覚ますとまた山羊を襲おうとするかもしれない。その時は追い返してくれ〉
「フッフー」
〈ジニーもここでゼナと一緒だ。待ってるとモニータが来るからな〉
「モニータ?」
「ああ」
〈モニータとエレトンたちだ〉
俺はエレトンたちに合流するために下流に飛んだ。
まあ皆、すぐ手前の見晴らしのいい原っぱにいたのだが。
〈ジュン、ジャンたちと合流してくれ〉
下流に走るジュン。
俺はエレトンたち山羊の群れのそばに着地する。
〈クマが9頭出た。想定外だったが、牧場まではクリアーだ。あ、障害はない〉
「熊が9頭出たんだって、牧場まではショーガナイって」
「障害がない」
「ないから大丈夫?」
「そーそー」
川岸に近づくために歩き始める。
「熊が9頭もいたんだなあ」
エレトンが深刻そうにつぶやく。
「山の向こうにもっといるって、『クマの里』があるんだって」
「ホントかよ。狼よりまずいじゃないか?」
「乳が止まったら、ゼナが躾に行くって、里は内緒にして欲しいって」
「ザンザが来てから内緒ばっかだなあ」
川を渡る時は靴を脱がないで、俺の足につかまって、体重軽減で一人ずつ川の上を渡っていった。
ガトーだけは山羊を渡すために、川の中に入って渡った。
根性入ってるな、ガトー。
しかし、仔山羊を俺が対岸に全部渡すと他の山羊が一斉に渡るのを見て、脱力していたが。
対岸ではモニータがゼナの背にいるジニーを見つけて駆け寄って行った。
止めようとしたが、既に若禿は気が付いて退散した後だったので、まあ、いいか。
ゼナの背にモニータも乗せてやる。
がっちり、爪でゼナの背に固定しているジニーに手を添えていると、モニータも安定するようだ。
ゼナが殿にいるせいか、山羊たちは止まらずに順調に牧場に進んで行く。
〈ゲンたちはここで狩りをするか?〉
その様子を見ながら、狼たちに訊いてみる。
〈こんなんじゃ、狩場にならないから、南で狩るって〉
タエが中継する。
まあ、荒れまくって戦場跡みたいだからな。
〈分かった。夜には戻れよ〉
遠吠えをしながら大門川を下って行く6頭の狼。
タエはゼナの後ろをついてくるようだ。




