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脱出できるようだ!

開けたその日も羽ばたき練習だ。

しかし、仮性親と姉は昨日以来、覗きにも来ないし、餌も与えに来ない。体力があるうち、ここに見切りをつけなければならないようだ。つまりは、ここからの脱出だ。

決行は明日の早朝だ。

兄弟の飛行決行には不安はあったが、安全策は考えている。俺は兄弟の後ろに回って、しっぽを掴むというか抱え上げる。兄弟が後ろを向いて抗議するが、俺は構わずそのまま羽ばたき練習をする。俺の体と一緒に兄弟の尻尾も浮き上がる。これは、兄弟にとっても良い体験だったようで、その日の羽ばたきが、かなり改善されていた。まあ、筋力も付いてきているのだろう。

その夜、俺たちは熟睡することが出来た。


俺は朝早めに起きることができたようだ。窓もどきの隙間から、うっすらと光が入る。

俺は、ストレッチもどきをして、羽ばたき練習をする。

兄弟も目を覚まして、羽ばたき始めた。うん、悪くない動きだ。

さて、やるか!

俺は窓に向かって、空間切断魔法を使う。窓の左端を縦に空間が食い込むように座標を定めて発動。本当に壁が切断されているのか、今いち不安だが右も同様に縦側に向かって発動。次は下面を横に切るわけだが、やや外側に向かって下り傾斜ができるように座標を設定する。壁が外に向かって落ちるようにするためだ。

空間切断と同時に壁が外に向かって傾き、そして落下していった。窓は俺の背の倍の高さ、幅は広げた翼よりやや広く拡張されたことになる。

部屋の中に外気が一気に入り込み、風が吹き込む。

爽快だ! 初めて味わう解放感だった。俺は翼を広げて外を覗き、空を仰いだ。周囲は高山のようで、空は明るいのに朝日は出ていない。

俺は兄弟と開放感を共有しようと、手で招いて、こちらに来るようにジェスチャーした。

恐る恐る、広げた窓に近寄り、外を見る兄弟。吹き込んでくる風を受けると翼を広げるのは本能なのだろうか。

躊躇なく飛び出そうとする兄弟のしっぽを掴んで制止する俺。

〈まだ早いよ。俺の準備が出来てねえ! いいか? 兄弟。飛び出したら羽ばたかなくてもいい。翼で体を支えてりゃ勝手に進むから!〉

分かっているのかどうか、とにかく念話で注意してみる俺。

俺は兄弟とは違って、羽ばたく準備をする。兄弟が外に出ることを躊躇わないのは、いい意味で予想が外れた。

俺は兄弟の後ろから、しっぽを掴んだまま押し出すように羽ばたいた。兄弟は窓から翼を拡げる。

俺達は一気に外に飛び出した。風を受けた俺たちは繋がったまま山地特有の上昇気流に乗った。

俺は少し焦った。想定ではゆっくり下方に滑空してソフトランディングで着地するつもりだったのだが、気流に乗った俺たちは軽やかに山岳地帯を上昇していったのだ。

俺は後方を確認する。俺達のいた部屋は山岳地帯の中腹をくり抜いたような城塞の一部だったらしい。そこを、離れながら上昇していく。高度がどれくらいだが想像できないが、それなりに寒い。

早めに地に降りたいが、場所を選ばなくてはならない。何せ初めての着地ミッションだ。平たくて障害物の無い草原なんかがベストなんだが。

今、兄弟の尻尾を放してみるのは良くないのだろう。気流への対処がイマイチわからないうちは離れ離れになった後、合流出来るかわからない。

山岳地帯は切り立った尾根が続くように連なっており、その尾根への着地は無理そうだった。

とうとう尾根を越えて山の反対斜面へ流されてしまった。上昇気流が無くなり、俺たちはついに下方に滑空し始める。

薄 い雲の切れ目から森林地帯が見える。森への着地も遠慮したい俺は、森の終点を探す。

見えた! 左に湖か内湾のようだ。俺は右の翼を羽ばたかせて方向を変える。うまく兄弟の体は左に向きを変えてくれた。

俺は両翼で羽ばたいてみると、上昇したい意思とは逆に下方に向かってしまう。俺が羽ばたくと、兄弟の 上体が下方に向かってしまうようだ。

ならばと、俺は兄弟のしっぽではなく、腰を掴んで羽ばたいた。翼の位置が近づいたせいで兄弟の胴体が上昇し始める。

何とか飛行をコントロールできるようになって、俺は一安心したのだった。


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