春になったからお出かけできるようになったようだ
翌朝外に出た。
朝でも日が照ってくれば、一気に暖かくなるようになった。
オークの教会も気になるが、暖かくなったのだからジニーを外で遊ばせよう。
ジニーを外から呼んだら、ゼナも出てきた。
ゼナの背中の上で、ジニーに毛皮のフードとポンチョを着せる。
これでゼナの背中から離れても暫くは体を冷やしたりはしないだろう。
狼たちはゼナの周りで一通り列を作って歩き回ったあと、狩場へ走って行った。
今日の留守番はダンとタエでハンナは一頭だけでニホンオオカミの群れに入って遠征のようだ。
勿論、母狼は子守りで蟄居中だ。
俺はジニーに「掘っ建て」の中の授乳中の狼を見せてやる。
ニオとラクは警戒はせず、リラックスしているようだ。
近くにいるゼナの匂いは把握しているはずだが、近づいたくらいでは慌てないのだろう。
〈狼の赤ちゃんだ。卵から産まれた俺たちと違って股から赤ん坊のまま生まれて目も耳も聞こえないうちから、母親の乳を飲んで育つんだ〉
「見えない? 聞こえない?」
〈はっきりとは見えないし聞こえない。暗いか明るいか、音がしてるか静かくらいしか分からない〉
「弱い、脆い、遅い」
〈弱いから守る。脆いから支える。遅いから親が動いてやる。これが本当の育て方なんだ〉
「ザンザ敵を倒した。餌くれた。飛び方教えた。たくさん殺した。マンジュくれた。本当に育てたのはザンザ」
「ジニー」
〈こいつらはすぐに大きくなる。お前もまだまだ大きくなる。教えたことを学んでいればいいんだ。今はな〉
ふふ、零歳児同士の会話とは思えんな。
俺はともかく、こいつがこんな意見を持つようになるとはなあ。
その後俺とジニーは周囲の草を食べるゼナと一緒に牧場を散策して回った。
ゼナは草を食べて腹を満たすというより、味を確認して地面を調べているといった感じだった。
土魔法持ちになったから、独特の土地勘(土地感)を持っているのかも知れない。
ジニーと俺はそんなゼナに飽きもせず付き合って、昼過ぎまで時間をつぶした。
ゼナは家に戻ったので、外気温が暖かくなったのをいいことに、俺はエレトン一行の周囲を遠距離上空から哨戒してみた。
上空は、まだ寒いが続けられないことは無い。
山羊の列が伸びたら、ガトーが先頭を止めて、草を少し食べさせ移動を再開するということを繰り返しながら進行しているようだ。
哨戒結果は、害敵らしきものの存在は認められなかった。
日が傾いてきたので、モニータとエレトンのいる列の中間に着陸する。
「ハイ! エレトン!」
「ハイ、ザンザ!」
先にモニータが挨拶を返す。
「ああ、ザンザ!」
と、エレトンが迎えてくれる。
「調子、どう?」
「かなりいい、お陰で明後日には到着できそうだ」
「そうか、今日はどこで寝る?」
「あの林のすぐ横で寝よう」
「火を焚いて待っている」
「また、モニータも連れてって!」
「いいな?」
エレトンは仕方が無いという素振りで頷いた。
俺はモニータの後ろに回って、脇を抱き抱えて飛び上がった。
モニータが喜んでいる。
林の横の、その場所は平地になっており、山羊を集めやすそうに見えた。
モニータを降ろして火を付けながら、先頭を待っていると、ガトーが駆けこんできた。
雄山羊を先頭に次々と集まり始める山羊たちを次点のエレトンがチェックしていく。
喧騒がピークになってくると、殿のマロンとオリパが到着する。
その頃には肉の焼ける準備は出来ていた。
「ザンザがマローの肉でいいかって?」
「かまわんが、狼は仲間じゃなかったのか?」
「マローは魔物でオオカミの敵だって」
「ああ、やはり、あれと狼は別物か・・・」
エレトンは焼けた肉を口に入れる。
「お前、こりゃあ、胡椒じゃねえか?」
「取引があって、手に入った」
これは直接俺の言葉だ。
「取り引き? どんな奴と?」
「家で話す」
「他にも手に入った物があるからだって」
「そうか、冬にあんな所に来る奴がいるのか」
皆に肉が行き渡ると、マロンが考え込んだ顔をして俺に話しかけてきた。
「あんたのヒール魔法なんだけど、訊いてもいいかい?」
「魔法じゃないけど、良いって」
通訳はモニータだ。
「あたしのヒールウォーターじゃ仔山羊の骨は治せなかった。あんたのスキルとの違いは何なんだろうね?」
「スキルじゃなくて奇跡のタグイだから、ザンザのは反則だって、え? 使って見せろって」
俺は握り固めた拳で地面を殴りつけた。
前回のとおり、こぶしの中に爪が潜り込んで浅くない傷を作った。
そして開いた手の平をマロンに差し出す。
「なんてことをするんだい! 全く・・・ヒールウォーター」
治療結果をモニータに中継する。
「ヒョーメンしか治ってない、中は痛いまま、だって」
因みにヒールウォーターはMP20消費するようだ。
「エムピ-ショーヒも大きい割に効果が小さい、だって」
「エムピ-?」
「魔力量のこと?」
「ああ、師匠はオドって呼んでたねえ」
「魔法はイメージが大切だって。血が流れているのは、血管が血の管が切れているから。痛いのは神経という感覚を伝える糸が切れているから? 太い神経が切れると、関節を動かすことが出来ない。現実を理解するイメージが大切だって」
俺は小さい空間切断面を作りそこに治ったばかりの皮膚で触れる。
内部の治っていない手の平は派手に血を出しながら傷が開く。
「うわっ、え? 指がある方から血が流れてくるのは静脈という血管が切れているから? 手首の側、心臓に近い側から大量に血が出ると心臓の側を縛って出血を弱めなければならない」
俺は開いた傷口を差し出しながらマロンに魔法を使わせる。
「流れる血は水魔法で血管に流し込め。イメージを思い浮かべながら血を動かせ」
出血が見る見る収まっていく。
「治療で一番大事なことは、それが魔法だろうが薬だろうが、直すのは傷ついた者自身が直すということだ。それを手助けするというイメージが大切なのだ。
今は血を魔力で血管に流し込んでいる。流れている血を血管で延長させてつなぎ合わせる。血の管と同じもので覆いながら管を作るのだ。
ザンザに作らせるのだ。マロンが作るのではない。
周囲の筋肉や神経は血の運んだ材料、ごく小さい素材で修復される。イメージしながら元に戻る様に作らせるのだ。ザンザに作らせるのだ」
傷口は皮膚は裂けたままだが、傷口から覗くピンクの肉は出血したりはしていない。
「お、おい、モニータは何か変なんだが大丈夫なのか?」
見ていたエレトンが心配している。
「今は、ザンザとモニータは同調している。シンクロしているだけだ。悪い影響はないだろう」
モニータは完全に俺の口調になっているようだ。
俺は傷がほぼ治った手の平を握ったり開いたりしてみる。
「まだ、動かすと痛い。急に神経がつながったので、動かす伸びしろが無くなってしまったのだな。出血が止まったので剥き出しの筋肉もヒリヒリするし、ウォーターヒールで治すことも出来るだろうが」
モニータは俺の手を取って、俺の口調で奇跡を祈願する。
「女神の福音にてザンザの手を癒し給え」
手の平の傷口が光り、そして光の粒子が宙に舞い上がると傷口は無くなっていた。
「『女神の福音』という奇跡だ。近いうちにモニータだけで使えるようになるだろう。うまく秘匿することだ」
俺は飛び上がって宙に留まる。
「マロン、治したかったのは山羊の骨折だったな。骨については別の知識が必要だ。帰ったら明るいところで指南しよう」
マロンは宙にいる俺と俺の口調を使っているモニータを交互に見ながら首を縦に振っている。
俺は羽ばたいて牧場方面に進路を取り、空間切断面を移動した。
夜の着地の難しさは遠近感が今一つ掴めない所だろう。
ま、重力魔法で体重は軽くなっているので、スピ-ドさえ落としておけば落下の衝撃は大した事は無い。
肉食獣たちの餌を用意しながら、明日はオークの教会建設の進行具合を見に行こうと考えていた。




