この世界、借金奴隷とかあるようだ
昨夜、ニオとラクの無事出産を感謝し、6頭の子等の健康を祈願したら、女神ポイントが2600加算された。
現在俺が持ってる女神ポイントは14860だ。
これを『運』に替えれるだけ替えたら250になる。
他人のステータスを見る限り50を超えている者はいなかった筈だ。
今の102だって他を見ない高数値なのだ。
なのに恩恵を実感できないのは日々の生活が、活動が、平穏だからだろう。
未知の体験や、危険に遭遇すると「運」っていうのは影響してくる筈だよなあ。
まあ、今は毎日のルーティンは給食活動のみだ。
朝飯を用意しよう。
ゼナから始まって、全員が食べ終わった。
昨日までと違うのは、ニオとラクの食事が最後になったことだ。
食べに来ない母2頭にゲンとダンが肉を咥えて持っていこうとしたので、俺が肉の細切れを石のトレーに乗せて運んだ。
母狼は食欲旺盛で産後の肥立ちは良さそうだった。
その日、ゼナが久しぶりに遠出をした。
門前川と多門川の合流地点までジニーを乗せて歩いての移動だ。
直ぐに引き返したが、一緒についてきたニホンオオカミ5頭は暫く狩場に残るようだ。
ゼナは帰りに野草を食べていた。
鑑定したら主にフキノトウだった。
ジニーが真似して食べようとしたので、すかさず――
「食うな! それは苦くて辛い!」
と、止めたのだが手遅れだった。
ジニーは情けない顔をしながら、すぐに吐き出したのだった。
まあ、毒ではないのだから、良い経験だろう。
〈その苦みと辛みはカリウムだ。体の余計な塩分を輩出してくれるから、慣れたら毎年食べるといい。今度ちゃんと料理してやろう〉
俺は地面で余っていたフキノトウを採取して回収しておいた。
家に戻って、ニオとラクの様子を見る。
ニオのいた「掘っ建て」にラクも合流していた。
ま、「1軒」に一1頭プラスは広過ぎたからな。
ハンナはここに残っていた。
用心棒としては心強い。
ゲンもダンもハンナも子狼を覗いても唸らなくなった。
ゼナが子狼を気にすることは無いようだしな。
正午を回って、周囲の植物の名前をジニーに教えながら過ごしていたら、日が傾いてきたので、そろそろエレトンを訪ねてみるか。
50㎞以上の移動だが、空間をバイパスするので10分もかからない。
ナビーネのアラートがないので安心していたが、やはり敵性生物との遭遇は無かったようだ。
エレトンたちは、まだ移動中だった。
俺は並行しながら着陸する。
モニータのすぐ横だ。
「来てくれたんだ。ザンザ!」
「こんばんは」
〈モニータ〉
念話を織り交ぜてあいさつだ。
エレトンたちは手を挙げてあいさつ代わりだった。
1日歩き通しだったようで、皆一様にテンションが低い。
〈今日はどこでビバークなんだ?〉
〈あそこだよ! あの大きな木の下〉
1㎞弱の距離に1本の木が見える。
〈あそこか、じゃあ、先に行って待ってるか!〉
「え?」
俺はモニータの後ろに回って、脇を抱きかかえ、重力魔法で浮き上がり、羽ばたいた。
「きゃあー! ああー! おおー!」
やはり、モニータは良い度胸をしている。
すぐに慣れて空の移動を喜んでいる。
とは言え、1分以上かけてのゆっくりとした飛行だったが。
目的地に着くと、直ぐに焚火台を出して薪に火を付ける準備だが、木の下の平たいところは寝床に使うのだろう。
離れたところに位置決めをしてセッティングだ。
「あのね、ザンザ、あのね、仔山羊に足の悪い子がいるの。さっきみたいに連れてきて欲しいの」
どんな具合だ?と、訊きかけたが、行ってみれば判るか。
〈火を見てろ。この薪が半分燃えたら、次の薪を入れるんだ。そっとだぞ〉
と、念話で伝えておいて、元来た草原へ飛び立った。
最後尾にマロンとオリパという少女がいた。
仔山羊のことはすぐに分かった。
マロンが脇に三角巾のような布で抱えていたからだ。
「ちょいと! 勝手にうちの子を攫って行かないでおくれでないか?」
「喜んでたぞ」
「まあ、いいけどさ」
「その仔山羊、連れて行こう」
「んあ? モニータに聞いたのかい? そういうことなら頼もうか」
マロンは仔山羊を三角巾に包んだまま俺に寄越した。
三角巾ごと首に下げて、モニータの所まで空輸する。
布を外して様子を見ると、右後ろ脚が樋爪の一つ上の関節で折れて、力を入れることが出来ない状態だった。
筋肉が伸びて腫れ上がり、骨を固定することもできず、普通なら、もうこのまま治ることは無いように思われる。
「添え木をしても嫌がって外しちゃうんだ」
モニータは悲しそうに後ろ足を見ている。
〈この仔山羊の後ろ足、骨を接ぎ、肉を動かせるよう『女神の福音』を与えたまえ〉
光の粒子が山羊の足を包み、上空に霧散した後には左足と同じく細く元に戻った右足になっていた。
仔山羊は不思議そうに後ろ足を見ながら、プルプルと小刻みに動かしている。
「はあー? ええー?」
モニータが足を触ろうとして、躊躇している。
「触って良いぞ」
「ザンザが治したの? もう大丈夫なの?」
触りながらモニータが訊く。
〈大丈夫なはずだが、「ちんば」引く癖がついちまったようだな。暫くしたら普通に歩き始めるだろ〉
「すごい! ザンザすごい! ありがとー!」
〈女神ナビーネの福音だ。これも内緒だからな〉
〈女神様? 福音?〉
〈体を治す女神様の力だ。じゃあ、女神様にお礼をしようか? 手を合わせて目を閉じて〉
〈手を合わせて? 目を閉じる?〉
〈山羊を治していただき、ありがとうございます〉
〈治していただき、ありがとーございます〉
〈ザンザに女神ポイント1000を付与します。モニータに女神ポイント1000を付与します。初回サービスで2000付与します〉
「め、女神様? 今の女神様の声?」
〈念話だ。モニータの女神ポイントはいくつになった?〉
「センとー、ニーセンとで?」
〈3000だ〉
「サンゼン?」
〈モニータは千の数字は聞いたことが無かったか?〉
「3000を『運』に変えてください」
〈念話してみろ?〉
「サンゼンをウンにかえてください」
〈女神ポイント3000を『運』30に変えます〉
モニータ(8歳)
LV 9
人種 ヒューマン
状態 ノーマル
HP 20(16)
MP 14
強 10
速 20
賢 29
魔 15
耐 10
運 50
スキル
――――
火魔法
おや、モニータ、歳が増えてレベルも上がってるね。
注目の『運』は、なんと50か。
相対的に周囲の運勢を落とすものじゃないから大丈夫だろ。
HPの減少は疲労のせいか?
とか、考えてたら、先頭のガトーが到着し、山羊が集まり始める。
焚火台も温まったので、塩の板を乗せて・・・秋に獲ったマスを焼くか。
マスを3本、半身に下ろして、元通りの魚の形に張り合わせて塩の板の上で塩を大量に振りかける。
もう一台焚火台を用意しておく。
中間にいた、エレトンが到着する。
「飯の準備をしてくれてるのか、本当に助かる」
そう言って木の下にどっかり座り込む。
「焼けたぞ。食え」
「魚? そりゃマスか?」
「秋に川で獲れた。ナイフとフォークはいるか?」
「でかいな。食器はありがたい」
石のトレーと木のナイフとフォークを渡す。
モニータの前にはトレーを重力魔法で浮かして、その上でナイフとフォークでマスの分厚い皮をはがしておいてやる。
「腹の骨は口に入ったら、吐き出すんだぞ」
「おさかなー、身がパラパラでおいひー」
亜空間内保存で鮮度は落ちていないから身離れが良いのだろう。
「おま、その魔法・・・遠慮しなくなったな」
重力魔法のことか。
このトレーはモニータにはまだ重たいからな。
モニータの分のマスの皮にフキノトウを包んで焼く。
周囲に独特の香りが漂う。
「何の匂いだ?」
「フキノトウ焼いてる」
「そんなもん食えるのか?」
「苦い、辛い、でも体にいい」
エレトンは1個口に入れる。
「んー、ほおー、苦いが、イケるな」
「山羊は良く食ってるよ。これ」
ガトーとモニータも摘まんでいる。
ガトーは何とも言えない顔をし、モニータは顔をしかめたが、吐き出したりせず、一個をちゃんと食べている。
ガトーがマスを食べ始めると、マロンとオリパが到着して、全員揃ったことになる。
「何食べてますの? ガトー?」
「マスだよ。一人一枚ずつあるってよ」
「マス? レッドトラウト?」
「モニータ」
〈ダイモンマス、だと教えてやれ〉
「ダイモンマスだよ。オリパねーちゃん」
「大門川でこんなのが獲れたのかい?」
マロンが話に加わる。
「増水があると上流へ来るようだ」
ちょっと、失礼して覗き見してみよう。
オリペアーネ(17歳)
LV 17
人種 ヒューマン
状態 借金奴隷
HP 70(32)
MP 117
強 17
速 15
賢 88
魔 71
耐 40
運 5
スキル
――――
土魔法
オリパは、HPの減りが酷いな。
しかし、借金奴隷? 奴隷制度なんてあったのか、この世界。
そしてマロン、HPもだが、何でMPまで減ってるんだ?
ああ、仔山羊にでも使ったか?
とか、想像してたらガトーが仔山羊に気が付いた。
「足、治ってるじゃないか! どうやって? ザンザか?」
「ヒールを掛けても、骨は戻らなかったのに?」
マロンも仔山羊を確認している。
仔山羊は母山羊からだろうか、元気に乳を飲んでいる。
「ガトー山羊集合させろ」
「へ、ああ、集え!」
雄山羊を前に焚火の周囲に集まる。
統制取れてるね、流石ガトー。
〈疲労と旅の疲れからくる症候群を『女神の福音』にて癒し給え〉
広範囲に光が広がり、一家と山羊を包み込む。
これで、減っていたHP、ついでにMPも回復し、明らかに山羊の姿勢が良くなったようだ。
〈内緒だ!〉
俺はモニータに念話する。
「これはね、な・い・しょ、なんだよー!」
「はっはっは」
「えっへっへ」
俺は笑っているように見えないかも知れないが、モニータは一番の笑顔で合わせて笑ってくれたのだった。
エレトン一家は座り込んで、それぞれ違う表情をしていた。




