飛行訓練は順調のようだ
この部屋には窓がある。
壁の隙間のような窓だが、それでも外の光は漏れるし、そのおかげで昼か夜か判るし、一日の経過がわかる。
俺達は夜行性ではないようで、夜寝て朝起きるサイクルに落ち着いている。昼間結構寝ているが、それでも夜はずっと寝ていて、目を覚ましても夜間活動することはない。
朝になって、俺は運動をすることにする。翼や、手足を伸ばして縮め、ストレッチングを試みる。なんとなく、体にいい感じがする。
そして、羽ばたき練習だ。翼の先端が軽い。なかなかいい感じに羽ばたいている。
おおっ、体が浮き上がる!翼が天井に当たる!
いつの間にか起きた兄弟が叫んでいる。
「オザジョ~ッ!」
おはようのつもりの俺の挨拶。
「ガギィ~」
おおっ、挨拶を返してくれるのか! 愛いやつ!
俺は兄弟の真正面に立って、翼を広げる。兄弟もわかっているようで、翼を広げた。俺が羽ばたくと、兄弟も羽ばたく。しかし、俺は羽ばたくのを止めても、兄弟は羽ばたいている。やはり、こうして風を受けながら兄弟の翼を見ていると、羽ばたきに力がない。
まあ、生後三日だ。翼に筋肉が付いてきていないのは仕方ないだろう。しかし、翼を広げて体を支えてくれさえすれば何とかなる。
俺は兄弟の手を取った。
よしよし、嫌がったりはしないな。手を取ったまま、俺は仰向けに後ろに寝そべる。兄弟はマウントを取った形で、うつ伏せに俺の上に乗った形になる。俺は自分の翼を兄弟の翼、中ほどで持ち上げるように支える。兄弟は翼で体を支えられず、俺の胴体に体重を預けようとする。
ダメだダメだ。それじゃ意味がない。翼だけで自重を支える練習なんだ。
ナビーネに話しかけるような念話が自然と出てしまったが、兄弟に伝わった感じはない。まあ、仕方がないよな。
俺は胴体に乗りかかってくる兄弟を手と翼で持ち上げながら、念話として意識して伝えてみる。
〈広げた翼で、体を支えるんだ。翼と背中に力を入れて!〉
しかし、兄弟は分かっていないようだ。
〈念話は通じていないか?〉
〈通じてはいますが、理解していないのでしょう〉
ナビーネが解説してくれる。
〈そうか、伝わってはいるのか〉
俺は兄弟の下から這い出て、もっと基本から教えることにした。
〈これは翼だ。つばさ〉
俺は背中を向けて翼を広げる。
前かがみになって翼を上に伸ばす。
〈上げる!〉
翼を前から下に振り下ろす。
〈下げる〉
俺は翼を動かしながら続ける。
〈上げる、下げる、上げる、下げる〉
兄弟が真似をし始めたので、念話だけで指示してみる。
そんなことから、体の部位の名前を教えたりして、その日は潰れていくのだった。