イノキバオークは人事異動があったようだ
誤字報告ありがとうございました。
春雷の後、一度は冷えていた牧場周辺は、徐々に暖かくなってきた。
特に昼間の風が暖かい。
そして、しばらくぶりでイノキバオークたちが来た。
獣化状態の集団に露骨に警戒し威嚇するハンナ。
〈お前、オークは初めてか。ちょっと下がってろ。だから、母狼たちの所にいろって〉
ゲンとダンが挟み込むようにして、ハンナを下がらせる。
獣化を解いて全裸で直立するオークたちは、いつもと違った。
いつものでっぷり軍曹がいない。
「新任軍曹のククであります!」
腰と胸の肉付きの良いウェストの締まった体躯のオークだった
「伍長サッサ以下3名であります!」
やや細身だが、総じて腰回りの肉付きは良い。
まあ、下半身デブとも言うが。
〈自分サッサが念話し伝えます〉
ムニム軍曹やネネ准尉が来ないのは代替わりかな?
「今日は新任挨拶か?」
「は、挨拶兼伝令であります」
クク軍曹。
〈伝令? 俺は軍属じゃないから命令を伝えられても困るんだが?〉
「は、命令ではなく、報告であります」
サッサ伍長が口頭で伝えてくる。
「改まって報告って、准尉から?」
「は、准尉、軍曹共に妊娠したので、大事を取り事務に専任するとのこと、ナビーネ様とザンザ様に厚い謝意を伝えたいとのことであります」
なるほど、よろしくやっちゃたのね、あいつら。
〈そうか、ナビーネと共に祝福すると伝えてくれ〉
「そ、それで、『一度我らが営業所に来られたし』とのことであります」
〈何のために?〉
「教会か神殿を建設したいと、場所、建造の構想や、意見を伺いたいとのこと」
随分と真面目な話だな。
〈どうよ、ナビーネ。神殿とか欲しいか?〉
〈私を神格と認める者はまだ少ない。今は信者を募る方が先です〉
〈なら、集会場を兼ねた教会方式か〉
〈場を設けるのは、良いと言うか勝手なのですが〉
〈何だ? 珍しく歯切れが悪いな?〉
〈今宵、ゆっくりと考察しましょう。この件〉
〈そ、そうか〉
俺は意識をクク軍曹とサッサ伍長に向け、伝える。
「確約はできない」
〈が、前向きに検討する。期限はあるか?〉
〈早い方がありがたいのですが、ご無理でしたら年内にお越し願いたい〉
「了解した。で、君ら新任か。食っていくか?」
「お心遣いだけで、結構であります」
と、新任軍曹。
「遠慮するとは意外だな」
「来る途中、狩りに失敗し獲物なしなのです」
伍長がイノシシの顔で情けない表情を作る。
〈今は、たまたま肉が潤沢だ。周囲が暖かくなって置いておいても腐らせてしまうからな〉
俺は雪山を掘って、中から細切れにした鹿肉を取り出すふりをする。
実際は亜空間からだが。
〈分かってるだろうが、うちはお客さんの方が後回しだからな〉
焚火台に火を付けながらオークたちに確認しておく。
「は、心得たであります」
今はまだ正午だ。
焚火台は朝飯の余熱が残っていて、着火しやすい。
直ぐに火が安定したので肉を焼いていく。
今はゲンとダンが一緒に食べ、ニオとラク、ガントとハンナ、そしてニホンオオカミの面々、最後にタエが食べるという順番だ。
朝飯から時間が経っていないので、今は一切れずつで十分のようだ。
「あれは、ハイギンオオカミではないのですか?」
訊いてきたのは伍長だ。
「ああ、最近合流した」
「縄張り意識の強い、攻撃的な狼と聞いていますが?」
「繁殖期は合流するようだ」
〈群れの力が拮抗してないと、こうはならないようだが。実際最初は縄張り争いが起こった〉
「群れ同士の力量と子育ての協力態勢でありますな?」
「ああ、一時的なことなんだろう」
「従属させることは可能でありましょうか?」
「傭兵団が? 力が拮抗してるから、服従しないな」
「拮抗しているから、群れが合流したのではないのですか?」
「それは、族長同士が意気投合したからだ。こいつらの俺やゼナへの従属関係とは違う。変な色気は出さんことだ」
「き、肝に銘じるであります」
軍曹はその横で鹿肉を無心に食べている。
「軍曹殿、何一人だけ食ってるでありますか?」
「いや、一巡したからいいかなって、お肉余ってるし」
「食っていいけど」
〈部下にも回せよ〉
「均等に皆で食ってくれとのことであります!」
「うん、でも、何でここの肉はこんなに美味しいのですか? 同じ鹿肉なのに?」
「現地で即捌いて血抜きするから、かな」
肉の切り方も違うのだろうな。
俺は刃物使わないで切ってるし。
焼く時はその断面から焼くから、分からない筈だ。
「あとは、胡椒は何使ってる?」
「ここと同じもののはずですが?」
「ああ、俺は黒胡椒だけ選んで使ってる」
「味が違うのでしょうか?」
「ああ、白や茶色は煮出し用だな」
「帰ったら、分けて使ってみます」
新軍曹はささやかな決意をして帰っていったのであった。




