女神様は唐突に話題に絡んでくるようだ
二か所で火を焚きながら、准尉たちに訊く。
「肉は何を持って来たんだ?」
ひもで縛っている獣をさっきから、ニホンオオカミたちが気にしていたのだ。
「アナウサギであります。ここに来る途中で巣を一つ潰したのであります」
「こちらは、ゴートとシンリンイノシシと魔狼でいいか?」
俺は一旦、家の裏に行き、雪の中にあらかじめ入れていた皮の包みを、持ってくる。
塩の板を乗せた台をイノキバたちに譲って、俺たちは石の上で塩胡椒を振りかけながら肉を焼いて食べ始める。
〈お前たちは国境警備隊だったな? イノキバ以外にも隊員はいるのか?〉
「国境の関所に本体の詰め所がありましてな。そちらに元レジスタンスの現地兵30と出向士官が2名詰めておられます」
「我ら傭兵団は別の陣に営業所を持っているのであります」
「更にはトガー帝国側に警備兵が30名ほど詰めているはずです」
脇ではオークビッチたちがアナウサギを捌いている。
〈ああ、捌く前のアナウサギを1羽譲ってくれないか?〉
「ミミカ2等兵、そのアナウサギをこちらに」
ミミカ2等兵が腰に下げたアナウサギを持ってくる。
それは耳の小さなウサギだった。
灰色の毛皮は前世界のプレーリードッグに似ているが、胴がずっと長かった。
既に血抜きはされているようなので、丁度残っていた木の板の上で、ずるりと石のナイフで皮を剥いでいく。
「手慣れたものでありますなあ」
〈暇な時は皮の手入ればかりしてたからなあ〉
腹を捌いて、前回イマイチだった「小腸の香草焼き?」に挑戦してみる。
今回は胡椒で味付けなのでかなりマシになってる筈だ。
「ほお、『ハラワタの香草詰め』をご存じでしたか。通ですなあ」
准尉が感心している。
「ただ、当たり外れがな。今回、イケる」
「雪の下の草を主食にしていたようですな。良い味を出している」
「ゼナ」
〈お前の好きそうな味になってるぞ〉
軒下でジニーを抱えているゼナを呼んでやる。
焼いたアナウサギの腸と内臓を板に乗せてゼナの前に出してやる。
ジニーを下ろして一切れずつ食べていくゼナ。
准尉が慣れた手つきでジニーを抱き上げるが、普通の赤子ではないので、直ぐに准尉のイノシシ頭に上って毛にしがみついたりしている。
「HAHAHA! これは元気な赤子だ」
〈イノキバよりもか?〉
「この幼さでここまで動ける子は我らの中にもいないでありますな」
准尉の替りに軍曹が答える。
「子種はどっかから襲って奪ってるのか?」
「最近の子は皆、出張士官殿の子どもであります。デキた殿方でありますからなあ」
何がデキてんだか! 首から下だけ見てればデキるのか? 好きでやってるのならいいのか?
「ところでザンザ殿」
准尉が居住まいを正して続ける。
「軍曹の信仰のことなのですが、神の声が聞こえるというのは本当なのですか」
「本当だ。軍曹を信じられないか?」
「信じます。この軍曹の姿を見れば。いや、信じたいというべきか。しかし、我らは魔物として神の敵と認定され、あるいは神に見放された下賎な者とレッテルを張られております。神の声を聴ける信徒であるなどと、のたまっても誰も信じますまい」
「他者の声など気にする必要はない。ナビーネは創造神だが、ごく最近覚醒したところだ。あれが唯一神だと言ったところで、誰が信じるのか」
「創造神で唯一神なのですか? その神様をそんな風に言っちゃってもいいのですか?」
「気さくな性格だからな。いいんじゃね?」
「いや、ザンザ殿、ナビーネ様が残念女神であることは認めますが、『誰が信じるのか』は遺憾であります。信じてもらうべく、信じるべく導くべきであります」
「すごいじゃん軍曹! ちゃんと信徒になってるじゃん」
〈残念女神を布教する気満々じゃん!〉
「何で、途中から念話に、ああ、言語に不具合がおありだったのでありますな」
〈ちょとー! 何女神に「残念」レッテル這ってるのよー!〉
「あ、出たー」
「ちょ、ザンザ殿、ゴーストやワイトではないのですから、降臨されたとか顕現されたとか言いようが」
「いや、念話だけだし、顕現してねーし」
〈神ですよ! 女神ですよ! 念話だけでも、もっと敬いなさい。敬謙に! 敬謙にっ!〉
「今、来ておられるのですか? ナビーネ様?」
准尉が周囲を見回す。
「来てるって言うか」
〈意識がこちらに向いてるって感じじゃなかろうか〉
「神の意識がこちらに向けられているのではないかとのことであります」
「我らを信徒にしていただくことは叶うでしょうか?」
「既に信徒であるとおっしゃってるであります」
「おお、では、我らにその恩恵がいただけるのでしょうか?」
「リューキ元帥から賜った恩恵を大切にせよと・・・母なる者から賜った恩恵を大切にせよと・・・これから賜る子らを大切にせよと・・・過去の恩恵を思い起こして、みずから掴んでこその恩恵でありますか」
「そうか、そう言われているのか」
准尉が肩を落とす理由は分かっている。
ナビーネの教えは前に進むことのできる若人には聞こえがいいだろうが、更年期の人豚の准尉には今更感のある冷たい言葉に聞こえるのかも知れない。
「准尉、いやネネ」
〈お前の望む恩恵がどんなものか分らんが、これはダメ元のくじの付録だとでも思っとけ〉
「ダメ元のくじの付録だそうであります」
「え、何?」
〈「女神の福音」にて今一度、衰えた命を宿す種を与えたまえ〉
「今のは、准尉殿に子種を与えたのでありますか?」
「ちげーよ。排卵を復活させただけだ。チャンスは左右で2回、かな」
「私はまだ、狙えるのですか?」
「狙わんでいい!」
〈更年期障害が二周期分先に延びたってだけだ。その間にいい薬でも探すんだな。漢方薬とかさ〉
軍曹が准尉に耳打ちしている。
部下には聞かせたくないのだろうか?
〈お前らの場合はアレがくるのか? それとも発情期か? まあ、その時には、ちっとばかし念入りに祈っとけ。軍曹と一緒になあ〉
「今、そこに居られるのでしょう? 今こそ感謝いたします。例え子に恵まれなくとも、部族の子を慈しみ育てて参ります」
「ああ、うん、いいんじゃないかな」
〈人豚らしくて〉
〈ネネよ。あなたを人豚から猪人に昇華します。今見たあなたの人の道を信じて進みなさい〉
「准尉殿、ナビーネ様の言葉をそのまま伝えるであります。『あなたを人豚から猪人に昇華します。今見たあなたの人の道を信じて進みなさい』」
それを聞いていた准尉の頭部の毛が軍曹と同様に白く変わっていくのだった。
准尉は大層感激して去って行った。
しかし、女神ポイントサービスは、まだ利用できないようだ。
〈准尉がポイントゲットできる条件て、何なんだ?〉
しかし、ナビーネからの返答はなかった。
准尉が念話出来ないからか?
ステータスに介入できない、何か問題でもあるのか?
もしかしたら、ナビーネ自身にも解っていないのかも知れないな。




