総出で縄張り確認のようだ
翌朝、早めに起きると、外で狼たちが走り回っていた。
ウォーミングアップのつもりかな?
「ゼナ」
〈早いけど、出かけてくる。ジニーを頼む〉
「クマッ」
え? 断られた?
〈腹、減ってるの?〉
ふるんふるんと頭を振るゼナ。
ジニーの家着を咥えて寝室に四つ足で歩き、御着替えセットの横にジニーを下ろす。
〈一緒に来たい?〉
「フッフー」
来たいと言うのなら、来てもらおう。
俺はジニーに頭をくり抜いた形の魔狼の皮をかぶせた。
耳付きポンチョだ。
ちゃんと翼も出し入れできるようにしている。
ただし、ジニー自身には無理で、おれの着付けでアレンジしなければならないが。
今日は、防寒のために翼内包で着せている。
うん、可愛い!
更に魔狼の尻尾の皮で作った靴下だ。
指先が大きく余っているので、折り曲げて足首あたりを革ひもで軽く縛る。
ジニー、嫌がってないよな。
ゼナも毛皮だと魔狼でも大丈夫なようだ。
ジニー防寒計画は遂行された。
いざ、出発だ!
〈いざ、出発だ!〉
俺は、狼たちに号令をかけた。
広い沢沿いを下って行く狼たち。
俺はジニーを抱いて空を移動し、ゼナはマイペースで遅れながらついてくる。
ハイギンオオカミどもは居るかな?
もう移動しているという可能性もあるが、まだ居たわ。
川の合流地点の門前川寄りの位置。
待ち構え感、フル盛だね。
灰銀娘が前に出る。
そして、回り込んで、俺に迫ろうとする。
それを塞ぐように、まずジュンが俺の前に出る。
その後ろに他のニホンオオカミが割って入る。
前回、お前を地につけたのは俺だけど、まあ、その前にうちのジュンのリベンジに付き合ってくれないかい?
俺は後方で立ち止まっているゼナの位置まで下がって、様子を見ることにする。
おや、親二頭は後ずさりしている。
ゼナが視界に入ったからかな?
しかし、灰銀娘はお構いなしにやるようだ。
門前川上流からの風に乗せ、風の刃を放ってきた。
自然現象から、風魔法を使ってくるか、やるなあ。
複数、一斉にという訳ではないが、次から次に風の刃がジュンを襲う。
それを難なく避けながら、雪の無い地面に移動した瞬間、ジュンの体が地に潜り込む。
土を弾き飛ばしながら飛び出したジュンの体には土が纏われていた。
その土は、かなりの固さを持つようで、風の刃を弾き飛ばしている。
一直線に灰銀に迫るジュン。
灰銀は飛び上がり、風の足場を跳躍し、迂回してジュンに飛び込んでいく。
両者がぶつかる寸前、前面で土と風が破裂する。
互いに弾けるジュンと灰銀。
しかし、地に足を付ける瞬間を狙ってジュンが仕掛けた。
灰銀の足元の地面が大きく後ろに傾斜したのだ。
のけぞるような体制を強制された灰銀の首に飛び掛かり、牙を立てるジュン。
更に前足、後ろ足で相手を挟み込み、土魔法でも固定して、灰銀をがっちりホールドしている。
勝負ありかと思ったら、灰銀が魔法で抵抗し始めた。
灰銀は体に風を発生させて風圧でジュンを引き剥がすつもりのようだ。
その風は徐々に強くなり、刃まで含み、ジュンだけでなく灰銀娘の体まで傷付け始める。
ジュンが土魔法で抵抗し始めるが、風の渦はさらに強く二頭を覆っていく。
いかん、死合いになってる!
俺は授乳中のジニーを引き剥がして、ゼナに介入してもらおうとしたが、その時遅く、ジュンと灰銀が血しぶきを上げて弾け飛んだ。
ジュンの右前足が引きちぎられている。
灰銀娘は首から大量出血だが、意識はあるようなので動脈は損傷していないか。
俺は、引き剥がしかけたジニーをゼナに返して、ジュンに駆け寄るのではなく、飛んで行く。
ちぎれてボロボロになった前足を拾って、位置を確認しながらジュンにあてがう。
「ゲン! ニオ!」
〈灰銀娘を抑えろ〉
闘志むき出しでこちらに、迫ろうとする灰銀を二本狼の親二頭に抑えさせる。
〈二頭の大いなる傷と欠損を「女神の福音」で再生し給え〉
かつてない光に包まれ、視界が戻った時にはジュンの前足は元通りになっていた。
一息つきながら、灰銀娘を見ると、ゲンとニオを引き剥がして俺に向かってこようとしていた。
もちろん首の傷は治っている。
その灰銀娘を体当たりで弾き飛ばしたのは灰銀父で、弾け飛んだ後、押さえつけているのは灰銀母だった。
〈痛み分けでいいな?〉
灰銀たちに念話してみる。
ピクリと耳や顔をこちらに向けて反応している。
〈この狩場は双方が狩る。獲物が少ないときは争い、多いときは分かち合う。それでいいか?〉
「ヒューン」
灰銀父が鼻を鳴らして頭を下げる。
それで良いようだ。
〈多門川、あの川の上流は俺たちの縄張りだ。お前たちは近づかない。それでいいか?〉
「フユン」
また、灰銀父が鼻を鳴らして頭を下げる。
離れたところで灰銀母が、伏せて唸り声を上げている娘を抑えながら、マウント(物理)を取っている。
〈今日は俺たちは、これで帰る。狩場は任せる〉
ニホンオオカミたちは多門川の上流に戻り始める。
俺はゼナの歩調に合わせて、それに続く。
〈いいの? あいつら調子っくれてない?〉
念話で話しかけるのはタエ。
〈お前、ついてきてたの?〉
〈うん、ゼナの後ろで隠れてたの〉
悪びれずに、念話するタエ。
〈お前、そのボキャブラ、どこで拾ってきてるの?〉
〈お家、女神が落とす?〉
〈何してくれちゃってるのナビーネ?〉
〈まあ、私の意思を伝えてみたのですが、犬に信心を望むことは無理でしたね〉
〈声だけの神を信じ、崇拝することは出来なかったか〉
〈タエ、ザンザを信じてるよ?〉
ジュンが横から頭を擦り付けてくる。
〈ジュンも信じてるって〉
それは信心ではなく信用だな。
俺の祈りの対象や、福音を施す者をこいつらに伝承させることは難しそうだな。
ナビーネ教の未来は暗い。
ニホンオオカミ:シェパードやシベリアンハスキーよりやや大きい。
ハイギンオオカミ:セントバーナードよりやや大きく、体重はやや軽い。
ギンイヌとタテジマコヨーテの混血犬:ラブラドルレトリバーと同じくらい。




