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軍曹をナビーネ信徒に抱き込めたようだ

 朝起きて気になったから、『運』を確認。しかし、昨日まででポイントが八一〇か、どんだけイノキバと仲良くさせたいんだよ。

 そして、どんだけ仲良くなりたいんだよイノキバ。

 ムニム軍曹が四日後には訪問してきた。連れているのはキキとララというオークビッチだ。

「ささげーなんとかはいらねえ!」

「むむ、出会い頭に塩対応でありますな」

〈上手いこと言っても、塩ねえから〉

「今日は注文であります」

「ほう、なんだ?」

「その、石の台であります。受注は可能でありますか?」

「可能だ」

「納期はどのくらい掛かるものでありましょうか?」

〈製作自体は一時間もあれば出来るだろうが、石の選定が問題だ。切り出してるときに割れるものが多いんだ。運が良ければ一日に数台は作れる〉

「ほ、ほう、是非お願いしたいでありますが、交換物品は何が宜しいでしょうか?」

〈日用品で、鍋なんかある?〉

「あると思われますが、どの程度のもので?」

〈金属製で、蓋も金属で二五㎝から三〇㎝の直径で高さは二〇㎝程度かな〉

「キキ二等兵? ―――」

 部下に確認を取る軍曹。

「意に沿えるかどうか、とにかく持ってくるであります」

「じゃあ、今日、これで解散だね」

「ちょ、ここまで来て即、帰還は酷であります」

〈勝手に来たくせに。それとも、見返りでもあるのか?〉

「あるであります。これなど如何でありましょうか?」

 軍曹が背嚢から取り出した小さな包みには白っぽい粉が入っていた。摘まんで舐めてみると甘かった。

「砂糖か?」

「未だ、希少品ではありますが、トガー帝国との通商で値は落ちているのであります」

〈良かろう。魔狼の肉で良ければだが〉

 俺は石の焚火台で薪に火を付け、焼肉の準備を始めるため、奥屋に入った。

「ゼナ」

〈ゴート肉が欲しいのなら後で食いに来いよ。今は魔狼しか焼かないから〉

 と、ジニーと転がっているゼナに申し伝えてから、魔狼肉を石の盆に載せて外に出る。

「魔狼でありますか。どの程度の頻度で出るのでありますか?」

「秋から三度、昨日で四度か、狩った」

 嘘をついたのは、コッソリ亜空間から出した肉の鮮度が良すぎるからだ。

 今後は雪の中から凍らせた肉を出し、解凍するような演出が必要になるかも知れないな。

 先に二本狼たちに食わせて、オークたち用に胡椒を振った肉を焼く。

〈どうだ? 魔狼も胡椒を使えば結構イケると思うのだが〉

「確かにイケるでありますが、この塩の板の恩恵だと思うのであります」

〈褒めても、塩の板は・・・もう少ししたら何とかなるかもな〉

「本当でありますか?」

〈季節風が変わってきた。あのダウンバーストが無くなれば、作業が出来るかもしれない〉

 うっそぴょーん! もうストックしてるもんね。

「胡椒は用意しておくであります。何とかお願いするであります」

〈胡椒もいいが、綿織物とかでも良いな。糸と針と、あと糸切り用のハサミとかない?〉

「裁縫道具一式、軍用でよろしいか?」

〈揃ってるのに越したことは無いね〉

「必需品ゆえ、大量に要求されなければ問題なしであります」

〈ああ、これを渡しておこう。実は失念していたんだが、「板」を整える時にこれが出てたんだ〉

 俺は皮に包んだ塩の粉を取り出す。

「これは! 戴けるのでありますか?」

〈見せた以上、拒否はしねえよ〉

「ありがたく持ち帰らせていただくであります」

〈あとは日用品とか消耗品で持ち運べる程度あったらよろしくな。行商人扱いで悪いが〉

「とんでもないであります。その手のもので交間出来るのであれば、幸いであります」

〈ただし、訪問者が多いと肉を振舞うことは難しい、ということは弁えてくれよ〉

「こちらから持ち寄ることを心掛けるであります」

〈地元で食えよ。そのための焚火台だろ?〉

「ここで食うと、なんか旨いのでありますよ。早食いしてるのに」

〈褒めても塩は出ねえぞ。食ったら帰れ。黙って帰れ〉

「乳ぐらい捧げても良いでありましょう?」

〈んな暇があるなら、この糧に感謝して祈りを捧げとけよな〉

「ザンザ殿は神を信仰してるでありますか? 意外であります」

〈おおよ、信仰してるぜ。ナビーネっつうんだ。創造神だぜ。お前らだって、そいつに作られてんだぜ〉

「眉唾でありますなあ。我らイノキバは魔族でありますし、信仰があるとすれば、それは母体崇拝でありましょうな。健康、健全な母を敬い、そんな母になるべく精進するのであります」

〈いいんじゃね。母体をたどれば大元は創造神様だ。そのままちょっと先まで信仰してくれてりゃいいわ〉

「信仰と言っても何を祈願すればいいのでありましょうかな?」

〈そのままでいいんだよ。お前らの母の健康と健勝を願い感謝すれば〉

「はあ、それで何かご利益があるのでしょうか?」

〈あるぜ、あるある。女神ポイントっつーのがついてくる〉

「女神・・・のポイントでありますか?」

〈ポイントが一〇〇貯まれば『運』が一上がるってよ〉

「ホントでありますかあ?」

〈試しに一緒に祈ってみようぜ〉

「えええ? 何時間くらいでありますか?」

〈一分もかからねえんじゃね?〉

「はあ、まあ、それなら」

〈生まれの起源と種の存続に感謝します。ハイ復唱!〉

「〈生まれの起源と種の存続に感謝します〉」

〈ザンザに女神ポイントを一〇〇付与します〉

「な?」

「『な』ってザンザ殿だけ、付与されたでありますな?」

〈でも聞こえたんだ、ナビーネの念話〉

「あれが、神様でありますか?」

〈あと、軍曹にポイント行かなかったのは祈りのイメージが抽象的だったからかな? 母親の名前何つーんだ?〉

「母でありますか? 母の名はモナであります」

〈良い名じゃねえか。もっぺん行くぜ。母モナに生を賜ったことを感謝します〉

〈母モナに生を賜ったことを感謝します〉

〈ムニムよ、あなたを猪人シシビトに昇華し、女神ポイント一〇〇を付与します。初回につきポイント一〇〇〇をサービスします〉

「は、今のは何でありますか? 自分何か変わったでありますか? 猪人?」

〈あー、待てよ。鑑定してみるから〉


猪人のムニム(二〇歳)

状態 欲求不満の軍曹

LV 四八

HP 四〇〇

MP 四〇

強 二〇〇

速 三三(獣化時五〇)

賢 一〇〇

魔 三〇

耐 四〇〇

運 二〇

スキル

二種体術・危険探知・獣化

生魔法

女神ポイント一一〇〇


 俺は鑑定出来るようになったステータスを読み上げた。

〈イノキバオークじゃなくなってるなあ、軍曹〉

〈女神ポイントが一一〇〇になりました。ポイントを『運』に還元しますか?〉

ナビーネの念話が頭に響く。

「鑑定? ザンザ殿、鑑定持ちだったでありますか? ポイントを運に変えるって本当だったでありますか?」

〈うん、まあ、イノキバオークは魔物だから鑑定できなかったんだけどな〉

 実は准尉も鑑定出来るんだってことは、まだ黙っていよう。個人情報だからな。

「祈りが神に通じて、『猪人』になったまでは感動したであります。しかし、この行商人のたたき売り文句のようなポイントとかは何なのでありますか?」

〈だろ? 夜中に祈ると、やたらポイントが気になって眠気がなくなるんだよ。鬱陶しかったら、行商人みたくシカトしときゃいいから〉

〈ザンザってば、神聖なる神のポイントにケチつけないでよ〉

「ザンザ殿の信仰心が酷いであります! でもって神様の雑談ぽい念話が残念であります〉

〈だろ? 残念な女神様なんだよ〉

〈残念とは何よー! もー、起床と就寝、日に二度の御祈りしないとポイント付けないんだから!〉 

〈あーあ、自分で祈祷に制限かけちゃった。んなことしてたら日々、生活が苦しくなった時信仰心無くなっちゃうよ〉

〈分かったわよー、ポイント付けるから、ちゃんと暇が出来たら祈りなさいよね!〉

「暇なときに祈って、ポイント加算でありますか? 内職のような信仰でありますな」

〈そんなもんよ、でもって、マンネリ化すると低ポイントで停滞するから、偶に感動した時なんか祈りに載せときゃいいから〉

「絵日記のような祈祷でありますな」

〈そうそう、具体的にイメージしながら祈るのがコツだ。だからって、肉欲だけを祈願するんじゃねえぞ〉

〈かまいませんけど、ポイント低いです〉

「良いのでありますか? 男を手に入れる望みであれば無制限に祈り倒すことが出来そうであります」

〈何、力んで、決意を剝き出しにしてんだよ! そりゃ、祈りじゃなくて妄想だから!〉

〈ムニムよ。あなたの欲望は否定しません。しかし、妄想として閉じ込められた欲望は評価に値しません。願い叶えるために立てられた目標を評価し、努力し結果を感謝として祈り捧げた時にポイントとして更に評価するのです。次なる努力と行動の結果を助成するための『運』への還元なのです〉

〈ナビーネがまともなことを言っている〉

「意外なのであります」

〈せっかくポイントゲットのコツ教えてあげたのにー! 謙虚に受け止めなさいよ! 敬謙になりなさい敬謙に!〉

〈敬謙を要求する神って〉

「言ってることはまともだし、無茶な要求ではないので勿論信心するでありますが」

「〈なんか残念〉であります」

〈なんでー!〉

 ナビーネの念話の叫びを後に軍曹たちは撤収することになったのだが、そこで新たな問題が発生したのは軍曹が獣化した時だった。

「軍曹殿・・・」

「なんで白くなってるでありますか?」

 キキとララが獣化軍曹をガン見している。

「は?」

 軍曹が自分の前足を見て、絶句しいる。

「これは・・・どうなってるでありますか?」

〈どうなってるって、白くなってるよ、全身冬毛だよ、軍曹〉

 正確には頭と背はクリーム色で側面から腹にかけて下側が白だ。白銀の毛だ。

「どう、説明したらいいでありますか? 上司や部下に?」

〈まんまでいいんじゃねえか? 『宗旨替えしたら、毛が生え替わった』で〉

「し、しかし、目立つであります」

〈今なら外では目立たないと思うけど。春になって夏毛に生え変わることを祈ろうよ〉

「そんな『祈り』を強制するための冬毛でありますか?」

〈まあ、性欲の成就だけを祈るなってことだよ〉

「自分は全然信用されていない信者でありますな」

〈春になったら、信用されるように頑張りな。ところで、ポイントを運に還元しないのか?〉

「一〇〇ポイントで『運』一でありましたな。一〇〇〇ポイント還元でお願いするであります」

〈女神ポイント一〇〇〇を『運』一〇に還元します〉

〈おー、『運』三〇が四〇になってるねー〉

「全然変化なしでありますが?」

〈仕方ねえよ、運だからね。去年より悪いことなかったなーとか、良いことあったなーとか、そんな感じだろ〉

「一年で結果が出れば、なんぼかマシでありますかな?」

〈実感は出来るはずだ〉

「次、来た時塩とかあったら良いでありますな」

 それは鉄板だろうぜ。

〈そうだな。運が高い同志の取引だから期待できるんじゃないか。それこそ祈っとけ〉

「おお、期待できる神頼みでありますな」

 そんな言葉を締めくくりにして軍曹たちは帰っていった。

 軍曹の体毛が他の二頭より見え難くなくなるのは早かった。

 俺はゼナを呼んでゴート肉を焼くのだった。

 今日は聞き分け良かったな、お前。


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