発声練習は難有りのようだ
ナビーネ。
〈はい〉
俺は、あの転生の間で、竜人を選んだ。
〈はい〉
だが、このまま、ただの竜としてこの世界を生きていくのは有りなのか?
〈推奨出来かねますが、その生き方も有りです〉
俺は毛皮の上の内臓を、そのまま毛皮で包んで窓の外に放り捨てた。ウサギは肉食だったので、あれが腐ると屋内が激しく匂いそうだったからだ。
兄弟がギャーギャーとうるさい。
だからよー、あれは食えねぇって、水洗いできりゃ小腸から上は食えたかもしれないけどさ、生後の二食目には無理だって。兄弟に慰めの言葉をかけて声に出してみる。
「ジー……」
今、俺は生まれて初めて声を出した。
そして、とある不安が沸き上がる。
「ジー、ジー、ジア~、ジァ~」
あれ?
「ジァー、ザー、ザン、ザー」
あら?
「ザー、ジー、んー、ザー、ジョー」
実は、今、俺は『ザジズゼゾ』と発音しようとしたのだが、『ズ』と『ゼ』が言えなかった。 発音できなかった。
「ジョ、ゾー」
『ゾ』は無理すれば出せそうだ。
他、他は?
「アー、ザー、ザ~、ザー、ンアー、アー、ザー、ザー、ザー、ザー」
ア行『アカサタナハマヤラワ』はアとザとンしか出ない!
何という言語障害! これでは転生持越しの、せっかくのチート頭脳が生かしきれないではないか! チート披露出来ないではないか!
正直、竜が同胞の竜核を喰わなければ、竜人に成れないという事実よりもショックだった。だが、大丈夫だ。俺は、まだ、生まれたてだ。生後三日目だ。未来は十分にある。
顎を鍛えるのだ。
舌を活かすのだ! 活舌! 活舌!
喉を震わせるのだ。美声を出すのだ。
「ジィ~~、ザ~~!」
び、美声? 美声か? これ。
「じょうじ」
いや、火星のGじゃねえし‼
横で兄弟は俺の狼狽する様に、ひいてるし。
その日、俺のたゆまぬ努力の結果、『ジャ』の発音を新たに加えることが出来たのだった。