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幕間〈国境警備隊オーク傭兵団中隊本部営業所所長室〉

 国境警備隊オーク傭兵団中隊本部営業所に戻ったのは深夜になってからだった。我ら半夜行性というより、昼夜関係なく行動しても、睡眠を挟めばストレスにならないという便利な生活習慣なのだった。

「何考えてるのでありますか准尉殿!」

 自分が抗議しているのは、力技で交渉しようとしたネネ准尉の対応だ。

「『腕ずく』のことかね? 軍曹」

「相手が手練れであることは認識し合った筈であります」

「でも、会ってみると見た目小っちゃかったし、魔族かどうかも分からなかったし、ちょっと試したくなったんだよ」

「隊員の安全を脅かさないで欲しいであります」

「だから、最後に石三つ浮かせた時には謝っただろ?」

「それで止めてくれたから良かったようなものの」

「チャレンジャー精神は必要だと思うんだ、軍曹」

「相手が悪すぎるであります。年を考えて欲しいであります!」

「年のことは言わないでよー、どうせ、万年准尉なんだし」

「階級のことこそ、言わないで欲しいであります」

「ところでさー、この塩、どのくらい持つと思う?」

「前回のような生ハム作りなどしなければ1年持つのではありませんか?」

「えー、あれ、反対だった?」

「賛成したであります。一押しだったでありますが、作った後の残量を見て後悔したであります」

「まー、確かに調子乗っちゃったね。鹿肉もタイミング良かったし」

「まー。あれでザンザ殿の機嫌が戻ったのですから、良かったのではありませんか?」

「しかし、これは本隊には報告できんな」

 皮で包んだ塩の板を指先で突く准尉殿。

「バレたら、ザンザ殿と事を構えることになりかねないでありますか?」

「強制的に徴収などと言い出す奴は居らんだろうが、出入りの業者が絡むと面倒なことになりかねん。血眼で探してるからな」

「この国は海岸に面しているであります。海塩は取れないのでありますか?」

「勿論、海水からの精製は試みているらしいが、荒れてるんだってよ、海。海塩は穏やかな澄んだ海水じゃないと大変な手間がかかるらしい」

「ままならぬものでありますなあ」

「ところでさー、軍曹、この塩の板、潰しちゃうの勿体なくない?」

「それは、然りであります」

「あの、板焼き、又やってほしいよね」

「ここでもやりたいであります!」

「でさ、あの、石の台もすごくない?」

「然りであります!」

「極秘に調達を命ずる!」

「は、直ちに受注に向かうであります!」

「あー、国境警備のローテ―が一巡してからね」

「こんな時期に国境超える馬鹿は凍死でありますが?」

「しかし、こんな時期に警備できるのも我らだけなんだ」

「油断大敵でありますかな。ところで准尉殿、話は変わるのでありますが、ザンザ殿との話に出ていた獣化兵のことであります」

「元帥のことかね?」

「准尉殿の話では我らの世代から元帥が鍛えていたと言われましたが、自分は元帥をお見かけした記憶は無いのであります」

「あれは、言葉足らずだったな。正確には姫皇子様の教導だ」

「もしや、あの、シカネコ教官のことでありますか?」

「そうだったな、姫皇子様はここでは殆んど獣化状態であった」

「もうお一方、体術の教官もおられたと思いますが?」

「元帥の御子であらせられた。狙っていたのだが、いかんせん腕が立ち過ぎた。束になっても敵わなかった。夜は姫皇子様とご一緒でな。そこへの夜這いは命がけであった」

「お二方ご一緒の所へでありますか?」

「目の前に最良の子種がぶら下がっているのだぞ?」

「武勇伝でありますなあ」

「チャレンジせぬ手はあるまい?」

「その頃からのチャレンジ精神でありますか?」

「今は食欲の方だがな」

「「HAHAHAHAHAHA」」

 ひとしきり、笑いあった後、自分はあの牧場へのスケジュールを思案するのであった。



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