自己紹介は大切なようだ
朝起きたら、ジニーの機嫌が悪かった。
と言うか、ジニーにたたき起こされた。いや、蹴り起されたのか。
ゼナに寄り添って寝ていた俺を足で引き剥がしにかかってくるジニー。ゼナの毛を掴んで足で床に俺を押し転がそうとする。〇歳児のその体で!
おのれ、負けてなるものか! 俺はしっかとゼナの足に組み付いて引き剥がされまいと抵抗する。しかし、ジニーは膝の裏側関節から潜り込んで俺が支点にしていた手を引き剥がし、後ろ蹴りで俺を跳ね飛ばす。
ならば前脚から、と思ったら先回りされたよ! Gのような機動力でゼナの体を這い進んで俺の手を跳ねのけやがった。羽で跳ねのけやがったよ、こいつ!
重力魔法で自らの体重を軽減し指先でゼナの毛を掴み、腕の力だけで縦横無尽にゼナの体を動き回るのか。
ふっ、だが、ジニーよ、重力魔法なら俺にも一日の長がある。ゼナ本体を浮かせ、床から持ち上がったところをその下に潜り込む。回り込んでゼナの体の下からも俺を蹴りだそうとするジニー。しかし、俺は更に一周し、ジニーが上に回ったところでゼナの体を下ろして、ジニーの下からの移動を阻止する。反対周りから背盛ろうとするジニーに対し、俺はまたもゼナを浮かせて、右から左へ移動し、ゼナの体でシャットダウン。
しかし、ここでジニーまでがゼナに重力魔法をかけ、浮かしてきた。下から滑り出してきてドロップキックを放つジニーをスウェーバックで躱して、床を翼で弾いてゼナの体に飛び移る俺。
しかし、ここでゼナが体を起こした。と、言うより、浮いた体を四本足で固定した。俺に顔を向けて、
「クマッ」
って、吠える。
え、悪いの俺?
〈朝、いきなり蹴り入れてゼナベッドから叩き出そうとしたのジニーなんですけど〉
ゼナは俺の手足を鼻で嗅いだ。
「クマッ」
〈臭い?〉
ああ、ゆうべ、狼娘たちと犬のタエにしこたま舐められたなあ。今の俺って狼のマーキング状態?
「ジニー」
〈狼だって、ちゃんと狩りして貢献してるんだからさあ。俺も付き合いがあるんだよ〉しかし、こちらを向かないジニー。
ゼナは乳を舐め始めて、いつもの授乳態勢だ。ジニーは乳を飲み始めるので俺は竈に火を付ける。ここ数日ゼナは朝食の摂取量が少ないな。乳の出が悪くないから大丈夫なんだろうけど。それでも一㎏程のゴート肉を食べるゼナ。
外に出ると、今日は勢ぞろいしている狼たちと犬。狩りに出ないなら肉を出してやらないとな。俺は外でも火を焚き始める。
イノシシ、ゴート、ゴートの大腸の三種ずつだ。
「ゲン、ドレガスキ?」
先頭の父狼から好みを聞き取った結果、総じてイノシシの方が好みのようだ。ジュンだけは暫く迷っていたが、やはり猪肉を選んだ。アウトホーンゴートに思い入れがあったのだろう。
狼たちの餌やりが終わったので、俺は家の中に入る。ジニーが寝ていなかったので、マロンが作ってくれた簡単な防寒着を着せて外に出る。今度は嫌がったり抵抗はしなかった。
「ジニー」
〈狼たちに名前を付けたんだ〉
「セイレツ!」
セイレツはしていないが集まってくれる狼と犬。
「餌!」
行き成り言い放つジニー。
〈いや、餌じゃねえから。魔狼じゃねえからさ。一時期ずっと食べてたのは魔狼だから。こいつらは二本狼、ほら、角があるだろ?〉
しかし、ジニーは目ざとくタエを見つけて眼光を飛ばす。
〈そいつは犬! 雑種犬、ちょっと小さいだろ?〉
行き成り発言に引きかけた狼たちをとりなして紹介する。
「コイツ、ゲン」
俺も、言葉を使う練習をしないとな。
〈お父さん狼だ。エレトンと一緒だな〉
「コイツガ、ニオ」
〈お母さん狼だ。マロンと一緒だな〉
「コイツラ、ガント、グンテ、ゴンタ」
一頭ずつ頭を触って紹介してやる。
〈お兄さん狼、ガトーと一緒だな〉
「コイツラ、ジャンとジュン」
〈お姉さん狼、モニータと一緒だ〉
「コイツ、タエ」
〈狼とは家族じゃないんだ。でも仲良しだ。ジニーとモニータと一緒だ〉
「コノコガ、ジニー」
俺はジニーを重力魔法で浮かせて軽くしておいて狼たちの方へ向ける。
狼たちの反応は、吠えたり、脅したりしてなくて、頭を下げて尻尾フリフリしてるから、従順な態度と言えるだろう。
ただ、ゲンはジニーの匂いを嗅ぐと、さっと距離を取ったりする。まあ、思いっきりゼナの匂いが染みついてるからな。
〈タエと仲良く出来るんだ。この子とも仲良くしてやってくれ〉
まあ、顔合わせという訳だ。ジニーはまだ寒さに弱いため、ずっと外には出しておけないが、春になったら一緒に遊べるかもしれないからなあ。
とか、考えていたら、ジュンとタエが俺の脇で見上げている。何か訴えてるよな?
〈どうした? 餌、足りないか?〉
〈・・・・・・?〉
「うん?」
これはタエの念話か? 何か訊きたいようだ?
そして、俺を見ながら鼻を指すようなしぐさをするジュン。
〈・・・誰?〉
念話で伝えようとしているのはタエだな。
〈俺? ああ、俺か、名前か?〉
「ワン!」
そう言えばこいつらには名乗ってなかったな。
「オレハ、ザンザ」
俺は翼を広げて、アピールしながらもう一度名乗る。
「ザンザだ」
狼たちが遠吠えを始める。喜んでくれてるのはなぜだろう?
「ギアーアアアアアー」
おっとここでジニーも吠える。ってかこいつ、まだ竜の声出せたんだな。
狼たちは遠ぼえを止めて伏せてしまった。
〈ああ、大丈夫大丈夫、ジニーはお前たちの真似をしただけだからな。怒ってなんかないぞう〉
「なあ、ジニー」
俺はジニーを高い高いしてあやす。
おっと、これ以上はジニーを冷やしちゃいけないから、屋内に戻るか。




