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イノキバオークは軍属のようだ

毛皮の処理ばかりしてる最近の俺。

 いや、いいんですよ。この作業が無かったら、家の中でずっと引きこもってなけりゃならなかったから。それになんか、剝ぎ取りも上達してるのが、皮の処理してると分かるし、皮に肉や脂肪が付着してないよね、前々回の魔狼の処理以来。

 今やってるのは塩を落として、天日干しする工程。ホントは吊るして下に重しを引っかけて乾かすのだろうけど、売る予定もないし高度な革加工する技術もない。一,二回使って捨てるだけの、ある意味贅沢な用途だ。柵の横木に掛けて乾かすだけでいいだろう。

 狼の毛皮が三〇mの長さに並んだ時、音索敵に引っかかるものがあった。

 上流の道から下ってきたのは二頭のイノシシだった。俺の姿を認めると上流に戻る。そして大量の物音、地を樋爪が進む音と、豚の鳴き声だ。

〈あれは、イノキバオークです〉

〈はあ? 普通にイノシシに見えたけど?〉

〈それ以前に、敵意が無いのでアラートにしませんでしたけど〉

 一一頭のイノシシが現れ、一列に道ばたに並ぶ。なんか、統制された奴らだな、と思ったら四本足から二本足に立ちながら人化した。体だけ女人になりやがった。肩に何か革の鎧かけてるけどほぼ全裸だ。

「捧げ―、乳!」

 それは小学生の「かけっこよーい」に似ていた。手にひらを伸ばした状態で乳の下に手をやり、乳房を支えるポーズを一斉に決める。ずびっしぃと決める。なんだそりゃ! 全員スタイルがそこそこ良いのに腹が立つ。

 その前を、肉付きの良い個体が道を下りてくる。肉付きが良いのは胸と尻だ。メリハリのある細く見えるウエストにも腹が立つ。

 俺の前には既に二本狼が臨戦態勢だが、イノシシの顔にまつ毛はっきりとした目は気にした様子もなく前に立ち巨乳と言える乳に両手を添える。

「オーク傭兵団、獣化兵部隊、第二分隊隊長、ムニム軍曹でありますっ!」

〈むっちむちの二十歳だよ~、部下はぴっちぴちのティーンなのさ~〉

 軍属だったよこいつら!

「本日、こちらに参ったのは塩を所望する故にあります!」

〈男いない~? 人の男~? ついでだけど~〉

 一緒に聞こえるのは念話か? 心の声か? 本能か?

「あそこに干してある毛皮、塩で処理したものとお見受けします。品質問わないので分けて頂きたいのであります」

〈対価は払うよ~ もちろん、か・ら・だ・でぇ~〉

 なるほど、確かにオークビッチかナスティだ。

「対価は、労働、および警邏であります」

〈肉体で奉仕だよ~ 見回っちゃうよ全部全部ぅ~〉

〈おい、お前の念話だか、本音だか? 駄々洩れだぞ〉

「〈へ、あ、ほ、本音?〉」

〈口を閉じて、頭で話せ〉

〈いや~ん、頭の中の声ッ、聞かれてた! 恥ずかすぃ~ん〉

〈無駄に思考を伝えるな! 塩はある。対価は情報だ。その前に、あのオークビッチどもをイノシシに戻せ〉

〈戻せとは失礼な! 獣化は山野を掛けるための仮の姿であります〉

〈頭の中も軍隊調になったな。それを続けろ。お前たち、分隊と言ったな? 本隊はどのくらい離れたところにある? 方向は言わんでいい〉

〈我らの本隊は傭兵業を請け負う営業所でもあります。故に場所の開示は問題ありません。ここより南西五〇㎞先、トドロキ連峰を超えた国境沿いのクダスギ村であります〉

〈訪問営業か? それよかいいのか? あいつら寒そうだぞ?〉

〈ふむ、確かに寒そうでありますな。最近のビッチは肉と脂肪が足りないのであります。嘆かわしいのであります。もっと若いうちからナスティを目指すべきなのです。若い男がいかんであります。軟弱者ばかり相手にするであります〉

「デスミス! 獣化を許可! 狼殿とは距離をとれ!」

「「サー、イエッサー、マム!」」

 無駄に声をそろえるビッチたち。

 イノシシになった獣化兵は散開ではなく、逆に体を寄せ合って密集した。それを見た軍曹殿はため息をついて話を続けた。

〈して、他に知りたい情報とは、何でありますか?〉

〈待て〉

 俺は亜空間収納を見られたくはないので一度家に入った。ゼナは起きて伏せている。

〈オークが外にいるけど、襲うなよ。少なくとも今は敵じゃないから〉

 狼の皮を二つ折りにして肩から風呂敷包みのように肩掛けにして、そこに何か入っているかのように見せかける。更に塩の板を持って外に出て、今日作った竈の上に置く。消えかけの薪と墨を竈の外にずらし薪を追加する。

〈俺は寒さに弱いんだ。さっき軍曹殿が言ったトドロキ連峰とかクダスギ村は他の種族にも通じる共通認 識の固有名詞なんだよな?〉

〈いかにもであります〉

〈ここが現在地の牧場として、南西にトドロキ連峰・・・〉

 俺は消し炭で塩の板の上に簡単な地形と地名を書いていく。

〈五〇㎞先にクダスギ村、国境だったな? どの方向だ?〉

〈南西であります〉

〈国境警備でもやってるのか?〉

〈いかにもであります〉

〈てことは、ここは何て国だ?〉

〈ガイラバルトであります〉

〈で、国境の向こうは?〉

〈トガー帝国であります〉

〈この国は王国とか共和国とかケツにそんなの付かないの?〉

〈保留中と思われます。旧ティーマー帝国から現ガイラバルトに変わるにあたり、共和国にするか、王国にするか、公国にするか、未だまとまりそうにありません〉

〈つまり、この国はごたついてると?〉

〈ごたついているのは上層だけであります。かつてと違い、帝国との関係も改善され、庶民の暮らしも安定してるであります。我らのような亜人も市民権こそ得ておりませんが、傭兵家業を生業出来るようになったであります。王家や公家のおかげなのであります〉

 亜人か。人族と魔物とどう違うのか? 鑑定は出来なかった。

 魔物に分類される種族のようだが、念話する限りでは知的レベルも高いし、好戦的でもない、軍属なのに。

〈ちょっと待て〉

 俺は柵に干していた広めな狼の皮を一枚とってきて二つ折りにして地面に敷いた。

〈まあ、座れよ〉

 オークナスティのムニム軍曹はそれまで直立不動だったのだ。

〈かたじけないであります〉

 軍曹は体育座りと胡坐の中間のような座り方をした。固そうな股関節だった。

〈首都、と言うか都はここからどの方向にどれくらいの位置なんだ?〉

〈新都は南東いや南南東に二〇〇㎞程のところに在るであります〉

〈新都? ってことは旧都もあるのか?〉

〈旧都は、壊滅とも消滅したとも言われているであります〉

〈何だ? めちゃくちゃ荒れてるじゃねえかこの国〉

〈確かに激動の戦乱時代でありましたが、今は平穏を取り戻してガイラバルトもトガーも建て直し中で、我らのような亜人も食いっパグレは無いのであります〉

〈戦乱がこちらに及ばないなら問題ないか〉

〈問題は、おかげで塩がこの地方まで回らなくなったことであります。胡椒があっても塩が無ければ口がひりひりするだけの不味い料理しか作れないであります〉

〈胡椒があるのか? 持ってきてる?〉

〈今は手持ちは無いのであります〉

〈今までの話、よそ者の俺には初耳だが、この国の住人では常識なんだよな?〉

〈むむ、その勿体ぶった素振りは何なのでありますか?〉

〈まあ、このくらいの量ってことだ〉

 俺が狼の皮の隙間から取り出したように見せたのは最初に板状にして作ったものの焚火の熱で割れてしまった岩塩だった。

〈そ、それは岩塩でありますか?〉

〈ああ、岩塩を薄切りにしたものだ。こいつもな〉

 俺は目の前にある塩の板の上の消し炭で書かれた地図を狼の尻尾の毛ではたいて綺麗にしてから、小さいほうの板を乗せた。

〈これほど整った塩の塊は見たことないであります!〉

〈でかい方はやらねえぞ〉

〈えええ~、うちは大所帯なのであります! たくさん欲しいのであります〉

〈たくさん持ってないんだから(嘘)しょうがないだろう。胡椒でもあれば使う量が減るから分けてあげてもいいかもね〉

〈おおっ、塩胡椒交換、貿易交渉の基本でありますな! 胡椒を持ってくるであります。一月待って欲しいであります〉

〈待っててやるけど、あんまり大勢引き連れてくるなよ。中にいる奴が怒る〉

〈中にいるのは熊でありますか?〉

〈判るのか? 匂うかな?〉

〈鼻は利くのであります。子育て中の熊には近寄りたくなないでありますな〉

〈ほお、子のにおいまで判るか〉

〈判るであります。わかるで・あり・ま・ス〉

〈ど、どうした?〉

〈いや、その、念話をしたのは初めてで、ちょ、頭、が〉

〈ああ、口で話していいから、いや、黙ってても別に構わん〉

 脳内の糖分か酸素が足りなくなったか?

 丁度、夕食準備の時間だ。今日は一次的にエレトン家の薪を借りよう。いつもの薪は収納の中だからな。

 火が焚火台の下で安定してきたら、肉を家内に取りに行くふりをする。狼肉、そして豚の大腸だ。

〈イノシシの大腸だ。抵抗はあるか?〉

「肉は食べるでありますが、大腸でありますか?」

 軍曹は声で聴いてきた。

〈火を通せば問題なかろう。ダメなら、狼肉でも食ってろ。腸は二本狼が食う〉

 俺は焼けてコロコロしてきた大腸を狼の牡親に与える。亜空間から出した大腸は糞は綺麗に除去されているからか反応は良いようだ。

〈悪いがお前たちは狼の後だ。うちの狩人は順番にうるさいのでな〉

 早く食べないと、次が後回しになるので、雪の上で冷やして食べることを覚えた狼たちだった。

 大腸が無くなりかけて小腸を家に戻って取り出そうとしたら、ゼナが出てきた。

 オークたちの順番は、まだ後回しのようだ。


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