兄弟と俺を比べてみよう
別の検証、いや、観察もしてみるか。
兄弟の顔、いや、頭部。眼球から頸椎まで距離がある。つまり頭骨内の脳の比率は蜥蜴や鳥よりも大きいようだ。最も絶対量は猫並みだが。
脛骨と周囲の筋肉は頑丈で生まれながらに安定している。つまり、高い知性を持つ伸び代を期待するだけの素養があるということだ。
腕は人種並みに発達している。生まれながらに器用につかむことが出来るのは俺も兄弟も同様のようだ。
胸は人と同じ形状で筋肉も普通だ。胸骨も鳥類の強大な大胸筋を支えるような長大な形はしていない。それでは翼はどうなっているのかといえば、と兄弟の背中を見てみると、肩甲骨が脊椎寄りに発達しているようだ。そこにやや太めの上腕骨、手羽元が伸びており、僧帽筋だが菱形筋高が独自の発達をして支えているようだ。
兄弟の肩甲骨はどうやら一対ではなく、一段下にもう一対あり、副翼をささえているようだ。三対の副翼がある俺の肩甲骨はどうなっているのか? 謎である。
俺は翼を広げてみた。兄弟が明らかに怯む。
翼で羽ばたいてみる。兄弟が鳴き声を上げる。俺は構わず羽ばたきを続ける。翼は軽い、そして骨格部は頑強だ。被膜は厚みがありそうなのに軽い。エアマットにカーボン製の釣竿を突っ込んで前後に反復しているような感触だ。
そうして分かったことは、立ったままでは揚力を得ることはできないということだ。うつぶせるか、前景状態が、飛行姿勢になるわけだ。
俺は翼をたたむことにした。広い視界で、背中を見ながら、先端から織り込んでいく。鳥の翼というより、カブトムシ、甲虫の後ろ羽だな。
そして、翼をたたんでみるといやでも目に付くのはしっぽだ。尾だ。太くて長いな。まあ、爬虫類の尾だ。背骨の延長だ。
と、いうわけで背を伸ばす感覚でしっぽを持ち上げて(持ってはいない)みる。自立で先端が上を向き、次いで背中に向けて、地から離れる。一度、地に下ろして、次は基部から持ち上げ、うねるように先端を振り上げる。思いのほか自由に動く(縦方向限定)を実感する。
横方向に動かしてみる。固いな。動きが硬い。腰を回しながら振り回してみる。体勢を変えながら振ってみる。
分かったことは、上にそらした状態では横に動かしにくく、下に垂らした状態だと横方向が柔軟に動くということだ。
と、いうわけで、上に全力持ち上げて下に振りながら腰を回転させる! ビュオッと風切り音を出してしっぽが俺の前を横切る。
俺は物理攻撃手段を手に入れた!
しかし、しっぽの長さは一メートル程度、猫や子犬程度でなければ、ダメージになるまい。大型犬や豚が怯む程度だろう。
俺の体の検証はこのぐらいにしておこう。
と、いうわけで、兄弟を見てみよう。
頭部は鼻、口先は蜥蜴というより細顔の犬、シェパードかドーベルマン、いや、耳が角になったジャッカルが近いか、ただし顎、開口は大きく、目の位置より後方寄りだ。まあ、俺よりハンサムなのだろう。
そして、首が太い。長さは俺と変わらない二〇センチ程度なのだが、太首のせいで格好よくみえる。
体形は俺とほとんど変わらない。暗い部屋なのでハッキリとは判らないが、色は微妙に俺とは違うようだ。
俺は兄弟の真正面から近づいてみる。兄弟は身構えるが今までのように怯えてはいないし、鳴き声を上げるそぶりも見せなかった。
俺は翼を広げてみる。さすがに、兄弟は首と頭を後ろに引いて歯をむき出しにする。犬歯が切歯二対の次に生えているのは人と変わらない。ただ、歯の数は人の一.五倍以上ありそうだ。
それよりも兄弟の翼が見たかった。俺は兄弟の前で翼を広げたり閉じたりを繰り返す。兄弟も何か感じたらしく、ようやっと、翼を広げて見せた。俺は翼で羽ばたいて見せる。兄弟も翼を動かすが、俺のように羽ばたいているとは言い難い。
まあ、生まれたばかりなのだから、自分が飛行できるという概念が無い為だろう。
俺は、翼を閉じた。兄弟も翼を閉じる。俺は兄弟の顔に手を伸ばした。兄弟は顔をのけぞって警戒する。俺は兄弟の首の前、喉になるのだろうな、鱗に沿って撫でてみる。兄弟は嫌がってはいない。
まあ、コミュニケーションはこんなところでいいだろう。