エレトンたちがピンチのようだ
翌朝、外に出てみると一面霜が降りていた。初めて体験する冷気だった。暖房もない奥屋だが、外に比べれば、まだ暖かいものだなあ。
ともかくやるべきことは焚火だ。朝食は焼肉だ。オオヤマカモシカの肉はやっと半分無くなった。ゼナはここで冬眠するのだろうが、体に体脂肪をため込んでおかないといけない筈だ。このオオヤマカモシカの肉、あまり脂肪分が多くないようなのだが大丈夫であろうか。
授乳の終わったゼナが外に出てくる。ジニーも背中に乗って出て来るが、変な顔をしている。ああやっぱりこの寒さを感じているようなのだなあ。俺は焼けた順に肉を与える。ジニーも肉をひと切れ口にする。固くて弾力のあるオオヤマカモシカは良いおしゃぶりになるようだが、涎垂れまくりになるのが見た目に良くないよね。まあ、丸吞みにするよりはマシか。
ナビーネとの念話によると、エレトン一家は昨日で二〇㎞程進んだようだ。
オークの群れは一旦散開したようで一安心。
天候はまだ雪にはならないようだ。
ゼナは食後しばらく二度寝して、起きた時には日は高くなっていた。今日も川に向かうのはマスを狙うのかな?
しかし、昨日のような元気なマスを見つけることは出来ず、川を上って探していくと、瀕死のマスが流れて落ちてきた。
ゼナが咥えて食べるが、食べたのは一匹だけで次に流れてきたマスには手を付けなかった。俺は食べなかったが、産卵後に力尽きたマス、味がガタ落ちだったのは間違いないだろう。
ゼナは納得したのか、家の方向に戻っていった。
リビングで横になっているゼナをよそに、俺は大量にある狼の皮を処理することにする。
確か、まずは塩漬けにするのだったか。亜空間から取り出した革には肉と脂肪がへばり付いているので毛のない裏側に塩を刷り込む。刷り込んでどこに置こうか? 俺は狼程度の大きさの岩を見つけて、横に切る。切った上の部分は亜空間に収納、塩漬けした革はつるつるの岩の上に重ねていく。これで肉のない革は全部塩処理できたことになる。
雨除け兼押さえで亜空間の石を革の上に載せる・・・どれくらいこうしておけばいいのだろうか? この後付着した塩を洗い流して、肉と脂肪をそぎ落とすのだったな。だから一晩でいいだろう。
俺はしばしの休憩をはさみ、夕飯に作りに取り掛かった。
翌朝、雪は降っていない。霜は昨日と同様、濃く降りた状態だ。そして寒い。奥屋の中も寒いのは、ずっと竈に火を入れていないせいだろう。
エレトン家の竈はピザ用の石窯に近い。石と粘土で四角に積み上げて外に煙突で排気するタイプだ。竈の中に直接鍋を入れて、沸かして、取り出したら、竈の上で保温、そういう使い方をしていたな。
今日はこの竈を使ってみよう。
枯れた針葉樹の葉は良く燃えるので着火に使い、薪にした枝や幹を足していく。太い薪に何個か火が付いたら、奥にずらして、塩の板を手前に置いて、さらに竈を過熱し熱しきったら肉を焼く。かかる時間は外に焚火よりやや短いかな。
ゼナもジニーもまだ寝ている。昨日から、起きだす時間が遅いな。
俺は焼いたオオヤマカモシカの肉を収納していく。ジニーが起きるのと同時にゼナも起きて、授乳開始のようだ。俺もゆっくりと肉を食べ始める。
ゼナが来たので、肉を追加で焼く。竈の中の火は小さくなったので、焼肉は中止するが、ゼナはまだ食べたそうだ。分かってる、ほれ、俺は収納から冷めていない肉を取り出してゼナに与える。
最後に風魔法で竈に風を送って、灰を煙突から強制排気。後で煙突の外周が真っ黒になった屋根を発見してしまうことになる。もともとあった煤が一緒に出てしまったのだなあ。
そんなマッタリ感はナビーネの緊急アラートで中断されてしまう。
〈オークがエレトンたちを追い始めました〉
〈エレトンたちは気づいているのか?〉
〈まだ気づいていません。ブタバナオークは集まりながら徐々に後方から接近しています〉
「ゼナ」
〈ここにいてジニーを見ていてくれ。俺はまた出かける。今日は時間がかかるかも知れない〉
〈ナビーネ、エレトンの位置は?〉
〈南南東七〇㎞の草原です〉
〈オークの位置は?〉
〈同じく六〇㎞の位置です〉
俺は確認しながら離陸する。先ずは周囲の山より高い位置に飛び上がり、南南東に向けて一〇㎞、次いで二〇㎞を二回、計五〇㎞の位置に空間移動する。
〈あなたの位置が東にずれました。しかし、後方で合流しようとするオークが見える位置です〉
ナビーネが補正してくれる。俯瞰してみると五、六㎞先に南に移動する者が見える。手には槍を持っているのが三頭か。
〈こいつらが最後尾か?〉
〈はい〉
俺は眼下のオークの真上に位置づけし、空間切断を地表一mの位置で使った。オーク三頭は分断されながら地面に転がる。その死骸の回収は後回しだ。
俺は音索敵で南西方向に縦に連なるオーク集団をキャッチする。その真後ろに移動してオークの五人集団を一閃する。
更に前の集団は先頭が横に五頭、縦に八頭がT字型に並んでエレトンに迫っていた。
俺は、オーク集団の先頭に飛行で回り込み、風魔法をエレトンとオークの間に発動させる。仮性姉が使っていた縦に長い横ロールの風魔法だ。車輪のように風の輪がエレトンとオークの間を通り抜ける。俺はその隙に空間切断魔法の座標をT字型のオークの編隊を囲むように設定して発動する。オーク等の体がはじけ飛ぶ。
エレトンたちからは風魔法が通り過ぎた後にオークが倒されたように見えただろう。
俺はエレトンたちの上を飛び、モニータに〈南に逃げろ〉と念話で伝える。
モニータが南を指で示してマロンに伝えているようだ。マロンは弓を持っていたな。弓スキルなんか持ってなかったけど、使えるのか?
南へと急ぐエレトン達とは逆に俺は北側に散らばったオークの体を回収していく。どれもこれも貧相な体をした魔物だった。先頭にいたオークだけは肉付きが良かったが、それでも腕と膝に多少肉がついている程度だった。回収したブタバナオークは二一頭、一度に仕留めた数は過去最高だったな。
と、言う訳で確認してみるかステータス。
ザンザ・ガンガ(零歳)
LV 三七
人種 竜人
状態 ラウドズライグ
HP 二一〇
MP 三三四(三六〇)
強 六五
速 一一〇
賢 二一〇
魔 二八〇
耐 六〇
運 六一
スキル
強発声・強化爪・鑑定眼・ふりおろしっぽ・音索敵
空間魔法・重力魔法・風魔法・火魔法・土魔法
二一頭倒してレベルが二しか上がらねえってよ!
まあ、この後魔真珠食ってみねえとホントのレベルは分かんないけどさ。
しょぼいなブタバナオーク、二度と来るな!
俺は倒したオークを回収しながら北に移動した。
その後、多門川には戻らず二頭の牡熊に遭遇した谷を登って行った。
暫く谷を飛んで上ると、子連れの牝熊を見つけた。
ミカヅキグマ(七歳)
状態 育成中の熊の里の牡序列五位
LV 五
HP 七七
MP 〇
強 一〇〇
速 三〇
賢 一〇
魔 〇
耐 一八〇
運 九
スキル
爪・犬歯
ミカヅキグマ(〇歳)
状態 熊の里の子熊序列七位
LV 二
HP 二五
MP 〇
強 三〇
速 一四
賢 五
魔 〇
耐 四一
運 一〇
スキル
――――
ゼナ以外の牝熊は初めてだな。俺は熊の目の前にオークの下半身を置いてみる。若い母熊は興味を持っているようだ。俺は熊から距離を取って離れてみる。
熊はオークの下半身を咥えて、引き摺り、奥へと持っていく。
俺はここにオークの死骸を投棄することにする。序列の数値を見る限り、熊は一七頭以上いるようだ。冬前の良い滋養になるはずだ。
オークは殆んどが体を横から二等分されている。上半身からは魔真珠を抜いていくことを忘れない。ある程度距離をとって、ばらけて置いておこう。固めておくと一頭だけが独占するかも知れないからな。
熊の谷の様子も見たいが、ゼナたちが心配したらいけないから、もう帰ろう。
俺は南に向かって山を越え、家に向かった。




