ジニーは別れを実感したようだ
翌朝一番に起きたのはモニータだった。
俺は、ちょうど焚火をしに外に出るところだった。アシナガバンを焼くためだ。
モニータは俺の焚火の横に石を置いて座る。地面はまだ湿っぽいからだ。
「夏になったらどこ行くの?」
〈南かな?〉
「じゃあ、今日一緒に行こうよ」
〈人のいない南だよ。海があって島があって大陸があるかも知れない〉
「え、海? 島? 大陸? そんなとこに行って何するの?」
〈見に行くだけさ〉
「見に行くだけ? バッカみたい!」
〈うん、ホントは俺、馬鹿なんだよ〉
「ザンザは馬鹿じゃないよ! 賢いよ! 何でバカみたいなこと言うの?」
〈まだ、零歳だからだよ〉
「まだ零歳だから? 嘘、ザンザ大きいじゃない?」
〈脱皮したからさ、一気に大きくなったの〉
「脱皮? 脱皮ってなに?」
〈体の皮を脱いで大きくなるんだ。トカゲと一緒だよ〉
「トカゲって、蛇と一緒?」
〈足のあるか無いかの違い〉
そんな他愛もない話(聞き耳を立てていたマロンには衝撃の事実)をしていたらゼナが外に出てきた。
「ゼナ」
〈そら、焼けてるぞ。水鳥だ〉
まだ、半焼けだがゼナには丁度いいだろう。文句を言わず? 骨ごと砕きながら咀嚼するゼナ。
「チョイと来とくれ、ザンザ」
食卓に皿を並べてマロンが竈の前にいた。
「あたしたちゃ今日ここを発つ。この鍋は置いとくから今日中に食っといとくれ」
俺は頷いた。
「ジニーの着替えは作っといたから、たまには洗濯するんだよ」
マロンはそう言いながらジニーを見て続ける。
「まあ、元気な子だから大丈夫だろうけど、調子を崩したらベッドは使っていいからね」
まあ、人の子では考えられない扱いでも、平気にしてるからなジニー。
「裏の畑のカブは食べてもいいけど、四本は残しといとくれ」
種を取るために置いとくんだね、はい。
「あとは、魔狼に、でっかい猪や、石を飛ばしてくる悪い山羊や、貧相なオークが来るかも知れないけど、あんたとゼナなら大丈夫だろ」
イノシシ以外は狩ったことあります。
「じゃあ、春にまた会おう」
そんなことをマロンから聞いている間、ジニーはモニータに色々薫陶を受けていた。
エレトンとガトーはすでに準備の出来た旅姿で朝食をとり、すぐに山羊の柵に向かう。山羊に荷を括り付けているようだが、毛皮をロール状にした軽い物だけだった。
モニータ以外は互いに荷を背負い、旅の準備はいいのかな?
「世話になったな、家を頼む」
エレトンが俺に跪いて出発の挨拶をしてくれる。 俺も少し膝を曲げて頭をさげ、了承の意を伝える。
一家の先頭はマロンとモニータで、二班の山羊をエレトンとガトーが率い、歩き始める。
モニータがこちらに向かって手を振るので、俺は片羽を上げて返礼する。
一家が見えなくなると、ジニーが飛んで追いかけようとし始めた。
今頃、これが分かれと気づいたのか、いや、実感したのだろうなジニー。
俺は、飛び立ちながらジニーを後ろから抱き抱えて、一行を追いかけた。
直ぐに追いつき、マロンたちの前方でUターンする。
「モニータ! モニータ!」
ジニーが人の名を呼ぶのは初めてではなかろうか。
「ジーニー!」
モニータが叫んでいる。
「ジニー」
〈また春には会える。挨拶はここまでだ〉
俺はジニーの名を呼ぶモニータとすれ違って、また家に戻ると、家の前でゼナが迎えてくれたのだった。
ゼナにしがみついたジニーは今度はモニータたちを追いかけようとはしなかった。




