モニータとジニーはお勉強でザンザは山に芝刈りに
ゼナは家の壁にもたれて寝ていた。いや、目は開けているので横たわっているだけか。
俺たちが家に入っても、動こうとはしない。たまには一日中だらけててもいいよね、ゼナ。
家に入ると、マロンは何か板のようなものをテーブルに置いた。書いているのは数字と、アルファベットか? 転生特典なのか俺にも読める。
モニータがテーブルに座り、その板の数字から読み上げていく。
ああ、これから、お勉強の時間なのね。俺はジニーをテーブルに座らせて一緒にその板を眺める。
「ZINII」
ジニーを見ながら声を出して文字を指さすモニータ。は? ローマ字綴りなの? この世界。
「ZANZA」
そう言えば、多門川とか門前川とか明らかな和名があったけど、そういう世界なのか?
言語の綴りをしばらく勉強して、次は数字を自習し始めるモニータ。
「一足す一は二、一足す二は三、・・・・・・」
三 足す六あたりから分からなくなってきたのか、モニータは部屋の隅から袋を持ってきて小石を並べ始める。しかし、小石はテーブルが揺れると位置が動いてしまうし、あまつさえ、興味を持ったジニーが小石を摘まんだり落としたりし始める。悪いことにモニータもジニーの手遊びに付き合い始める。
俺は外に出て、一抱え程度の石を見つける。安山岩かな? 別の岩の上に載せ、空間魔法で切断。三面を切って正三角柱を作る。三角好きだな、俺。まあ、一定の長さ角度大きさは三角柱とかが決めやすいのだ。そして、その三角柱を輪切りにしていく。一辺二センチの正三角形、厚み三㎜から四㎜の小石、一〇〇個もあればいいか。座標を決めて一個一個切断すると正確なのだが、その度にMP三持っていかれるのだ。だから空間面の辺に沿って石柱を這わせ切断していく。終わりの五〇個ほどは、かなり正確に切れたのではなかろうか。
家内に戻ると、算数の自習は石の弾き合いの遊びに変わっていた。いいのかマロン、注意しなくて。
俺は不揃いの小石を取り上げ、袋に戻し、三角の石のおはじきを机に並べる。石を取り上げられて、抗議をしようとした二人は替りのアイテムを見て、手に取って見ている。
「ジニー」
〈食うなよ〉
俺は、おはじきを縦に一〇個積み上げ、すぐ横に一個置く。
教育用の板を立てかけて念話で伝える。
〈一一だ〉
「じゅういち?」
〈一〇個と一つだ。一と一が並ぶんだ〉
「指は一〇本しかないんだよ?」
〈裏の山羊は何頭いる?〉
「九頭と一〇頭」
俺はおはじきを九と一〇並べる。
〈柵の中の山羊は九と一〇だな? じゃあ、真ん中の柵が無くなったら?〉
「たくさん・・・」
〈一九頭だ〉
「いっしょだと、じゅうきゅー?」
〈そうだ、じゃあ、こちらの牝が一頭隣に行ったら?〉
「一〇とお、一〇とお」
〈ここにある〉
俺は最初に置いたおはじきを指す。
「一一と・・・八!」
〈そうだ、簡単だろ?〉
「山羊は動いて数えにくいんだよ!」
〈おはじきは動かない〉
俺はおおよその二桁の数字の扱いを教えて、今度は袋の小石から同じ大きさ、形のものを三つ選んで、石当てゲームで遊んだ。石を転がして隣の相手の石に充てると手持ちのおはじきをゲットできるゲームだ。
驚いたことにジニーがゲームのルールについてきていることだ。指で弾くのではなく手の平で転がすのだが、狙いも正確だ。おはじきのゲットも抜かりない。ジニー恐ろしい子。
「すごい・・・全部同じ大きさ形だわ」
マロンが正三角形のおはじきを手に取りながらつぶやいている。
ジニーがウトウトし始めたのでゲームは切り上げ、昼寝タイムに入る。いや、授乳タイムに入るため、ゼナのところにジニーを連れて行く。ゼナは家の壁越しで動くつもりはないようだ。
マロンの家では昼飯を食う習慣はないようで、モニータはずっと飽きずにジニーが乳を飲む様子を見ている。
〈モニータ、俺は山に行ってくる〉
「狩に行くの?」
〈獲物がいれば狩るが、薪を取りに行くんだ〉
「薪ならいっぱいあるよ」
〈あれを俺たちが使ったら、お前たちの分が無くなってしまう〉
「そっかあ、わかった」
ジニーにも伝えようかと思ったが、ゼナのそばですっかり寝ているのでそのままにしておいた。
「ゼナ」
〈ジニーを頼んだぞ〉
俺は、立ち上がって数歩進んで、羽ばたいた。重力魔法なしだが、宙に体は浮く。重力魔法の補助なしだと、羽ばたきに上下の反動がついて、無駄に運動してしまう。何より上昇能力が大幅に落ちる。腰の副翼を使ってやっと「上昇角度」が取れる感じだ。
重力魔法の有無はともかく毎日飛行訓練しないと、色々ダメになりそうだなあ。
俺の目的地は門前川沿いの混交林だ。針葉樹と広葉樹が混ざっているが、広葉樹に押されて針葉樹が減りつつある。まあ、その枯れかけの針葉樹が目的なのだ。三本ほど手ごろな大きさの木を亜空間に回収して川に出る。下流に向かって飛び、合流地から多門川を上ろうとすると川面に影を発見する。
水鳥だ。初めて見る。
座標の特定できる位置まで林の中から近寄り、水面に座標を指定し空間切断を使いかけて思いとどまる。全部殺しちゃダメだよな。俺は数羽だけ射程に入れ直して切断。水鳥の首が飛び、残りの半分以上が飛び立って逃げる。俺は四羽の水鳥を回収する。黒い鴨のようだが、飛ばした頭のくちばしはアヒル口ではなく尖っている。
鑑定!
アシナガバン
南へ渡る途中のクイナ科(偽物としてカラスが使われることがあり、首のない個体は売り物にならない。本物は美味)
俺は急いで首も回収する。売るわけじゃないけど。
亜空間の中は鮮度が落ちるわけではないが、夕飯前に処理も必要だろう。俺は帰路を急いだ。
家に戻ると、まだエレトンたちは戻っていなかった。
マロンにアシナガバンを差し出す。
「何狩って来てるんだい? カラス?」
俺は頭を取り出す。
「こ、こりゃあ、バンかい? 警戒心の強い鳥なのに・・・」
あとの三羽も見せると、マロンが慌て始める。
「ちょいと待っとくれ、もう、空いてる鍋がないんだよ。そのまま、しまっといてくれないかい? 羽を取る暇もないしねえ。ホントは腸を抜いて吊るして血抜きをしないといけないんだろうけど、その中ならずっとそのままなんだろ?」
おれは、鳥を収納に戻した。
「あんた、すごいねえ。水鳥なんて一日一人一羽狩れりゃあ、一流なんだ。四羽なんてどうやったんだい? いや、聞かないでおくよ、うん」
マロンは台所の竈で鍋を温めていた。野菜と肉とシチューの三つだ。それで全部なのだろう。
「モニータがはしゃいじゃってねえ。あんなに楽しそうにしてるのは久しぶりさ。あんなに丈夫な赤ん坊は人の子には、いやしないからねえ。ところで、あのおはじき貰っていいのかい?」
俺は首を縦に振る。まあ、確かに歩いて宙に浮く零歳児は稀有だろう。
「すまないねえ、売れば高くなりそうだけど」
今のところ、通貨は必要ないだろう。
そんなやり取り中にエレトンたちが帰ってきたので、俺も夕食の焚火に取りかかるため、外に出た。
エレトンの言うことにゃ明日は雨なので、俺は余分に肉を焼いて亜空間にストックすることにした。




