幕間〈クマ〉二
私は目覚めた。私は生きている。私の体は暖かい。私の体に別の温かさが寄り添っている。
私は子を失った。乳も満足に与えることが出来なかった。
私は今、空腹から解放されている。だから乳房は張っている。放っておくと垂れ流してしまうだろう。張りの痛い乳首から舐めとろう。
三つ目が起きて火を焚き始めた。煙がこちらに来ると、人の仔が目を覚ました。
私は乳首の処理をしていると、人の仔が物欲しそうに見ている。私が乳首から口を離すと仔が乳首に顔を寄せた。
吸ってくれるのか?
違った! 噛まれた! 私の体は頑丈だし、痛みにも強いが、ここは別だ。嚙み千切られようとすると私だって驚く。驚いて飛び上がってしまった。
人の仔も驚いているようだ。
三つ目が私から人の仔を引き離し、何か話している。
「まんまーまんまー」
「ジニー」
ジニー。人の仔はジニー。
〈乳首は噛んじゃダメだ〉
三つ目の話が理解できる。
「ジニー」
〈指を出して〉
ジニーの指を三つ目が甘噛みする。ジニーが驚いて手を引っ込める。
三つ目が私の乳房を見ると、ジニーも私の乳房に首を向ける。
「ジニー」
〈****指を出して〉
ジニーが指を出し、三つ目が舌だけで、それを吸う。
「ジニー」
〈噛んだら、ダメ****。ちゅーちゅー****。ちゅーちゅー!〉
三つ目はジニーを私の乳房に戻したので、さっきとは違う乳首を舐めてはジニーを見つめる。ジニーは私の別の乳首を見つけ吸い付いた。今度は噛まずに吸引している。乳がどんどん減っていく。
三つ目が肉を焼き始める。それを交互に食べていると、ジニーが乳のみを休み始めた。忘れた頃に乳を吸う。私が狼を喰い。ジニーが私を喰う。なんと至福の時間であろうか?
三つ目は私が満足するまで狼肉を焼いてくれた。
三つ目達は移動するようだ。方向は川下。私は三つ目達の前に出て歩く。三つ目達は私に合わせてついてくる。
そうだな、この仔等を熊の里に連れて行こう。この子等ならば熊の里の序列の下位に組み込まれることは無いだろう。
もしも変な熊が増えていたら、里など捨ててしまえばいいのだ。
牡鹿山のヒノキの森が見え始めた所で夕暮れになり、夕食時間だ。
三つ目は昨日の夜のように火を焚き始める。石に狼の匂いを擦り付けるのは何のまじないであろうか?
私はジニーに乳をやる準備をする。乳首周囲の汚れやダニ・ノミを除去する。
ジニー乳首に吸い付き、飲み始める。私はそれほど空腹ではないので、ジニーの頭を舐めながら、この仔が寝込まないように注意する。熟睡しながらの授乳は良くないのだ。
授乳の終わったジニーを三つ目が座らせ、話をし始めた。
それによると、ジニーはジニー・ギンギという名であるという。
三つ目はザンザ・ガンガと言う名なのだ。
私に名はつけてもらえないものだろうか?
私は催促してみる。頭を寄せてすり寄ってみる。鼻息を吹きかけてみる。
〈なんだよ、まだ肉が足りないのか?〉
私は熊は頭を左右に回転させ拒否の意向を示すし、鼻息をかける。
〈*欲しそうだな? なんか欲しい?〉
私は人の肯定サインを行使し頷く。頷いて下に向けた頭を押し付ける。
〈お前、名前が欲しいのか?〉
私は小刻みに肯定サインを送る。
〈名前、名前かあ〉
「ジャニー?」
ジニーとの差別化を要求する。
〈****を多産できるかもよ?〉
仔は一人ずつ!
「じゃあ、ザニー?」
今一度ジニーと差別化を要求する。
「ゼナ」
〈どうだ? ゼナ?〉
採用! 私はこれだと思った!
「ゼナ!」
〈ほれ、ジニーも呼んでみろよ?〉
「ゼナ」
「ゼナ?」
〈ああ、この熊はゼナ! いいな?〉
いいな! ゼナ、私の名! 私はゼナ、ジニーの親。ザンザの親? ザンザ、母みたい。
ジニーはゼナとザンザの仔。ゼナとザンザはジニーの母。
育てていくのだ。別れる時は親離れする時だ。この仔なら私に発情して縄張りから叩き出すこともないだろう。




