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幕間〈クマ〉一

幕間は、まくま、と読んでください(笑)

 私は熊。熊の女王(自称)だ。

 仔を産むために門前川を遡って、静湖の畔の森で出産することにした。

 本来なら冬ごもり中に出産するのだが、二年前、冬ごもりの穴から出たところをクロハラオオワシに仔を攫われてしまった。鷲!絶対許さん!

 しかし、その年から発情期がずれてしまった。丁度、イケメン熊に出会えたので子種をもらい、また、仔を授かることが出来たが、今度は秋口に出産することになりそうだ。

 私の居た熊の里は熊のコミュニティーだった。しかし、仲の良い者の集まりという訳でもない。常に覇を競い、序列の革新に勤しむ奴らが増えた。そのコミュニティーは私が作ったのだが、平和になると同種での争いが絶えなくなってしまっていた。まあ、昔の私もそんなだったが。そんな場に時季外れに生まれた仔は先に生まれた子達にマウントを取られ肩身の狭い思いをするだろう。私は群れを離れることにした。

 私は比較的強敵が少なく、エサが不自由でない程度にある場所としてこの森を選んだ。

 しかし、それは甘かった。

 仔を一頭産み、連れ立って動けるようになったところを、魔狼四頭の群れに付け狙われることになってしまった。馬鹿な! この地に魔狼などいなかった筈だ。

 エサを確保すると横取りされ、乳をやろうとすると急襲され、水を飲むために湖畔に出ることもままならなくなった。

 乳の出が悪くなり、仔は少しずつ弱ってきていたところを八匹の魔狼に襲われた。馬鹿な! いつの間に倍に増えた? 私が蹴散らしている隙に仔は引きずられていった。その時の叫び声は今も耳から離れない。

 私は狼どもに復讐することを誓い、奴らを追うことにした。私は奴らより足が遅いが、休まず追えば捉えられるはずだ。それ以前に魔狼は一度狙った獲物を諦めたりはしない筈、私が弱ったふりをすれば、向こうから出てきてくれることだろう。魔狼は門前川に向かっている。

 狼の群れが分裂した? 二手から臭いがする。

 やがて煙の臭いを感じた。人がいるのか? なら、魔狼が襲う確率が高い。そこを襲わない手はない。

私は煙臭をたどることにした。やがて血臭も加わってきた。狼に加えて明らかに人の血も混ざっている。血臭のもとに辿り着いた。木が倒れている周囲は死屍累々だった。生きているものはいない。魔狼、そして、人。おびただしい血臭だった。

 私は目立つところに倒れている人に近づいた。肩から上がない剥き身の死骸だった。肩から上はすぐ近くにあったが、染料の匂いのする衣をまとっていたので胴体部分を引き離し、人の肉に食らいついた。

 久しぶりの食事と初めての人肉に夢中になり、すぐ傍にいる気配に気づけなかった。その姿を見て拍子抜けしてしまった。小さい! 私の最後の仔よりも小さかった。

 だから舐めてしまったのだろう。人の頭の死骸に近づく羽の生えたトカゲを追い払うため私は接近し立ち上がり得意の「爪落とし」を放った。

 トカゲは飛び上がり私の振りぬく腕を交わしながら、顔に迫ってきた。馬鹿な! 飛んで逃げるならともかく、その小さな体で私に飛び掛かるだと? 噛み砕いてくれる! 

 私は顎を開ける前に首横に強烈な打撃を喰らった。バランスを崩して倒れ、立ち上がった後も無様によろめき、なんとかトカゲから距離を取った。

 その時になって私は冷静になり、血の気が引いた。

 この周囲の魔狼を殺したものはどこにいるのだ? 私の喰った人を殺したものはどこにいるのだ? すべての者が断ち切られ、太い立木でさえ切り倒している。そんなことが出来る化け物はどこに行ったのだ?

 目の前のトカゲは二本足で立ち、威嚇をするでもなく、唸り声を上げるわけでもなく、静かにこちらを見据えている。見据えられた目にさらに畏怖を抱いた。顔の中央、単眼からの視線だった。

 私は身動きが取れず、覚悟を決めた。どうせ、殺したいと思っていた狼どもは殆んど死んでしまったのだ。私の目標はいつの間にか成就してしまっていた。ここで殺されても何の悔いがある?

 そう考え、私は体から力を抜いた。

 それを感じたのか、トカゲは地面の死骸に顔を向け、目を移した。その時私はトカゲの目が一つではなく三つであることに気づいた。

 死骸は地に潜りながら、空中から不意にあふれた土に埋もれていった。不思議な光景だったが、私はこのトカゲがこの周囲の死骸を作った殺戮者であることを確信した。

 トカゲはもう一つの小さな人の仔に近づき、何もない空間から衣を引きずり出しては丈を合わせたり回したりしている。

 二枚ほどの衣を人の仔に着付けたトカゲは私の方に注意を向けた。私は殺される覚悟をしたが、トカゲは狼の肉を拾って毛皮を剝き、私の食べかけの人の肉に放り投げた。食えということか? 生かしてくれるのか?

 その肉を食べれば、トカゲの意志も分かるだろう。

 私が肉を食べ始めると、トカゲは残りの狼の死骸を空中に消して? 埋めていった。

 やがて、トカゲと人は変なリズムで飛んだり跳ねたりしながら森を出て行った。

 私は背骨を骨盤から引き剥がし、ろっ骨や多くの上等肉を残した部位を咥えて、仔等を追った。

 双方とも私を警戒していることは分かっていたので、距離を取り、早さを合わせて、ついていく。仔等は時々私に振り返る。

 そして、三つ目の仔が私に何かを伝えてきた。何と伝えてきたのか分からなかったが、直接訊いてきた意味は分かった。しかし、なんと伝えて良いか分からない私は肉付きの骨を前に置いて誘ってみた。

 しかし、三つ目の仔は宙から狼の匂いのする肉を取り出して人の仔に渡してしまった。

 私の贈賄は失敗した。送られることには慣れていたが、送る方には経験が少ない、何かパフォーマンスを加えるべきだったのだろうか? しかし、こんな小さい仔にフェロモンとか有効なのだろうか?

再び歩き始める子等に私は付いていく。

 三つ目の仔は人の仔が目にする野の物資をいちいち確認しながら歩いている。極端に進行が遅い。

 三つ目は時々、火を空中に吹きかけたりもする。あれはアブを焼き殺しているのか。

 人の仔の方が私を気にするようになった。三つ目は私のことが気に入らないようだが、殺すつもりならいつでも殺せたのだから、このままついていっても大丈夫だろう。

 枯れ木の塊を三つ目がバラし始めた。仔等はここで火を焚くようだ。この小さき者が火を操るとは。

 しばらく、火を焚きながら、三つ目は黒い三角形の中から肉を取り出し、石の上で焼き始めた。肉から煙が上がり、良いにおいがする。私は知らず知らずのうちに涎を垂らしていたのを三つ目が見咎めて肉を二つ持ってきてくれた。生と焼けている肉だ。

 私は焼けた肉の方に思わず喰らい付いてしまった。経験のない熱さを口内に感じたが、それ以上に熱を帯びた肉の風味が鼻に抜けて堪らない。

 三つ目は私が満足するまで肉を焼いてくれた。

 仔等は火から離れて排泄をしているようだ。

 私は魔狼の匂いを感知した。川上から風が下り、匂いと共に魔狼の足音が聞こえてくる。

 私は飛び出し魔狼を迎撃する。立ち上がり「爪落とし」を振るう。後ろに二匹回ったが、仔等に向かったわけではない。ならば、前の魔狼をやるまで。後ろから牙を立てようが私の強靭な体は何ともない。

 前面の魔狼の脇を突き破ってやるのと同時に、後ろの魔狼二匹の殺気が無くなる。

 横に三つ目が立ち、前のまだ息のある魔狼を見つめながら、話しかけてくる。

〈****止め****〉

 私は魔狼の首の骨を折り、止めをさした。

 魔狼を殺したのは初めてだった。こいつら怪我をした仲間をかばうし、次々に別のやつが襲ってくるから決着をつけたことは無かったのだ。

 三つ目は狼の傷口から脇のろっ骨を引き剥がし、玉を取り出した。

 掌に載せて、私に差し出してきた。

〈これ**********?〉

 何を話しているのか分かるので食べてみた。

 何か体が軽くなった。はっきり感じる。

 三つ目が空中に狼の死骸を『埋める』。

 私は人の仔のいる方に向かって歩き始めると、向こうも浮きながら近づいている。

「まんまーまんまーまんまー」

 この仔も玉が欲しいようだ。

 三つ目が玉を取り出し、与える。そして、三つ目も食べる。

 私は人の仔の下に体を移動させると、背に降りてきて跨った。心地よい柔らかさが背中で動く。思えば前の子は一度も背に載せてやれなかった。

 火の近くで私が横たわると人の子も私の脇で寝始めた。

 私は人子の頭を舐めてやる。久しぶりに眠りにつくことが・・・出来そうだ・・・やっと・・・・・・


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