教会が完成すると余計な仕事が増えるようだ
帰り際に完成後のオークの教会に入ってみる。
なんでか、ネネとムニムとコルトン曹長もついて来る。
入って正面に大黒柱が見える。
回り込むと奥に祭壇のように石が積んである。
余った石材を積み重ねた角材のケルンのような祭壇だ。
これはこれでシンプル良いのだが、墓石のようにも見えてしまう。
俺は翼を手元が見えないように前に広げて、少し飛び出た石材をカットし、面の一つに空間座標切断で正三角形の掘り込みを刻んでみる。
今度はその部分に上下逆に同じ大きさの正三角形を刻む。
微妙な段差を持った六芒星が刻まれたことになる。
それをケルンの最上段に置く。
ふむ、字の読めない者もいるからこれでいいか。
俺は祭壇の前に跪き、手を合わせる(柏手は打ちません)
〈今よりこれをナビーネ神の印として、この教会に奉る〉
その瞬間先に掘った正三角形が光を放った。
発光はすぐに収まり、上端の尖った正三角形は光沢ある赤に染まっていた。
次に下側の正三角形が輝き、黒に染まった。
最後に六芒星の中央の六角形が輝き金色に染まるというより金箔が張り付けられたように光っている。
イメージカラーのつもり? ナビーネ?
〈ザンザよ。よくぞこの短期間に私の教会を築きました。その労を賞賛し女神ポイント100万を与えます〉
六芒星全体が輝くが、
〈待て待て待てーい!! それ、けた違い! 改めろ!〉
〈いかほどに?〉
〈1万で良くね?〉
〈1万、前例があるポイント数では今回の功労を賞することが出来ません〉
〈2万でよくね?〉
「な、何が起こっているのだ?」
コルトン曹長が何か言ってる。
「ナビーネ様が『女神ポイントを100万与える』と神託を降ろされているのですが、ザンザ殿が拒むというか、ツッコミを入れているというか」
〈100万! びた一文ゆずりません〉
「くれるんならもらっときゃ良いじゃねえか?」
聞えてるぞコルトン!
「後ろで気楽に言いやがって! 100万ふぉイントあったって、運に変換できるだけなんだぞ? 運10103、いや、手持ちのふぉイントで10120! どーすんだよ、こんなの! 俺を吉祥天にでもするつもりか?」
「ああ、ザンザ殿の言語障害が明らかに・・・」
〈吉祥天、あなた達の世界の女神、福徳や豊穣、繁栄などのご利益をもたらす女神ですね。運気がカンスト超えればザンザの繁栄も意のままでしょう〉
「カンスト超え過ぎてるだろ! そんな桁外れの運気、絶対周囲に影響出るだろ?!」
「ポイントって、運に変換できるわけ? どうやって?」
「女神様に祈れば、ポイント数100で1運を上げてもらえるのであります。なお、数値の指定、可であります」
「なんでい、そのまま死蔵しときゃ良いじゃねえか」
「採用!!」
俺は振り向いてコルトン曹長を指さした。
ビッと!
〈無駄です。この場で即ポイント変換です〉
「何、勝手にルール変えちゃってるの? ああっ、ふぉイントがすでに増えてる!」
〈と、言いたいところですが、やっちゃいたいところですが、ザンザに新しい能力を与えましょう。女神ポイントをそなたが自由に信者に付与する権限を与えるため、我が使徒に任命します〉
「んな使徒、お断りだああっ!!」
〈いけませんよ。教会内では神の力は絶対です。という訳ではありませんが、信仰される神の力は増大します。という訳でペチョッとな〉
「なにフェチョッっとしてくれちゃってるんですかああっ?」
「ああ、ザンザ殿がペチョッと使徒にされたであります」
「使徒になったらどうなるんだ?」
「100万の女神ポイントを他の信者にペチョッと出来るようになったであります」
「お前らなあ、完全に他人事だと思ってるよなあ?」
「いや、仮にそのまま100万俺に与えられても塩漬けしときゃ良いだけだし」
「ふむ、ポイント変換したければ教会に来いってこと? ムニム曹長?」
傍観していた准尉が訊いている。
「いえ、信者として祈ればどこでも変換OKなのは今までどおりであります」
「信者になればポイントで運が上がるってか? 斬新な信仰だが」
「相変わらずセコイ女神様でありますな」
「もっと言ってやれ、曹長!」
〈何が気に入らないのよー、分かったわよー、ポイント運変換能力も付けちゃう。ペチョッと〉
「だからフェチョっと付けてんじゃねえよ! フェチョっと!」
「フェチョっと信仰・・・」
「いや、准尉殿。女神様はペチョッとやっておられるのであります」
「これって権能だよなあ。なんてえありがたみがねえんだ?」
「気楽に感想入れてるけどなあ。コルトン曹長、てめえにゃ1万フェチョだあ!」
「あ、てめえ何勝手に!」
「フェチョ単位?」
「これでコルトン曹長も信者でありますな」
「お前らも漏れなく1万だああ!」
「ああ、ザンザ殿のノリがコルトン曹長のようであります」
「でも、鑑定持ちのザンザ殿でなければ確認のしようがないのでは?」
「そう言うと思ったわ! 即フォイント変換」
「ちょ、運気100越えたら、お祈りとかしなくなるんじゃね?」
「逆に溜め込んでいたらポイントを持て余しそうですな」
〈現状に満足せず、999を目指すのです!〉
「ナビーネは999を目指せと言ってる」
「はあ、上限は999なのですか、なら100越でそう慌てずともよいのでは?」
そうだ、上限は未だ上だ。
しかし、俺にはこの運100越えの影響について別の心当たりがある。
それはスキルだ。
スキルの中でたまに自然発生的に生えてくる奴がある。
これが今後、運ポイントが上昇するごとに頻発していくのではないかという懸念だ。
ノリで10000与えてしまったが、逆に十万とか振らなかったのはその懸念に思い当たって理性が働いたからだ。
変にスキルの多いオークとか強くなってしまうかも、だからなあ。
「あのう、さっきから入り口がチカチカしてるのですがあ?」
と言って覗くのはサッサ伍長だった。
そうなのだ。
ありがたみのある後光のような光ではなく、このシンボルマーク的な紋様はナビーネの会話と共にフラッシュのような光を連発しているのだ。
「よく来たなサッサ伍長、君にもフェチョっとしてあげよう。1万フォイントのご祝儀だよ」
「ザ、ザンザ殿、笑顔が怖いんですけど? フェチョ?」
「怖くはないさ。ちょっと試しに女神フォイントを運に変えるだけ、これがホントの運試し」
「女神ポイントのことだよ、伍長。使徒になったザンザ殿がペチョッと1万付けてくれるんだ」
「ホント、ありがたみがねえな!」
〈失礼ねー! 教会オープン記念だから、いーじゃない!〉
同時にピッピッピッっといった具合に金色六角形が光る。
なんか、ホントにありがたみが無いんですけど、その光かた。