ツルギたちが空間魔法に興味を持つのは別空間をキャンセルするためのようだ
朝食前のお祈りをして、100ポイント稼いでから屋根を完成させるため外に出る。
ちなみにナビーネとは最小限のやり取りしかしていない。
ツルギの一家がいるうちはナビーネのことは秘匿する算段だ。
屋根を仕上げるために材に魔法陣を転写して、水除け作用を付与する。
と言うより屋根材の縦側中央に水が集中するようにし、張り合わせた部分に水が浸透しないようにするのだ。
午後になって屋根は完成。
しかし、ドアや窓は無いし、壁と屋根の間はまだ吹きさらしのままだし、内装に至っては全くの手付かずだ。
完成には程遠い。
竈が完成しているから次はダイニングテーブルとイスかな。
その前にオークの教会を見に行くか。
しかしここでナビーネの天気予報だ。
夜半から雨だと。
〈しかも、雷を伴い強く降るでしょう。最初の雷雨のような雹まで降ることはないようですが〉
あのエアテント(仮)水には強そうだが風には弱いだろうなあ。
なんせ全くペグ止めしてないし。
東屋でも建ててみるか。
洋風で言うところのガゼボ、掘っ建ての柱と屋根だけの日よけ雨除け建築物だ。
誰も見ていないのを確認して、亜空間に入り、6ⅿ四方の大きさで棟上げまで組み上げる。
新築で使い切って資材が無くなった空き地に、土台の石材を設置して・・・、置石じゃダメだな。
柱だけの建物だから土台はしっかり作らなきゃ。
という訳で地面を土魔法で掘り込んで、石材を深く埋め込み柱がそこに組み込まれるように石材に窪みを作っておく。
仮組の東屋を真上から降ろし支柱が石材の上にハメて固定する。
本来なら支柱や梁を叩き込みながら調整するのだが、ザンザ工法では重力魔法でバランスを見ながら各継ぎ目や掘り込みに押し込んでいく。
水平器は無いが座標測定で歪や偏りが無いのを確認したら、野地板を張っていくか。
カン、トンと釘をハンマーで叩き込んでいく。
このハンマーは廃棄剣の刃部分を落として柄と鍔をげんのうとして使っている。
結構使えるもんだ。
その音を聞きつけてヤイバとハガネが下に来ていた。
注意を下に向けると話しかけてきた。
「こりゃ何建ててんだ?」
「あずヴぁや」
東屋と言いたかったのだが。
ヤイバが訊き返す。
「アズバヤ?」
「ガゼヴォ」
「ああ、ガゼボか」
「茶会でも開くのか?」
ハガネ、野外の茶会を見たことあるのか?
一応、王族だったな。
「今夜の降雨対策」
「今夜? 降るのか?」
「お前たちのテント、降雨に強いのか?」
「俺たちのための雨除けか?」
「確かに豪雨だと、水気を含んであのテントは潰れるからなあ」
「手伝うことはあるか?」
「そこに置いてある板を取ってくれ」
「この長いのか?」
俺はハガネから板材を受け取って作業を続ける。
ヤイバとハガネが手伝ってくれたので、工期は短縮でき、その日のうちに屋根板まで張ることが出来た。
水除けの紋は後日だな。
東屋の下にテントを移動して、周囲にロープを一周回して風対策をし、今夜の天候に備える。
これで今夜は何とかなるだろう。
やや遅い夕食は少し豪勢にした。
明日は雨が何時まで降り続くか分からないので狼たちに食い溜めさせるためだ。
夕食が終わりかけてヤイバに話しかけられた。
「お前さあ、ホントは―――」
俺は手を上げて話を止めさせ、空を仰ぐ。
ナビーネの予報通り就寝前には雨が降り始めたのだ。
「ツルギとカルナはどうするのだ?」
その横でツルギとカルナは寝袋代わりの毛皮を東屋の下に運んでいた。
東屋はテントより大きめに建ててあったので、ツルギとカルナは東屋の下に入ってはいるが、テントには入らず、そのわきに寝るようだ。
狼たちもちゃっかりその脇を固めて一緒に寝るようだ。
ヤイバはもう話しを続ける気は無くなったようで東屋の下に移動していった。
そりゃまあ、気づかれるわな。
俺は一日で作った雨に濡れて暗い中に建っている東屋を見ながらため息を吐いた。
翌朝の朝食は多めに作ったマロンのシチューをツルギたちにも配って簡単に済ませた。
雨はまだ降り続いていたので、俺は新築の家の中に入って屋根の裏側をチェックし、雨漏りや野地板にシミが無いのを確認して安堵する。
東屋の下に行くと狼たちが顔を上げ横になったまま尻尾ではたはたと地面をたたく。下から屋根を見上げると何カ所か雨漏りがあるようだ。
特に軒天(屋根の軒先の裏面にある天井)部分の浸透が多いな。
雨が止んだら早速屋根板に雨除け(実は集水)の魔法紋を付与しよう。
東屋ではない方の新築の家の中に入る。
ダイニングテーブルのセットを考えていたが、調理台の方が先か、いや、窓をどうするか旧屋のあれは実質雨戸だが、ガラスなどないからアレが正解なのか、などと思案していたら、ツルギが入り口に立って壁をコンコンとノックしていた。
さて何の話があるのやら。
「話がある」
「何の?」
「お前の収納だが、それ、空間魔法なのか?」
まあ、バレるよね。
「・・・そうだけど」
「まあ、そう警戒するな。その空間魔法の取得方法や使い方を知りたい。教えてもらうのは都合悪いか?」
「生まれつきの特典だった。空間を使いながら敵を倒すと、種類が増えて使い勝手が良くなった」
「つまり、取得方法は分からないと?」
「それはこちらが聞きたい。元々なかった魔法やスキルを体得したことは?」
「ハガネの水魔法とかがそうだな」
「故意に? 偶然に?」
「必然と言うべきか。あれは大ウシガエルに取り込まれた蛟精をハガネが助けた時に生えてきたんだ」
「他に水属性を持ってる人は?」
「俺が4属性を持ってるが、魔法は苦手でな。水の中で息が出来たり、炎に撒かれても火傷しなかったり、土の中で動けたり、風は少々変わってて風の動きが見えたりといった対処的にしか使えないんだ」
「先天的にそうなのか?」
「いや、ダンジョンを攻略した後、ギルドの鑑定器で調べたら増えてた」
そうか~ダンジョンか~あるあるだな~。
あ~、ギルドで調べることできるんだ~。
「じゃあ、移転の罠の多いダンジョンを攻略すれば転位魔法とか生えるのかな?」
「そういうトラップは聞いたことが無いなあ」
希少ダンジョンというより、隠しルートに存在するのではなかろうか?
まあ、魔法取得と言えば魔真珠だが、その属性持ちの魔真珠を食えば身に付きやすいとか言ったら、俺の魔真珠が狙われるかも知れないな。
「とりあえず、互いの収納を比較しようではないか?」
「違いを精査しようってか」
「そんなところだ」
雨の中、東屋の下でヤイバたちと合流し収納を比べてみた。
結果、ツルギ一家の収納は身体スキルであり、俺の収納は魔法スキルであることが分かった。
ヤイバは左手に剣のような長細い物質に限って収納でき、ハガネは左胸にポケットのような入り口がありドラム缶一個分の大きさのモノなら何でも収容でき、ハギは腹にポケットがあり、食料なら馬車1台分くらいは収納能力がある。
俺の見立てではこれは同化スキル、隠蔽スキルの一種であり空間魔法ではないと思う。
収納の入り口部分に取り込みたいモノを接触させると、身体部分と同化する。
同化物質は隠蔽されながら縮小され、体内に取り込まれるって感じかな。
俺はヤイバの収納から取り出された剣を再収納する様子を身振りでそう解説しながら、これはこれで凄いスキルだと思った。
「だから、これはスキルなんだ」
ヤイバの収納に剣を両手持ちも剣を出し入れしながら俺は解説する。
「しかし、鑑定すると収納魔法と出るんだが?」
「オド(MP)を使うから判定でそうなるんだろうけど、実質は身体スキルの類いなのだろう」
「お前の収納はどうなのだ?」
「ああ、ヴォニータが来たから助けてもらうか」
てとてととモニータが東屋に走って来た。
「ザンザ! またチューケイ?」
「そうなんだ」
「ザンザの収納は、亜空間と言う名が正式なのね?って、収納持ちなのバレちゃったの?」
「そうなんだ」
「あ~らら、そんで、亜空間はザンザ専用の空間で、ザンザ以外は触れたり中に入れたりはできない」
「こんなの」
俺は三角形の黒い平面に見える亜空間の入り口を出現させる。
大きくしたり小さくしたり、また、その逆三角形を大きくして1辺がヤイバの体に触れるようにすると、ヤイバはその辺に突っつかれ押しのけられた。
俺は足元にあった石を三角の中に放り込んで、三角に手を入れてその石を取り出して見せた。
「こんな感じだ」
「これが本物の空間魔法か?」
「何で三角形なんだ?」
「通常空間に入り口の座標を設定するのだが、その際、辺の数を三角形で設定するのが最短時間になるんだ」
三角を消す。
「それで、空間―を操って何がしたいのだ?」
「別世界異世界とつながった空間の穴を塞ぐ術を知りたい」
「それはどこにあるのだ?」
「今はまだ、そんなものは無いはずだが、それを過去に作った者がいるし、今後もそんなことをする者が現れるかもしれない」
「理論としては簡単だ」
「座標の一部分をキャンセルすれよい。それを作った者が魔術紋章を使っていたのなら、紋章の文字を消すか、上書きすればよいの」
と、モニータに話を続けてもらう。
「キャンセルするためには?」
「座標ポイントを別の空間魔法で包み込む。吸収型の空間魔法があると思う? ザンザはまだ使えないのね。あとは、高エネルギー型の魔法でポイントを強制解除する」
ツルギがツバキをちらりと目線を向けたのを、俺は見逃さなかった。
ツバキが持っているであろう、光系のスキルなら可能なのだろうな。
雨が止んできたので、話を切り上げ、各々外に散らばった。
俺は、国境のオーク教会の屋根の進捗具合を見に行こうかな。