幕間〈ツルギ〉
俺とカルナは今夜も外でビバークだ。
狼たちの温もりに包まれてカルナも快適な様子だ。
これだけ安心して寝ている妻を見るのは初めてではなかろうか?
普段の夜は一番(家族の中では)神経質に体を起こして周囲を気にしていたのだが、夕べと今夜は熟睡できているようだ。
コナタを孕んだ頃から妊娠中はせがまなくなってきたのだが、今は更にその気が無くなっているようだ。
二人きりではなく周囲を狼に囲まれているせいかもしれないが。
変わった狼たちだ。
媚びないで、いい距離で俺たちに接してくれる。
単一ではなく、複合の群れだからだろうか。
あのザンザと言う竜もどきの躾が良いようだな。
今まではカルナを見た野獣は警戒態勢に入ってしまったもんだが――
――熟睡してしまったな。
狼たちが起き始めた。
包まっていた毛皮から顔を出すと、ザンザが焚火をしているのが見える。
塩をまぶして焼いているのはあの変に美味しい魚か、ドロンゴだったか。
うん? おかしくないか?
あの魚、生だよな。
あいつ、いつ川に獲りに行ったんだ?
早朝に漁に行ったりしてたら狼たちが、ついて行きそうなもんだが。
まさか、あいつも収納できるのか?
・・・家族会議だな。
その日はヤギの放牧には付き合わないで狼のたちの狩場である多門川と門前川の合流地帯に家族を集めた。
ダイゴはエレトン家に置いて来ているが
モニータとハギを別行動にしたのは不自然だったが仕方がない。
「父者が招集かけるって珍しいな?」
「何か分かった事でもあるのか?」
「あの、ザンザって言う竜種、収納持ちかも知れん」
「やっぱり、そう思う?」
「気づいていたか、ヤイバ」
「あの新築の家な、あれだけの木材の調達はあの家族と人数じゃ普通は無理だからな」
「重力魔法使えば出来ないことは無いんじゃない?」
「ツバキ、あの周辺にアーランドヒノキは無い。東の山地からの移動となると1本ずつ運ばにゃならん。材の加工に何日もかかるだろう。あのぶっとい角材は全部同じ時期に切り出したもんだ。あの一族で加工できるものではない」
「だから、収納して運んだってか?」
「ああ、しかもかなりの大容量を扱えると見た」
「ガウ?」
どうする? と、カルナは言いたいのだろう。
「しかし、焦ることは無い。しばらくはカルナとここで養生だからな。敵意、害意がないことを認識させて信頼を得よう」
「狼の扱いを見る限り、いい奴みたいだからな」
その狼たちは俺たちより川岸に近い位置で草むらに身を潜めている。
川岸を行き来する獲物を待ち伏せしているのだろう。
「ここに俺たちがいると狩りの邪魔になるかも知れん。引き上げるか」
「どういう狩りをするのか見てみたいもんだが」
そう言いながらも、ハガネは立ち上がって牧場の家に向かい、俺たちもそれに続いた。
家に近づくと妙な音が聞えてくる。
カン、トン、という二拍子。
新築の屋根の上でザンザがハンマーを振るっている音だった。
頭の細い奇妙なハンマーで釘を一撃で打ち込み、止めに軽く板に深く打ち込む、それをリズム良く繰り返していた。
既に片屋根の上の半分以上に板が張られていた。
しかし、横向きに板を並べていたら雨漏りするんじゃねえのか?
板を取りに降りてきたザンザにそれとなく訊いてみた。
「あれは野地板、あの上に縦に板をならヴェ・・・揃えて打ち付けるんだ」
「なるほど。しかし、木の屋根か、長持ちしないんじゃないのか?」
「そこは秘策がある」
「何だよ、勿体ぶってんなー」
「解説が億劫だ。実際に屋根張りでね」
見せてくれると言う事か。
ああ、こいつは言語に難有りだったんだなあ。