二家族で水浴びの後、情報収集のようだ
長らく休載で申し訳ありませんでした。
まだ本格的に連載できる目途は立っていませんが、地味に続けていきたいと思います。
ツルギ一家の男衆は遅く出発する山羊の放牧に付き合って、二手に分かれて行った。
女衆と子供は――、ああ、水浴びか。
俺も付き合うのね。
マロンの持ってる籠が洗濯物、いつもの倍以上あるのはツルギ一家の分もあるのか。
オリパが持ってる籠は着替えが入ってるのか。
何時もの河原の大きな岩の上で、マロンが全裸になると次いでカルナが脱いだ。
全身艶艶ピカピカの短い体毛で覆われた身体は40過ぎとは思えない張りのあるカルナ。
「力」「耐」900以上は伊達じゃないと言う事か。
そして身重の突き出た腹、ものすごく違和感がある。
と、見ている間に川の冷水に飛び込むカルナ。
「があー」
とか叫んでいる。
それを見たツバキが急いで全裸になって川に飛び込む。
「きゃ、やだ、冷たい! これダメ、母者、直ぐ出て!」
ツバキがカルナの腕を掴んで岩の上に連れて行く。
「奥さん無茶するねえ」
とか言いながらマロンが岩の上に引き上げようとするのを俺が重力魔法で補助する。
一瞬軽くなった体を不思議そうに見ながら岩の上に上がったカルナを体育座りさせ、後ろに腕を伸ばして上体を支えた状態での大きなお腹に、俺は温水を指シャワーをかけながら透視をしてみる。
「胎児は大丈夫そう。羊水も胎ヴぁん(盤)も異常はない」
「とは言っても妊婦の状態をじっくり見たことが無いんだけど、こうして温めてみると安定してるみたい、だって」
モニータが脱ぎながら俺の念話を伝えてくれる。
まあ、さっさと片付けて行こう、というわけでカルナからお湯シャワーをしていく
人肌(温度)から50度くらいの温度を上げながら頭を洗い流していく。
頭皮にはシラミ・ノミの類は見当たらないな。
狭いところで寄せ集まって寝てる一家だから、寄生的な意味で何かしらいるかと思ったが綺麗なもんだ。
立ち上がらせて最後に形の良い尻を洗ってやると、ガシガシと俺の三日月状の頭をなでられた。
一丁上がりのカルナは自前のタオル(日本手拭い状の大きな布)で体を拭き始める。
次は俺が浮き上がってやや高い位置からマロンをシャワーする。
日本手拭いよりは厚みのある布で体を垢すりして、仕上げに髪を高温で洗浄のいつもの流れだ。
オリパは脱ぐ前に洗濯をしているので、ツルギ一家のツバキからシャワーしていこう。
手順はモニータが説明してくれているので、洗った後は岩の上に仰向けになってもらってツバキの髪を剝きながら髪を洗っていく。
JCと言うよりも体操選手のような筋ばった体してるな、こいつ。
この体で「速」700出すのか。
「どうやって水魔法をお湯に変えてるの?」
と、言う、ツバキの質問にマロンが答える。
「あたしはザンザがやってるのを真似しようとしたら出来たんだけどね。ザンザの言うことにゃ、水の小さい粒をほんの少し震わせるように意識すると熱くなるんだってさ」
「うーん、ハガネ兄者にゃ無理そうだね」
「やってることは単純だ。意識してトライすれヴァ、そのうち出来るようになるさ」
「そういう細かい努力よりも身体能力を上げて対応しちゃうのが、うちの家訓だからねえ」
身体能力と根性で冷水に耐えちゃうのね。
納得の脳筋宣言だな、ツルギ一家。
マロンが洗濯の仕上げをしている間にオリパのシャワー洗浄を終えて、ハギとモニータに続く。
ハギの体はモニータのほぼ倍の胴回りだが、明らかに締まりがある体だと言うのが分かる。
尻と肩の盛り上がりがツバキに通ずるものがある。
金太郎女の子版だな。
言わないけど。
俺がシャワーをかけてる前でモニータと洗いっこをしている。
「ザンザもっと熱く!」
「やだ、熱い熱いい~」
熱いのが良いのがハギで、モニータは温い方が良いか。
右手の湯を熱くハギにかけて、左手を温くしてモニータにかけて問題解決。
良し、次はコナタか。
俺が湯をかけると、ハギが垢すりをしてくれる。
面倒見のいい次女、いや?女だな。
〈ハギの頭だけ拭いてやれ〉
「うん!」
濡れたハギの髪がザンバラになっているのを肘で拭いながらコナタを洗っていたからだ。
モニータが乾いた古布でハギの頭を拭って水気を取ると「ありがと」と良い顔で礼を言っている。
「そーそー、ジニー、ダイゴ君を浮かしてあげててね」
腰の高さの位置にジニーがダイゴを反重力で浮かせている間にマロンがお湯をかけながら二人の幼子を洗っている。
洗濯が終わったオリパが脱ぎ始め、洗濯物をマロンが仕上げて水を絞っていく。
ちびっこ二人を洗い終え、ツバキがふき取ってるので水のかからない離れた岩場で、体を洗い終わったオリパの髪を剝きながらお湯で洗い流してやる。
最後にもう一度熱めの湯をマロンに掛けてやる。
大分、身体に張りが戻って来たな。
その割には太ってはいないみたいで、良い事だ。
夕方には帰ってきた男どもの行水に付き合う。
ツルギ→マッチョ、ヤイバ→細マッチョ、ハガネ→太マッチョ、エレトン→丸太、ガトー→極細マッチョ。
男の体なんて、こんな評価で十分だ。
その日の夕食は焚火台を使わず地面に火を焚いて、その余熱で芭蕉の葉に包んだ肉やタロイモを蒸し焼きにするという南国風の料理をツルギたちが振舞ってにぎわった。
夕食後、ヤイバと一緒に後始末だ。
カルナとツルギは昨日と同じく狼に囲まれて毛皮に潜り込んで既に寝ているっぽい。
燃えガラを集めながら、軍について訊いてみた。
「ガイラバルト軍か?」
「どういう組織なのだ?」
「大別すると、国軍、傭兵団、運輸局の3つに分けられる。ただし近年は人事交流が盛んになっていると聞くので、変わってきているのかも知れないが」
と、ヤイバは注釈を入れて説明し始めた。
「まず、国軍だが旧ティーマー帝国軍とガイラバルト軍、騎士団を含む合併組織だな。防衛戦術を担う普通の軍組織だ。カリエラ婆様が仕切る3万程度の兵たちだ。傭兵団は元レナード軍と難民の混成軍、リューキ婆様が鍛えた兵たちだな。今はトガーの軍と協力してて、実質ガイラバルトとトガーの連合軍となって、旧神聖教団を西に追いやっていて兵の規模は不明だ。運輸局というのは編成の変化が激しい組織でな、元は兵站を担う補給部隊だったのだが、中央から物資を輸送する任務が今では地方で物資を都合して中央や他方への運輸に逆転している」
「地方から搾取しているのか?」
「いや、地方に屯田兵を派遣してそこで農耕や普請工事、工業を普及させて産業を近隣に拡散させる組織だ。今では新都より地方の方が発展してしまって、そのせいで特にトガーとの国境沿いに民が集中しつつある。そこでは産業都市が著しく発展している」
「結構な大組織だな。カリエラという女帝だけで仕切れるのか?」
「実質の指揮権は国軍が3人の将軍、傭兵団に軍団長、運輸局は局長、この5人が仕切ってる形だ」
「元帥と言う職はどういう位置づけなんだ?」
「将軍職の無かった頃の旧軍の将たちがリューキ婆様を祭り上げるために作った要職だ。当時は大将が最高職で准将以上の職に就くには貴族議会の承認が必要だったのだが、貴族共は婆様の功績が多分にあったにもかかわらず昇進を認めなかった。だが、婆様の指揮下に入りたかった旧軍の上級将官は極秘に独自の司令部を作って婆様に元帥と言う職位に就いてもらって事実上、貴族議会から軍を切り離したんだな」
「リューキ殿は当時は将より下級職だったのだろう? 旧軍は何を評価したのだ?」
「当時婆様が率いていたのはレナード公国の敗残兵だった。その兵を使って婆様は僻地に飛ばされる度にその地を開墾していったのだ。婆様が兵糧と兵站を運用するようになって軍は戦地で飢えなくなり、軍内部で婆様を信奉する者が増えてしまったのだな」
「それ以前、兵は戦地で飢えていたのか?」
「ふん、貴族に戦場を仕切らせたら、私兵のみに補給をして、軍の兵は派遣時の物資のみで戦わなといけなかったようだからなあ」
「その頃の敵は何処だったのだ?」
「トガー“神聖”帝国だ」
「現在は仲が良いようだな?」
「当時から掠奪をしなかった国軍やレナード兵はトガーの占領地でウケが良かった。すぐに領地から国境に戻って行ったのも清々しく見えたのかもな。実際は別の戦地に転戦していただけだったのだが」
もっと、色々訊きたかったが、モニータに中継させないと言語に限界が来てしまうなあ。
モニータはずっとハギと一緒だし、こちらに付き合わせるのもなあ。
俺が本当に聞きたかったリューキ元帥の容姿や所在は、もっと情報収集に時間をかけなければならないようだった。