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居ついてしまうようだ

入れるものを入れたら、出すものを出さないといけない。

厠の前には女子の短い行列ができていた。

一緒に並んでいるオリパはあからさまに不機嫌だ。

まあ、13人で一基のトイレは確かに少ない。

ツルギ一家の男は川の中で済ますようだが。

気を利かせてかなり離れた所まで遠征しているのが気の毒だ。

今日だけのことだから我慢していただきたい。

・・・今日、出て行くよな?

ここに留まる理由はないよな?

「あー、エレトン殿。実は妻がここを偉く気に入ってしまった。しばし、滞在させてもらっても良いだろうか?」

俺の心配は杞憂に終わらなかった。

「あの、新築は――」

「あー、いやいや、そんな厚かましいことは言わない。その先の更地を借りれれば良い。あえて言えば、我らの扱いはあの狼たちと同じで良いのだ」

「うむ、わしらも元はここを間借りしていて、先代が放棄したのをいいことにそのまま居ついている者だ。住み暮らしたいと言う者を拒むことは出来ませんが、ここに永住する訳ではねえんでしょう?」

「一先ずは妊娠している妻が子を産み、産後安定するまでの話と思っていただきたい」

「それが理由じゃあ断りにくいが、一応家族で話をしてから今日中に返事をしやしょう」

腹を決めなきゃならないのは俺の方になりそうだな。

このままここに留まっていたら大容量の「収納」持ちであることが知られてしまうだろう。

仲間になることを強制されたら断るのは難しい。

俺とジニーだけなら離脱は簡単だ。

弓の射程外もしくはツバキの光波粒子の死角から空に逃げれば良い。

しかし、ゼナも一緒となると逃れることは出来ないだろう。

しかし、半年後に同伴を強要されるとして、俺等が冷遇され不利益になるだろうか?

今のところツルギ一家は善人に見える。

何より、ジニーにとって良い影響を与える関係に成りえる。

旅の同伴に付き合う選択肢もありか。

となると、問題はナビーネとその布教か。

〈ナビーネ、あいつら何か信仰持ってる感じ?〉

〈よくも暫くないがしろにしてくれましたね?〉

〈モニータは祈ってただろ?〉

〈全員で祈って欲しいんですけど〉

〈コナタの奴に張り付かれてたし、家に戻ったら即落ちだったもんなあ、俺〉

〈まあ、どこぞの宗教みたいに細かい祈禱手順を儲けてるわけではないのですから、コマメに祈ってくださいよね? で、ツルギ一家ですが、典型的な無宗教無神論と思われます〉

〈布教に巻き込むと向こうから逃げてくれるかなあ?〉

〈こんな神と宗教があるのだと見せておくだけで良いのでは?〉

〈改宗を要求されたり、宗教弾圧を受ければその時に逃げればいいか〉

俺とジニーの都合を見極めておいて、エレトン一家の家族会議に加わった。

概ねツルギ一家をここで受け入れる方針で意見は固まった。

トイレを今日にも増設することを俺が提案するとオリパも反対しなくなった。

そしてやはり最後に「ナビーネ教」の扱いが懸念となる。

「ナビーネの見立てではツルギ一家は無神論者らしいのだって」

モニータに代弁してもらう。

「なので、隠れながら礼拝祈祷をしよう」

「バレたらどうする?」

「俺たちの信仰に決められた規則は無いから、信仰を否定されれば礼拝的な行為を休めばいい。いきなり先住者である我々を弾圧まではしないだろう。ツルギ一家は相当の力量を持つ手練れだから、執拗に改宗を要求して来るなら、ザンザが使徒であることにして追放してしまえば良いって、それはダメっ!」

「予想できる事態の一つだってことだ」

「追放は論外として、あまり隠してても邪教と思われるんじゃないかねえ? そんな疑いを持たれるくらいならオープンにした方が良かないかねえ」

「今んところ女神様のことは俺たちの心持でどうにでもできる。もう一つの問題は軍への報告だ。黙ってる訳にもいかねえが、ツルギ一家の意向がどうなのかも不明だ」

「それこそ、滞在を認める条件の中で確認しておきゃあいいんじゃないかい」

「こんななところか、では相手さんと話を詰めるかな」


エレトン一家はツルギ一家を受け入れることでまとまった。

滞在場所はやや上流の俺の作った更地。

トイレは今日中に造るが場所を協議すること。

食料は互いに譲り合うが、今後は食事は別にとる事。

狼やゼナの獲得した獲物はザンザが分配すること。

そして、

「キスクルトの軍からあなた方のことを見たら報告するように言われとるんですが」

「知らせるのは勝手だが、わざわざキスクルトまで足を延ばすのか?」

「軍に連絡することはタブーではないんですな? ザンザが国境警備隊に報告するのは不都合ですかな?」

「はて、国境警備隊? 何か記憶に触れるものが・・・」

「イノキヴァオーク?」

「あーあー、あの夜這い大好きな牝豚かあ」

「ガルルルル」

カルナが殺気立っている。

父者ててじゃ、豚相手に浮気でもしてたか?」

「そうじゃねえよ。奴らには閨を随分荒らされたからなあ、昼の鍛錬で足腰立たんように扱いてやったもんだが、夜になると復活して襲ってくるんだよなあ」

「ネネ准尉が子種を得られなかったと後悔していたよ」

「ネネ! いたなあ、そんなの! 獣化できないんだから全裸になるなって、いつも簀巻きにして転がしておいたもんだが」

やはりあの准尉も若いころはやらかしていたようだな。

「ああいう輩だから、やはり知らせない方が良いと思う」

このツルギが懲りているのだからよっぽどだな。

「ロッド・ロンヴェルドという初老の士官もいたが?」

「ロブ兄貴、まだあそこにいるのか?」

「グゲー」

「嫌そうだな。旧帝国の帝王寄りだからか?」

「いやー、兄貴は真っ先にオーク共に手籠めにされてたからなあ。結局あのままあそこに居ついちまったのか。一番節操無かったからなあ」

ロンベルト准尉、忠誠心ありそうだったけど、この夫婦の評価はイマイチのようだな。

「じゃあ、軍への報告は無しと言う事ですかい?」

「ああ、どうせカルナの産後が安定すれば新都に向かうことになる。俺からの事後報告で良いだろう。それよりも、エレトン殿の都合はどうなのだ? 軍へ報告すれば調査名目の遠征で、そこそこの物資の調達もしてくれると思うが」

「今は軍は遠慮しときますぜ。こちらも訳ありで、ほとぼりを冷ましておかなきゃならない時期なんで」

「もし軍関係者が来たら、俺等が黙ってるように言っていたと報告すればいい」

話しはまとまって、暫くツルギ一家はここに滞在することになった。

俺は現存のトイレのすぐ近くに縦穴を掘って、犬小屋の背を高くしたようなトイレ棟を建て、中に床板を張って便器や便座を作った。

細めの角材と薄い板で丁寧に組み上げている。

いずれ4人程度で持ち上げて移動しなければならないので、重く作るわけにはいかない。

その新築を女子用にし、古い方を男子トイレにすることになった。

少しモメたが。


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